冒険者 ⑬
「なるほど。そこで便宜を図ってやれば良いんだな」
「どんどん仕事を回してこい。全部、俺が片付けてやる」
立場を固めるための交渉が一山超えたなら、条件交渉だ。
労働力を安売りする気はねえが、ぼったくり価格で儲けようとするから炎上するのであって、通常単価でも数が纏まれば利益は莫大なものとなる。
競合他社が居ねえなら独占市場だ。
俺の申し出を好意的に捉えたようで、ドネルクも肩の力を抜く。
「それは助かる。こっちも手が回っていなくてな。まともにギルドが機能していない」
「冒険者が居ねえってのは分かるが、ギルドも機能してねえってのは?」
単価の高い商品を独占的に取り扱う組織ってのは“利権”だ。
旨い利権を国家の中枢が野放しにするわけがねえ。
政府機関と直結しているのであろう組織が機能不全を起こす状況ってのは、普通じゃねえぞ。
嫌悪感も顕わにドネルクが渋面で息を吐く。
「手続き上、俺は昨日着任した形になっているんだが、不正が横行していたことでギルド内の人員を処分したんだ。事情が有っていくらか残してある職員も処分予定でな」
「不正ってのは?」
ははぁ。トップが交代したことによる腐敗組織の粛清か。
政治形態に拘わらず有りがちな問題だな。
「商人と癒着しての賄賂や横領だ」
「まともな職員がいなかったってわけか」
政治的理由で職場を異動させられて、着任してみれば腐敗の温床だったと。
不正の中身にもよるが、職員を総入れ替えするレベルだと相当に根深い不正だったんだろう。
粛清が行われたってんなら願ったり叶ったりだな。
不正がまかり通る国なら、それはそれでやりようが有るってもんだが、腐敗構造ってのはボロ儲けが出来る分、追い落とされるのも一瞬だ。
袖の下が罷り通るってことは、より大きな金額の賄賂を送る奴が現れれば簡単に乗り換えられちまう。
自浄能力を持っている安定した統治下で権力に食い込めるなら、その方が足場は強固になる。
俺がいなくなった後のことを考えれば安定している統治システムの方が良い。
絶望的な呆れ顔で首を振ったドネルクは、不正を働いていた連中のことを思い出すのは止めたようだ。
「信用が置けると俺が判断しているのはエテルナ1人だな」
「そのエテルナさんってのは?」
女性の名前っぽいが、組織トップのドネルクが信頼を置くってことは有力な幹部ってことだ。
俺たちも関心を持って知っておくべきだろう。
「この部屋までお前たちを案内してきただろう」
「あー。あの冷凍女か」
ケイナにだけは笑みのようなものを見せていた不機嫌そうな仏頂面を思い出す。
「何だ? それは」
「愛想がなくて周りの全てを凍り付かせそうな女だと思っただけだ。他意はねえ」
誤解の無いよう丁寧に解説してやると、真面目な顔をよそったドネルクが内部事情を口にする。
「そう言ってやるな。エテルナは元々、俺がギルド長に着任するのに合わせて貧乏くじを引かされた王宮の文官でな。数字には滅法強いが愛想を振りまく仕事じゃあないんだ」
咎めるように言ってやがるが、お前も俺と同じこと思ってたんだろう。
表情を装っても目が笑ってるし、口元がニヨニヨしてんだよ。
女史のことは、まあ良い。問題は他の奴だ。
「すると、若い方の女が処分予定の奴か。なるほどなあ」
「アレと揉めていた様子だったが、何が有った?」
そういや、ドネルクは騒ぎが起こってから出てきたんだったな。
俺たちに落ち度が有ったとは考えちゃいねえが、状況だけは主張しておくか。
「見た目で俺に魔獣が狩れるわけがねえって言い出してな。盗人呼ばわりされてたんだ」
「悪いな。アレは貴族家の子女で、直ぐには首を切れなかったんだ」
へぇ。あっちも貴族だったのか。
身分格差を振り回しての横暴と言われれば、そんな印象にも受け取れる。
あの女はエテルナ女史の目を気にしている様子だったが、その割には強気でチグハグだったんだよな。
「横柄な態度は身分を笠に着ていたのが原因か? ―――、いや。あれは安値で素材を買い叩こうとしてたのか?」
「そうやって今までも、難癖を付けては持ち込まれた素材を安く買い叩いていたんだろう。そうするものだと教わって、他にやり方を知らなかっただけかも知れんが」
ほう。このオッサンはクビにする予定の職員でも一応は善意で解釈しようとするんだな。
そうすることが誰に対しても良い結果に繋がるものだとは限らねえんだが、このオッサンの性根が俺のようにねじ曲がったものではないと感じる。
やっぱり上級貴族の息子ってのは育ちが良いんだろうな。
この国の”正義”を体現するオッサンだったらしいから、これが当然の言動なのか。
「アンタ、俺がギルドのカウンターを壊したことは怒ってねえのか」
「俺は騎士団の責任者だったんだぞ。騎士団で喧嘩が起こればあんなものでは済まん」
もっと酷い実例を知ってるから問題視していなかったと?
それだけ派手なら騎士団内部の喧嘩ってのを見てみたくなったな。
それはそれとして、”飛ぶ鳥跡を濁さず”で綺麗に後始末しておくか。
「まあ、俺も大人気なかったし、半分ぐれえなら修理代を持つぞ」
「構わん。アレの実家も不正に絡んでいるから、迷惑料も込みでアレの実家から回収する」
懐事情に余裕が有るとまでは言えない状況だと判断しつつも申し出た修理代は、受け取りを拒否された。
しかも、犯罪に絡んでの措置となれば統治システム内部の処分だから、部外者の俺には手出しも口出しも出来ねえ。
俺たちに恩を売りつける意図はねえんだろうが、誠意を見せられたと受け入れざるを得ねえ。
一本取られた気分でドネルクの目を見据える。
冒険者⑭です。
一本取られた!?
次回、溜飲!?




