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オジサンはお家に帰りたい ~ 粉砕!! 異世界迷子オジサン  作者: 一 二三


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冒険者 ⑦

 このオッサン。体格はヒグマだが、面だけを見りゃあヒグマって感じじゃねえな。

 目には知性が感じられるし、現代日本での一般会話で通じやすい表現で言い表せば筋肉ゴリラか。

 バカ女と冷凍女は「ギルド長」と呼んでたな。


 てことは、コイツがここのボスか。

 交渉相手としては十分な男の登場で、どう転がるか分からねえ緊迫した空気が落ち着きを取り戻す。

 ゴリラは破壊されたカウンターと天井をざっと見回しただけで興味を失ったようだ。


「お前さん。ちょっと、別室で話を聞かせてもらって良いか」

 言葉の上では質問形だが、現実的には質問形じゃあねえな。

 来い、と。

 ”任意同行”って言葉で事実上の”連行”をするのは日本の警察も同じだった。


「うちの娘も一緒でいいのか?」

「そうしてくれ。その方が被害は小さく済みそうだ」

 言うだけ言ってゴリラは踵を返す。

 出てきた扉を狭そうに身を屈めて潜って建物の奥へと戻って行った。


 冷凍女が別室とやらへ案内してくれるのかね?

 深刻そうな溜息でゴリラの背中を見送った冷凍女が、荷物用カウンターの反対側にある小さな扉を開けてカウンターの外へ出ようとしたが、半ば壊れた扉は何とかブラ下がっていただけで扉の機能を果たさなかったらしい。


 両手でスカートの端を持ち上げて、バキッ! と苛立ちをぶつけるように扉の残骸を蹴り破った冷凍女は、カウンターの外側を通って俺たちのところへ戻ってきた。

 冷凍女だと思っていたが中々に情熱的な一面が有るらしい。

 人間的な一面が有ると分かれば、単に役人っぽく見えるな。


 俺の苦手意識が偏見を持たせていた可能性に思い至って反省する。

 俺が抱いている内心の偏見がケイナに悪影響を及ぼす可能性を思えば、俺も自分を省みる必要が有るだろう。

 呼び方は“女史”に改めるか。


「こちらへどうぞ」

 感情を押し殺した、というか、割り切った感じで元の雰囲気に戻った女史が先に立って奥まった場所に有る扉へと向かおうとする。

 部下の職員とは違って、女史はしっかりとプロ意識を持っているようだ。


 別室ってのは2階っぽいな。

 カウンターの奥からも、こっちの扉からも、2階へ上がれるようになっているらしい。

 急いで毛皮と蛇皮と生肉をリュックに押し込み直して肩に掛ける。


「ケイナ、行くぞー?」

 あれ? いつもはすぐに返事をするのに返事がねえな。

 おーい。ケイナちゃんや?

 俺のマントの腰の辺りを摘まんだまま俯いてて、よくお顔が見えないんだがニヤついてねえか?


「来たか」

 2階の階段を上がって廊下を進んだ先に有る応接室っぽい部屋―――、ローテーブルにソファーセットとチェストだけが置かれた、まんま応接室でゴリラが先に待っていた。

 ソファーセットは一人掛けのソファーが2脚並んだ向かい側に三人掛けが1脚の構成で、少人数での密談を想定した部屋に見える。


 そんな応接室で、一足先に一人掛けソファーの一つに填まり込んでいるゴリラが1人で唸っている。

 普通はゆったりしたサイズなのだろうソファーも、筋肉ゴリラが座れば筋肉でみっちりと詰まっているように見える。

 それ、ソファーに填まり込んで二度と立てないんじゃねえの?


「座ってくれ」

 ローテーブルを挟んで、ゴリラの向かいの三人掛けソファーにケイナと二人で座る。

 難しく顔を歪めたゴリラが、気を落ち着けるように深く息を吐く。

 今度は何だ? 妙に深刻そうな空気なんだが、カウンター破壊事件の処理で悩んでいる様子じゃねえな。


「お前さん。勇者だな?」

「野良の冒険者―――、いや。現職は狩人かね?」

 唐突なゴリラの指摘に即答する。


 ロクでもねえ予感しかしねえんだから、勇者とか止めろや。

 まあ、触覚ヘビ狩り職人や犬っコロ屠殺職人は、名乗っても良い頃じゃね?

 首を傾げて見せると、ただでさえ厳ついゴリラの目つきが鋭くなった。


「その黒髪!! どっからどう見たって勇者だろうが!! しかも、あの馬鹿げた怪力で冒険者登録が初めてだとか巫山戯てんのか!!」

「見解の相違じゃねえの? 俺は勇者なんて見たことも会ったこともねえから知らんけど」

 このオッサンは現物の”勇者”を見たことが有りそうだな。


「あのな!! 身体強化術式でも、あそこまでの怪力を出せる奴なんていねえんだよ!! “魔の森”の木材を使った建材がどれだけクッソ重いか分かってんのか!?」

 “身体強化術式”ってのは魔法だろうなあ。

 何度かケイナからレクチャーを受けてはいるが、俺、魔法なんて使えてねえぞ。


 とはいえ、未だに俺が魔法を使えないことを知ってるのは、現状、ケイナと俺自身だけだ。

 レイクスをはじめとした郷の連中も知ってはいるが、情報が古い。

 まだ黒トカゲに勝てる気はぜんぜんしねえんだけど、このゴリラとの交渉カードとしては有利に使えそうだ。


「分からんなあ」

 耳に小指を突っ込んで、ほじる。

 すると、真面目な話をしているつもりなのであろうゴリラの青筋が増えた。


「だいたい、“テツ”って名前だ! チキュウ世界の名前じゃないのか!?」

「親がチキュウジンに憧れてたからだぞー」

 器用だな。青筋立てながら、疲れた顔しやがる。


「・・・どうあっても、認める気は無いんだな?」

 んー・・・。思ったよりも真面目―――、いや。真っ直ぐなオッサンっぽいな。

 これ以上、怒らせてもマイナスにしかならねえか。

 しゃあねえ。そろそろ、ちょっとだけ話を聞いてやろう。



冒険者⑦です。


ギルド長との直接対決!?

次回、国際問題!?

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