冒険者 ⑩
「それは心配ない。ウォーレス家は王家と縁の深い武門でな。当代だけでなく次代同士の関係も良好だ」
「ふぅん? 親子だって兄弟だってケンカすることも有るじゃねえの?」
説得力は有るが、人間関係に絶対はねえ。
血の繋がりが有っても殺し合いを始めるのが人間ってもんだ。
だが、ゴリラは自信を滲ませて首を振る。
「俺にとっても身内だからな。王家とウォーレス家なら俺が間を取り持てる。国が割れるようなことは起こさせんよ」
「アンタが取り持つのかよ」
このゴリラ。只者じゃねえとは感じていたが貴族かよ。
だが、お上品ってのとは違うな。
覇気というか、全身に纏ってる空気がまるで武術家だ。
そのくせ、ただの筋肉ダルマじゃねえな。
このオッサンが俺を探っていることに俺が気付いているように、このオッサンも俺が探っていることに気付いてやがる。
その上で先手を打ってきた。
「ああ。まだ名乗っていなかったな。俺はドネルク・ルーベンスという。現王妃の兄で、近々、迎える妻はウォーレス家の娘だ」
「ん? ドネルク・・・? どっかで聞いた名前だな」
国家的な中枢も中枢、現国王の義兄で噂の大貴族が嫁の実家ねえ?
だが、ルーベンス?
こっちの名前は聞き覚えがねえな。
俺の疑問を見透かしたようにゴリラが追加情報を開示してくる。
「つい数日前まではドネルク・リヒテルダートと名乗っていた。前職は王都騎士団の団長だな」
「おお。アンタが“北部の雄”か」
将軍ってのは高級軍人でも有るんだから武術家っぽい雰囲気も当然なのか?
この口振り。名字が違うってこたあ実家を出たんだろう。
英雄と呼ばれた男が他所への養子や婿に入ったってことはねえだろうから、新しい家を興したってことか?
日本の戦国武将でも武勲の褒美で実家から独立したとかってのが有ったような?
褒め言葉だと認識していたから耳にした称号を口に出せば、筋肉ゴリラ―――、ドネルクは興味無さそうに首を振る。
「“北部の雄”と呼ばれているのは実家のリヒテルダート公爵家で、俺は一騎士に過ぎん」
「へぇ? 大貴族様ってのは随分と謙虚なんだな」
爵位ってのは権力そのものだろう。
政治的な理由で役職を下りたにしても、ギルド長って役職も権力者だろうが。
権力の中枢にいて、事実、権力を握っていながら権力に興味がねえって?
面白えオッサンだな。
こういう男だから上司の国王が放っておかねえってのは有りそうだ。
「騎士ってのは、そういうもんだ」
「アンタのことは、どこへ行っても名前を聞いたぜ。しかし、国家の英雄が実家を継がなくて良かったのか? 確か公爵家の跡取りと聞いたが」
権力よりも己の信念と志に殉じるってか?
この国を疑うようなことを俺が口に出したときに反応は、このオッサンの信念にケチを付けるようなものだったわけだ。
武士みてえなことを言いやがる。
貴族ってヤツの考え方は俺には全く想像も付かねえからな。
「随分と古い情報だな。俺は爵位を継ぐ気はなかったから実家は弟に継がせたんだ。もう何年も前のことだぞ」
「宿場町の酔っ払いどもから訊き出した情報だからな。多少の古さは仕方ねえだろ」
「そうかも知れんな」
肩を竦めて見せれば、ドネルクもまた肩を竦め返した上で、一転して据わった目を向けてくる。
「で? 俺は素性を明かしたわけだが、お前はどうする」
「俺には取り立てて明かすような素性なんてねえよ。ただ、俺たちと良い関係を築いておけば、この国が置かれた状況をひっくり返せるかも知んねえぞ」
ドネルクの目を真っ直ぐに見据え返してやる。
ピクリと目を細めたドネルクが全身からブワッと気迫を噴出させる。
器用なこった。目を細めた以外、指一本動かしちゃいねえのに、猛獣の檻にでも放り込まれたような圧力を感じる。
迂闊に身動きすれば一刀両断にされそうな予感に、背筋にジワリと冷や汗が滲む。
これが本物の殺気―――、いくつもの命を奪ってきた男が放つ気迫か。
俺の隣でケイナがヒュッと息を呑む音が聞こえたが、今は目を逸らせられねえ。
この野郎、上等じゃねえの。
殺れるもんなら殺ってみろ。
殺られる前にその頭をカチ割ってテメエの脳ミソで味噌汁を作ってやるぞ。
気迫には気迫で返してやる。
俺も動じねえがドネルクも動じねえ。
互いに引かず睨み合ったのは10秒間か20秒間か。
大人の対応ってヤツか、一触即発の空気を鼻息一つで断ち切ったのはドネルクの方だった。
冒険者⑩です。
殺気のぶつかり合い!?
次回、度量!?




