冒険者 ⑫
「本当に参った。今までの人生で一番驚いたぞ」
「そりゃあ良かった。世界ってのは広いもんだろ」
ニヤリと笑ってやれば、頭痛を堪えるようにドネルクはこめかみを揉む。
「テツ、といったな。お前の目的は何だ?」
「簡単な話だ。安心して暮らせる居場所を作る。それだけだ」
隣に座るケイナの頭を撫でてやる。
そうしてやるだけで緊張に強張っていたケイナの両肩から少しだけ力が抜ける。
俺に釣られてケイナへ向いていたドネルクの視線が俺に戻ってくる。
「ふむ。お前たちは王国に何を求める?」
「〇チガイ教団の圧力に屈するな」
俺の要求はそれだけだ。
君主制国家において全ては王権を持つ国王の政治的判断だろうが、簡単な要求に見えて、これが難しいのは分かりきってる。
創業者が社長のオーナー企業でも、全てが社長の思い通りに決定できるのかと言えば、そんなことはねえんだ。
大抵は融資銀行や取引先の意向によって影響を受ける。
俺の目を真っ直ぐに見返していたドネルクが首を傾げる。
「王国に庇護を求めるわけではないと?」
「今の国王さんだって永久に生きてるわけじゃねえ。人が変われば組織の考えが変わるのはよく有ることだろ。アンタらが内戦になったように、組織ってのも一枚岩じゃねえ」
飼い殺しにされて養分を吸い尽くされた上で放り出されるってのは、よく有る話だ。
優良顧客を握っている保険業界の外交員や最先端分野の技術者が、人材勧誘に乗った場合によくやられる。
経営陣の顔ぶれが変わったり経営方針が変わったときには特にな。
「慎重で結構なことだが、どうやって実現する?」
「技術を借りて作ろうとしているものが有る」
これはレイクスとの同盟によるものだ。
「何を作る気だ?」
「そいつはちょっと待ってろ。どこまで再現できるか俺も掴み切れてねえ」
構想は決まっていても、技術の反映は試作してみねえことには技術的問題の洗い出しも出来ねえからな。
先々、要望を聞いてやることは有るかも知れねえが根幹の部分に立ち入らせるつもりはねえ。
だが、ここまで話せば俺が何をしようとしているかにドネルクは気付いたようだ。
「“技術”に“再現”・・・と来たか」
「面白えモンになるだろうよ」
エルフ族の魔法技術で地球文明の利器を作る。
よくあるファンタジー技術と現代知識の融合だな。
全く新しいものを作ろうってんじゃねえ。
こっちの世界で手に入らない部品や素材をこっちのものに置き換えて、俺が黒トカゲを殴りに行くための移動手段を作ろうってだけだ。
産業革命で内燃機関が発明される以前の移動手段を実際に使ってみたが、馬ってのは食う草の量も飲む水の量も半端じゃねえし、何より生き物だから休みなく働かせることも出来ねえ。
そりゃあ、産業革命の偉大さを嫌でも実感しちまう。
思案顔をしていたドネルクの眼光が再び鋭さを増す。
「もしもだ。王国がその技術を奪い取ろうとすれば、どうする気だ?」
「そんときゃあ、隣国にでも売り込む」
わざわざ直接の影響が出る相手を上げてやれば、ドネルクが渋面になる。
そりゃあそうだろ。
根源的な敵じゃなければ神教会の関係国とやらに売り込むところだが、連中は俺たちにとって不倶戴天の敵だからな。
となれば、次点でこの国と交戦状態だと聞く隣国が最右翼の売り込み先になる。
「王国の敵に回ると?」
「そいつは逆だろ。アンタらが俺たちの敵に回らなけりゃあ良いんだ」
「なるほどな。お前の考えは理解した」
俺たちは多くを求めちゃいねえ。
コイツらが変な欲を掻かなけりゃあ円満な関係を築くことは可能だろう。
とはいえ、決定権を握っているのはドネルクじゃねえからな。
ドネルクも認否を口にすることなく、「理解」だけを示した。
ドネルクはドネルクの思惑で動くだろうし、この国自体もこの国の思惑で動く。
問題はコイツらに―――、この国にとって、俺たちに価値が有ることを俺たちが示せるかどうかだ。
「それで? お前たちは、これからどう動くつもりだ?」
「先ずは資金調達だな。技術開発ってもんには、人にも物にもカネが掛かる」
素材の調達はもちろん、金属加工が出来る職人や仕事場も用意しなくちゃいけねえ。
機密性の高え仕事になるからケチるわけにも行かねえ。
「理解」という言葉は嘘じゃなかったな。
俺の意図を正確に読み取ったドネルクが、からかいを含んだ目でニヤリと笑う。
「奪い取られるぐらいなら敵に売るとまで言うんだ。王国に人や資金を出せというわけでは有るまい?」
「カネなら勝手に稼ぐさ。仕事は有り余ってるんだろう?」
断るに決まってんだろ。
人や資金を送り込んで雁字搦めにしたり、機密情報を抜き取ったり、組織の乗っ取りを仕掛けるのは産業スパイの常套手段だ。
冒険者⑫です。
機密防衛!
次回、内部事情!?




