冒険者 ⑧
「違う、っつってんだろ。アンタこそ、なんで俺を勇者にしたがるんだ?」
「したがってるんじゃない。拙いんだよ」
大きな溜息を落としながらもゴリラは厳しい顔をする。
「拙いって、何が?」
「神教会ってのを知ってるか?」
そっちかよ。
勇者で、神教会で、拙い?
キーワードで繋げてみてもゴリラの言う意味がハッキリしねえ。
何が拙い? 俺たちは冒険者登録をしに来ただけだぞ。
何かを判断するには情報が足りねえ。
「キチ〇イ教団だって噂は、“聞いたことは有る”かな」
そいつらとは無関係だと強調したんだが、ゴリラは正しく意味を理解したらしい。
探るような目を向けてきたゴリラの目を真っ直ぐに見返す。
小さく首を傾げた後、一つ頷いたゴリラは両膝に両肘を乗せて上体を前のめりにする。
「今、この国―――、リテルダニア王国は神教会と一触即発なんだ。王国が不利な形でな」
ほう。それは初めて聞く情報だな。
国際情勢の類いだが旗色が悪いらしい。
「不利ってのは?」
「孤立状態に追い込まれつつ有る。神教会に飲み込まれて滅んだ国も有るし、勇者召喚は神教会の独占術式だ。そんなときに、“王国が勇者を隠してた”なんて話になってみろ」
「勇者じゃねえんだから問題ねえだろ。それとも、そのキチガ〇連中は勇者召喚をした覚えでもあるのか?」
直近で何度も召喚した覚えが有るのなら、ややこしいことになるのかも知れねえが、当の神教会に召喚した覚えがなければ絡んでくる理由はねえだろ。
ちっとばかし神経質すぎねえ?
ゴリラが背もたれに深く身を沈める。
「無い、だろうな。前の召喚から30年程度だから、関係国から魔法術師を掻き集めたとしても魔力の蓄積ができていないはずだ」
「だったら余計に問題ねえな。勇者は居ませんでした。ハイ、終わり。だろ? それともギルドやこの国ってのは冒険者の情報を神教会や他国へ売るのか?」
プライドに障ったかね。
今までで最高に、ゴリラの目が鋭くなった。
肌の表面がピリピリとするような圧力は、本物の“殺気”ってヤツだ。
このゴリラは間違いなく何人もの人間を手に掛けた経験が有るはず。
鼻息一つで憤りを抑え込んだゴリラが肩の力を抜いてみせる。
へぇ? この男、中々の自制心に理性だな。
目の前に座る筋肉ダルマの評価を引き上げる。
感情に任せて怒りや恐怖に囚われれば、体に不要な力が入って反応速度が鈍くなったりするもんだ。
攻撃するにも避けるにも、反応速度の低下は体の動きを阻害して先頭の足を引っ張る。
この男はテメエを律して最高のパフォーマンスを発揮する方法が、呼吸をするように身に付いてやがる。
「売るわけがないだろう。だがな、開戦の名目が真実である必要は無いのが政治ってもんだ」
「それは、そうだろうな」
世界が違ってもケンカを売るための理屈は同じってわけだ。
地球で言えば、直近では地球上で最大の国土を持つ大国が衛星国へ一方的に侵攻を開始して、数年経った今も戦争が終わる目処が立っていなかった。
その大国が侵攻開始に際して大義名分にしたのが「同胞の保護」だ。
それまで衛星国側に暮らす同胞にも餓死者が出るほど食料を奪い取ったり、メチャクチャな搾取や弾圧を繰り返してきておいて、何が「保護」だ。
馬鹿馬鹿しくて失笑も出ない嘘八百でも、戦争を吹っ掛ける大義名分としては機能した。
無関心な他国や情報に疎い自国民は簡単に騙せた、あるいは乗っかる理由になったわけだ。
ここでゴリラの口から気になっていた情報が投下された。
「神教会と決定的になって関係国との戦争になってみろ。国王陛下から一般国民保護の名目で、必ず、冒険者ギルドへも協力要請が来るぞ」
「拒否は?」
この点は極めて重要だ。
拒否できねえのなら、状況によって身の躱し方を考えなきゃならねえ。
入れ知恵するなりで国際圧力に対抗できるだけの時間が稼げれば逃げる必要も無くなるが、そうじゃねえなら拠点を置く場所を再検討する必要が有る。
俺の反応を見極めるような目でゴリラが俺の目を見る。
「冒険者は半ば強制での従軍要請だ。大人も子供も関係なく、な。事実、きな臭い噂が出てから情勢の変化に敏感な商人たちの多くが姿を消し、このギルドを拠点にしていた冒険者も他国へ逃散したまま戻っていない」
子供も徴用の対象か。
そいつはちょっといただけねえが、過剰反応は良くねえな。
何をどこまで含んだ思惑が有っての言い方か、必要な情報を与えようって姿勢は感じ取れる。
いくら何でも、子供に武器を持たせて突撃させようなんてバカは言わねえだろう。
もうちょっと“思惑”を聞いてから判断するか。
「冒険者ってのは、人間相手の戦闘ができるもんなのか?」
「後方で輜重部隊の護衛任務や雑務だな。対人戦闘は主に騎士や兵士の仕事だ」
「冒険者が戻って来ねえのは戻ってくるカネがねえからだ、と言ってるヤツも居たんだが、徴用の可能性が戻って来ねえ本当の原因ってわけか」
悩ましそうに眉間に皺を寄せたゴリラがこめかみを押さえる。
「王国としては戦争を回避するつもりでは有る。この先どう転ぶのか、なんてものは誰にも分からんのだがな。今日はウォーレス領軍が撤兵して行ったせいで王都内はお祭り騒ぎだが、ここのギルドだけは墓場のように静かだっただろう?」
「あれは野次馬が多くて街中が混んでたのか」
なるほどなあ。兵士たちの態度が良かったのも納得がいった。
冒険者⑧です。
冒険者と国際情勢!
関係性!?




