冒険者 ⑤
「じゃあ、魔獣の素材を買い取ってくれる専門店を教えてくれるか?」
「えっ?」
「えっ?」
目を丸くしたギルド職員が首を傾げて、俺も釣られて首を傾げる。
「あ、あの。魔獣の素材ですか?」
「ああ。専門に取り扱う店が有るんだよな?」
今さっき、アンタが言ったんだろうが。
おかしなこと聞いたつもりは無いんだが、俺の訊き方が悪かったか?
どこに問題が有るのかと受け答えの検証を始める前に、職員がもう一歩踏み込んで言葉を重ねてきた。
「失礼ですが、本当に魔獣の素材ですか?」
何だ? この念押しは。
言葉の上では品物の真贋を問われているように聞こえるんだが、俺が魔獣素材を持ってきたことを疑われてるのか?
さっきから遣り取りに問題が有ったようには思えねえし、何かを疑われる要素が有ったようにも思えねえんだが。
「そうだが、何なら現物を見てみるか?」
「あ。ハイ。あちらのカウンターでお願いします」
「分かった」
職員が指したのはカウンターの左端で、重い荷物を下ろすためかカウンターの天板が一段低くなっている。
カウンターを挟んで職員と一緒に横移動し、仮称・荷物用カウンターの前で肩から下ろしたリュックを床に置く。
リュックの口を開いて腕を突っ込む。
エルフ族の郷で鞣して貰った毛皮は手放さねえが、他は売っちまって良いだろう。
ただ、ちょっと職員の態度が気になるんだよな。
取りあえず一部だけ出してみるか。
「処分したいのは、この辺なんだが」
「―――、!!」
リュックの中からズルズルと引き出したのは、剥いでそのままの犬っコロの生毛皮と触角ヘビの生皮だ。
一番処分してしまいたい生肉の包みも、いくつか取り出して荷物用カウンターの上に置く。
犬っコロの毛皮を引っ張り出した時点で職員が息を呑んだことには気付いていたが、試す意味で触角ヘビと生肉も出してみた。
「バンダースナッチの毛皮にバジリスクの皮・・・? 確かめさせていただいても?」
「ああ。構わねえよ」
俺の了解を取った職員がカウンター上の素材に手を伸ばす。
手に取った毛皮に目を凝らしている職員が難しい表情で何やらブツブツと口の中で呟いているが、声が小さすぎて何を言っているのかは聞き取れねえ。
生肉の包みも中身を確かめた後、顔を上げた職員は厳しい目で俺を見据える。
「あの。これらの素材は、あなたが狩って来られたものですか?」
「そうだが」
頷いて返すと、職員はさらに目を怖くした。
「誰かに頼まれた、であるとか、・・・どこかから盗んできたものでは有りませんよね?」
「俺たちで狩った獲物だが? どういう意味だ?」
職員の態度や言いたいことは理解したが、敢えて訊き返す。
失礼な女だな。
ここまで来ると誤解の余地はねえだろ。
この女は俺たちの見た目で「コイツらに魔獣が狩れるわけがない」と決め付けて、テメエの先入観に正当性を持たせる理由探しをしているわけだ。
たかが事務職員の若い女を相手に本気で怒るような無様は晒したくねえんだが、ちっとばかし、この女は失礼に過ぎる。
冒険者ギルドってのは国家公認の業界団体だと認識していたんだが、こんな態度で組合員が協力的で居られるのか?
どうにもチグハグな印象が拭えねえんだが、ここは我慢だ。
「アンタが何を言いたいのか想像は付くが、アンタは何で俺たちを盗人呼ばわりしてるんだ?」
「別に盗人呼ばわりなんてしていません。ただ、私は当品の取り扱いは冒険者ギルドではなく警邏の仕事だと申し上げているだけです」
この女、根拠を訊いただけだってのに逆ギレしやがった。
警邏ってのは警察組織か何かを指してるんだろう。
初対面の相手を一方的な決めつけで何の根拠もなく泥棒呼ばわりした上に、言葉遊びで責任逃れしようとしてやがる。
この職員の態度にはケイナもご立腹のようで、怖がるのではなく軽蔑を籠めたような冷ややかな目で職員を睨んでいる。
「もう一度確認しておくが、アンタが俺たちに疑いを持つ理由は?」
「まともな武器も持っていない貧相な平民に、バンダースナッチやバジリスクが狩れるわけがないでしょう」
出来るだけ理性的にコミュニケーションを図ろうと努力はしたが、職員は鼻で笑った。
この女が俺たちに疑いを掛けた根拠は、俺が武器を持っていないことと農民スタイルの服装ってことか?
そうすると、さっきの冷凍女が俺には冷淡な態度を取ったのも、それが理由か?
どんだけ狭い視野と狭量さなんだ。
人間関係構築は第一印象が大事、とは言うが、許容範囲が狭すぎるだろ。
だが、ここは我慢だ。
この程度の煽りに釣られるほど俺もガキじゃねえ。
我慢我慢我慢・・・。
冒険者⑤です。
盗品容疑!?
次回、クマ!?




