奴隷 ④
私たちは”乱獲”などと簡単に言っていますが、普通は、そうはなりません。
自分たちの武器や野営装備を持った上で、人間一人で持ち運べる肉や素材の量なんて微々たるものなのですから。
乱獲しようと思って乱獲できるものではない、とエテルナさんが呆れた表情で言っていました。
稼ぎが違うのは当然と言えば、当然でしょうね。
事実、私たちはとんでもなく儲かっているそうです。
私はおカネというものの価値が今でも実感できていないので、テツさんに全て任せてしまっていますから、どういった状態を「儲かる」というのか実感がないのです。
ただ、テツさんが「良い感じ」だと言っているので、そうなのでしょう。
私たちに魔法道具の鞄を持たせてくれた兄様に感謝です。
馬車の積み荷を狙った盗賊なんかが襲ってきた日には、テツさんは喜々として盗賊を狩るでしょうし、さらに収入が増えることでしょう。
私たちは高価な武器や装備品を身につけるわけでもなく、最初にエテルナさんに紹介してもらった宿に数日ずつ泊まるだけで必要以上のおカネを持ち歩いたりもしないので、ギルドへ預けているおカネがどんどん増え続けるだけになっているそうです。
ギルドにおカネを預けているのは、「重くて邪魔だから」だそうですよ。
戦争の噂が有っても逃げずに残っている冒険者の間では私たちの噂が広まっているらしく、「そろそろ釣れるかな」とテツさんは悪い顔でニヤニヤしています。
何が釣れるのか、といえば、冒険者ですね。
1匹目の魚が釣れれば、後は芋づる式に釣れるのだそうです。
冒険者を釣って、どうするのでしょうね?
今回の依頼書の束を消化して王都へ帰ったら、私たちは拠点の建物を購入することになっています。
テツさんが絶対条件として譲らなかった浴室付きの建物ですよ。
オフロは良いものだとテツさんが力説していましたから、そうなのでしょう。
購入する予定になっている建物は、ギルドの裏口を出た斜め向かい。
ギルドの裏にある解体作業場の隣に建っている大きな石造りの3階建ての建物です。
元々は魔獣素材目当てで他国から進出して来ていた商会の建物だったそうですよ。
エテルナさんが教えてくれた話では、大きな倉庫と小さな鍛冶工房を備えていて、部屋が20室ほども有って厩舎も有るそうです。
馬たちを手元に置いておけるのは良いことですね。
すぐに顔を見に行けて安心です。
前の持ち主は内戦の不穏な噂が流れ始めてから店を畳んで逃げ出した商会なので、空き家になってもまだ日が浅く、建物の痛みも少なくて程度は良いそうですよ。
テツさんはかなり良い値段だったと不満そうでしたが、良い値段があるなら悪い値段もあるのでしょうし、良い値段の方が良いのではないのでしょうか。
順調に計画を進めているように見える私たちですが、部分的には進展が無く、テツさんがうんうんと唸っていることもあります。
王都へ帰った際に、あちこちの工房を回ったり情報を探したりもするのですが、ドワーフ族が見つからないのです。
抱き込んでしまえるドワーフ族が見つからないことには、兄様とテツさんで進めている“片方の計画”が進まず、とても困るのだそうです。
居ないものは仕方がないので、気長に情報を求めるしかないのでしょう。
それにしても、良いお天気ですね。
今は冬の季節に入りましたから少し肌寒いですが、すっぽりと被ったフード越しにもポカポカと温かい日差しが眠気を誘います。
テツさんは少し暑いのか、マントを脱いでシャツの袖を腕まくりしています。
ぽつぽつと立木の姿は見られるものの、爽やかな風が渡っていく見渡す限りの野原。
土の地肌が剥き出しになった部分がちょくちょく見て取れるのはスライムが居るからでしょう。
かっぽ、かっぽ、と馬の蹄の音が続き、これから血生臭い殺戮をして回るとは思えない長閑な空気に弛緩していると、私たちの進行方向から数台を連ねた馬車の一団がやってきます。
接触事故を避ける為でしょう。テツさんが私たちの荷馬車を街道の端へと寄せて、道を譲って停めました。
あちらは、ずいぶんと人が多くて物々しいですね。
護衛? 傭兵? らしき武装した徒歩の男たちが、品定めするような目で私たちを見てきました。
男たちが通り過ぎ、あちらの先頭の幌馬車の御者が小さく頭を下げて、すれ違って行きます。
あちらの馬車は3台。幌馬車が1台と荷馬車が2台です。
馬車列の後ろにも人相の悪い武装した男たちが付いて歩いています。
1台目の幌馬車が通り過ぎて、2台目と3台目の荷馬車が私たちの荷馬車と擦れ違います。
あちらの荷馬車は荷台が家のような箱の形をしていて、窓に格子状の木枠が填め込まれています。
ゆっくりと進む荷馬車に併せて歩いている男たちが、またジロジロと私たちを見てきます。
品定めをするような目で、とても不快です。
そのときです。
「―――あっ・・・」
草原を吹き抜けてきた風に正面から煽られ、マントのフードが脱げてしまいました。
慌てて、フードを被り直します。
テツさんに作って貰った帽子を被っているので耳は見えなかったと思いますが、顔は見られたと思います。
「見られちまったかねぇ」
のんびりと言いますが、テツさんは私に手綱を手渡してきます。
私たちと擦れ違って通り過ぎたはずの馬車列が、停まりました。
こちらとあちらの荷馬車の距離は10メテルも有りません。
「おい、お前。ずいぶんと見目の良い娘を連れてるじゃねえか」
馬車列の先頭から駆け戻ってきた男たちも含めて十数人が、腰の鞘から剣を抜き放ちつつ私たちの馬車へと近付いてきました。
「そのガキ、俺らにくれよ」
「ヒッヒッヒッ。なあ?」
ニヤニヤと粘り気のある笑みを貼り付けた醜悪な男たちが、武器を手にテツさんを取り囲もうとしています。
冷めた目で男たちを眺めていたテツさんが、くっと顎を上げました。
「何だあ? 商人かと思ったら盗賊だったか」
言った瞬間、2人の男が吹き飛びました。
手に握っていた剣を取り落とし、10メテルも転がって動かなくなります。
剣を手に身構える男たちが緊張に顔を強張らせます。
やくざきっく、ですね?
じらい? ですよ。あなたたちにとって私たちは。
「悪い奴は、狩らねえとなあ」
テツさんテツさん。
悪い顔になってますよ?
奴隷④です。
悪人にエンカウント!
次回、待ち人!?




