冒険者 ⑰
「密輸ってことは国境を越えての事件だろ。それって偶然か?」
「さあな。狙って叛逆者どもを巻き込んだのかは分からんが、王国を揺さぶる切っ掛けに使われたことは確かだ」
やっぱり叛乱勢力の裏に新教会勢力の影は有ったわけだ。
「しかし、魔獣素材―――、狩りの成果なんて水物だろ? 元は情報工作だろうに。国として無策なのは悪手じゃねえの?」
カネなり兵力なりを突っ込んででも、素材輸出量を増やせば良かったんじゃね?
強く見せるハッタリは大事だぞ。
「対外宥和を掲げる国内勢力に足を引っ張られただけなんだがな。王国は決して弱い国では無い」
「輸出量が戻って噂が否定されれば、小国家は落ち着くんじゃねえかと思うがなあ」
ついでに言えば、不安要素が解消されれば、いつかは逃げた冒険者どもも戻ってくるだろう。
「噂を真に受けた冒険者の逃散が、さらなる輸出量低下に追い討ちを掛けてな。情報工作のほうが真実に変わった」
「もっと国が強くなれば解決するんじゃねえかと思うが、魔獣素材の輸出は内戦終結後も絞ったままなんだろ?」
確か、国外の持ち出しが厳しくなったと聞いたはずだ。
「一部の素材に限っては、だな。意趣返しの意味が強いが、国内で戦略物資が賄えるようになったことにより西方諸国に売ってやる必要がなくなったからな」
「戦略物資ってのは?」
「塩だ。王国は海を持たないからな」
「ほぉん。一部の素材ってのは?」
塩がどうとかって話は聞いた覚えが有るな。
「魔石だ。これはまあ、新たな用途が見つかったせいでも有るな。そして、俺がギルド長として送り込まれた理由でも有る」
送り込まれた、ってことは国の意向か。
騎士団長を辞めさせてまでドネルクに魔獣素材の物流を押さえさせたと。
輸入側の戦略物資が塩で、輸出側の戦力物資が魔石か。
「魔石は連中が一番欲しがってるものだろ。やり過ぎると敵を増やすんじゃねえの?」
「現状でも敵ばかりだ。今さらだろう」
「それもそうだな」
将来的な激突は織り込み済みで動いてるってことか。
これは、本当にレイクスたちがゲームチェンジャーになりそうだな。
供給するモノによっては、もっと深く食い込める。
近いうちに、郷で話し合ったほうがいいかも知れねえ。
「魔石以外の魔獣素材は輸出を絞っちゃいねえのか?」
「特に絞ってはいないな」
「なら、魔石以外の輸出量を増やして悪い噂を払拭すれば良いか」
緩衝国を機能させるにも、逃げた冒険者を引き戻すにも、輸出量そのものが増えれば国外から見た印象は変わるはずだ。
「お前が請け負う気か?」
「最初っから、そのつもりだったぜ」
ドネルクがジロリと俺を睨む。
「1国の輸出量ってのは、冒険者1人でどうにか出来る量じゃあないんだぞ」
「んじゃあ、足りない分は新しく鍛えるしかねえな」
この国に故郷が有る地元民なら国外へ逃げる可能性も低いんじゃねえの?
「新たな冒険者を育てるつもりか」
「請け負ってやる」
口角を引き上げる。
お前の目の前に二人も実績があるからな。
「アンタの仕事は、神教会に対して惚けることと、魔獣の情報を持ってくることだけだ。もしも俺たちが失敗してもアンタらに損はねえ」
どうだ? と挑発的に見返す。
ドネルクが俺に“勇者”というプレミアを勝手に付けているから足元を見て癒着を持ちかけたわけだが、政治的視野で語るコイツなら呑み込むだろう。
しばし、目を伏せて考えたドネルクが、再び目を上げる。
「良いだろう。乗ってやる」
「よろしく頼むわ」
ローテーブル越しにガシッと握手する。
グググと似合わねえ貴族服に身を包んだドネルクの体が膨らむ。
握手―――、にしては力が強いなあ。
この野郎。まだ試して来やがるのか。
「はっはっは。よろしくなー」
「痛タタタタタッ!」
加減しつつ力を籠めてやればドネルクが顔色を変えて悲鳴を上げる。
握り潰すと拙いから、このぐらいで離してやるか。
「何なんだ! その馬鹿力は!」
「知るかよ。馬鹿力はガキの頃からだ」
いや、マジで。パワーで俺と同等を張ったヤツとは数人しか有ったことがねえからな。
涙目のオッサンがプラプラと手を振りながら探る目を向けてくる。
「嬢ちゃんは兎も角、そうまでして、なぜ隠す?」
「目立ちたくないんだよ。少なくとも、今の時点ではな」
ドネルクがジトッと俺を睨む。
オッサンのジト目なんて、ムカつくだけだぞ。
「派手にやらかすつもりなんだろ? いつまでも隠し通せないとは思っておけよ」
「承知した」
ニッと、笑い返してやった。
冒険者⑰です。
合意!
次回、ギルド!?




