冒険者 ⑳
「それで。本当にここに出して良いんだな?」
「ここの方が掃除がしやすいんだ。サッサと出せ」
「お、おう」
そんなに臭えのか?
鼻は臭いに慣れるから、俺たちが自分たちの臭いに気付いてなかっただけって可能性も否定できねえしなあ。
臭いものを嗅ぎに行って本当に臭かったときの犬みたいに不機嫌そうに鼻を鳴らしている爺さんの前へ、心臓抜きの犬っコロ本体を5匹積んでやる。
解体するのが面倒になって、そのままリュックに放り込んでいたヤツだ。
出会い頭に「暇だ」と言っていたのは本当のことだったようで、手鉤で犬っコロを引き摺って行った爺さんは喜々としてデカい肉切り包丁を振り下ろし始めた。
低めのテーブルみてえな作業台の上に犬っコロを引き摺り上げたと思えば、ガツンと一撃でいきなり首を切り落とすんだぞ。
どこからどう見ても危ないジジイだから近付きたくねえな。
爺さんはゴロンと転がり落ちた犬っコロの頸を拾い上げて、両手で顎を開いて口の中を検めている。
後の処理は爺さんに任せて置けば良いんだろう。
ケイナを促して回れ右したところへ爺さんの声が掛かった。
「おい。このバンダースナッチを殺ったのはお前か?」
絡まれる前にギルドへ撤収しようと思ったら先手を打たれた。
呼び止められて無視するわけにも行かねえ。
「お前、拳闘士か」
「まあな」
ジロジロと俺を眺め回した後、ふんっと鼻息を一つ落とす。
「次からは、顎を潰すのは止めとけ。バンダースナッチは肉よりも毛皮と牙の価値が高い。牙が欠けちまってるじゃねえか」
「へぇ? 牙も売れるのか。気を付けるわ」
おう、と、こっちを見もせず返すと、ジジイは仕事に戻って行った。
わざわざ商品価値の知識を教えてくれたんだな。
職人気質っぽいが良いジジイかも知れん。
いくらもしないうちにエテルナ女史が俺とケイナの冒険者登録証を持ってきてくれた。
登録番号と名前だけが刻印された金属片をペンダントトップに誂えた認識票だな。
明日からのことは明日から、ってことでギルドを後にした。
俺と手を繋いで町を歩けば、もの珍しそうに町並みを眺めていたケイナがクイクイと俺の袖を引いた。
「テツさん。ここです」
「ヨーシ。行ってみよう」
ケイナが示してくれたのは宿屋の看板だ。
エテルナ女史が教えてくれた評判が悪くない食堂付きの宿だが、俺がこの世界の文字を読めていないのでケイナ任せなのが情けない。
そんなわけでギルドを出るときに無学な底辺冒険者向けの文字練習帳と児童書? を売っていたので買ってきた。
それぞれ大銀貨2枚づつで、ペラッペラな2冊で日本円換算4万円は高すぎる気がしてならねえが、手書きの写本が一般的だった頃から較べれば、ずいぶんと安くなったらしい。
藁半紙に活版印刷だかガリ版印刷だかで印刷した不鮮明な品質でも高価なのは仕方ないんだろう。
児童書レベルぐらいは読めねえと、契約書どころか仕事の依頼書すら読めねえしな。
自分の名前ぐらいは書けないと、宿に泊まることすら苦労する。
重ね重ね高い出費に思えてならないが、必要経費と考えて割り切るしかねえ。
素材の売却代金は、モノの質と量がハンパないってことで、今夜、残業して査定。
明日の朝、総額を纏めてギルドで受け取ることになっている。
これで、当面の資金は問題ないだろう。
明日の予定は、代金回収のあとは今後の遠征に備えた食糧や道具、日用品の買い出し。
郷へ届けてやる食糧や不足資材も物色して、順次、買い入れていくつもりだ。
狩れるだけ狩って荒稼ぎするつもりだから、拠点となる建物も物色しておく必要がある。
拠点の建物を自己所有すれば、郷用物資の保管場所にもなるしな。
今日のところはギルドの厩舎で俺たちの馬は預かって貰っている。
王都に着いたことだし売り飛ばそうかと考えたんだが、予想通り馬たちに情が移ったケイナが反対したから売却は無しにした。
馬の維持もギルドに預ければカネを取られるわけで、長期的視点で見れば外注するよりも自前で飼える環境を作った方が安く上がるだろう。
ギルドの方では、急ぐべき依頼を優先順位に沿って取り纏めて、各方面、各方面で、効率的に消化できるように整理してくれるそうだ。
本当に使える戦力が足りていねえんだな。
俺たちにとっては好都合なんだが、手が足りていない地方公共団体と癒着した下請け指定企業のようなポジションに収まれば、優先的、安定的に、高効率な荒稼ぎができる。
この国からすれば、俺たちの存在は、有る意味、国を危うくする“地雷”だろう。
しかし、国の基盤や国民の生活が溺れかけている今、“使える”なら、扱いが面倒でも俺たちを潰すわけには行かないはずだ。
俺たちとしても、荒稼ぎの実績が無いことには利に聡い冒険者が釣れねえ。
釣ったら、囲い込んで、投資して、俺のパワーレベリングに付き合わせて、強制的に、嫌でも、即戦力に仕立て上げる。
法整備が未熟で、ポリコレ何ソレ、企業モラルって食えるの? みてえな発展途上文明だからこそ出来る力業だろう。
ブラック上等。この世界に労働基準監督署は存在しない。
実績と戦利品はギルドを通じて国力へと還元され、俺やドネルクの功績は社会的地位に還元されて戻ってくる。
俺と共にケイナが居る限り、俺=ケイナの功績であり、その功績こそが俺たちの社会的地位だ。
追随できねえ功績を積み上げれば多少の無理は通るようになる。
具体的には、ギルドと俺たちの関係性に誰も口出しが出来なくなる。
このシステムに、魔法技術者集団としての、郷とレイクスの貢献を組み込んで、この国におけるエルフ族の社会的地位を確たるものとする。
それがこの国で俺がすべきこと。
ケイナたちが生き残っていくための計画だ。
冒険者⑳です。
計画始動!
次回、疲れ目!?




