冒険者 ③
ケイナの歩幅に合わせて、馬を牽いて歩く。
馬を外側に歩かせて、ケイナと俺が馬と馬の間を歩く格好だ。
馬に乗りゃあ良いのに何で自分の足で歩いているのかと言えば、危なっかしくて乗れねえからだ。
王都内の市街で馬に乗っちゃダメだ、と言われたわけじゃねえんだが、人が多すぎるんだよ。
お通夜みたいな空気でどんよりと沈んでいるよりも、活気が有るのは結構なことなんだが、そこそこ広い通りに歩行者天国のイベント並みに人が溢れ出ていて、こんな場所で馬に乗ったら人を轢いちまい兼ねねえ。
とはいえ、初めて歩く勝手の分からない街だ。
小柄なケイナなんて人攫いにヒョイと抱えて持って行かれ兼ねねえから、馬を防波堤にして人混みの中を歩いてるってわけだ。
馬ってのはガタイのわりに小心者で警戒心が強い動物らしいんだが、ケイナが言い聞かせているお陰で馬たちが人間を蹴り飛ばすことは無い。
いやコレ、冗談じゃなく言い聞かせてたんだよ。
事実、この馬たちはケイナが手綱を引かなくても右へ左へ方向転換するし、ケイナは鞍に跨がってるだけだからな。
今も馬たちはケイナをガードするように歩いているし、俺も危険物センサーの反応に神経を尖らせてるし、ケイナにちょっかい掛けようとするヤツはブン殴るだけなんだが、用心するに越したことはない。
一国の王都って言うから、どれだけ賑わっているのかと思ってたんだが、賑わいすぎだろ!
「ここか?」
「冒険者ギルドと看板に書いてありますね」
ケイナと並んで足を止め、いくらか人が少なくなった大通りに面した建物を見上げる。
記名台の兵士から聞いた通り、冒険者ギルドの建物はすぐに見つかった。
前時代の欧州の城郭内にあるような、方形に整形された石積みの堅牢な3階建て。
三角形の切妻屋根ならともかく、ビルやマンションみたいな平たい陸屋根に見えるんだが、石造建築物の屋上の構造って、どうなってたっけな。
何かの資料で解説図を見た記憶が有るんだが、防水処理を施した板敷きじゃなかったっけか。
壁際に設えられた柵に手綱を繋いで、馬の背からリュックを下ろして正面入口の前に立つ。
「うーむ・・・」
正面入口は、飾りっ気がないわりに背の高い観音開きの木製扉だ。
年季が入っている扉に見えるが、住所不定で出自不明の流れ者が出入りするような建物には見えねえな。
何つーか、質実剛健では有るが洒落っ気が有って、どこかの社屋か町役場みたいな雰囲気が有る。
まあ、悩んだところで時間の無駄だな。
「入るか」
「はい」
内開きの扉を押し開けて、ケイナを伴って建物内へ踏み込む。
ゲームやマンガに出て来るような、1階に酒場が併設されていて昼間っから酔っ払って新人に絡んでくる中堅冒険者が―――、なんて雰囲気は全くねえな。
ブン殴っても許されるチンピラなんてもんは大歓迎だったのに残念だ。
コンビニの店舗ほどの広さがあるロビーに、落ち着いた色合いの無垢材の床に、同色のカウンター。
全体的に質素で小綺麗な雰囲気のフロアーには疎らにしか人影がない。
しかも、数少ない人影は全てカウンター内だ。
この状況を日本語で端的に表せば、“閑古鳥が鳴いている”、あるいは、“開店休業”って感じだな。
よほど来訪者が珍しかったのか、カウンター内の従業員たちが目を丸くして俺たちに注目している。
何だ? この雰囲気。
時間が止まったような静寂を破ったのは、一番奥の机でに座っていた女性だった。
女性がコホンと小さく咳払いをすると他の従業員がバタバタと無言で右往左往し始めて、諦めたように溜息を吐いてから女性が腰を上げてカウンターへと歩み出てきた。
「いらっしゃいませ。本日は、どのような御用件でしょうか?」
役所の行政サービス窓口のような一直線に長い木製カウンターの向こうに立った女性の挨拶で、俺たちも再起動する。
オールドミスのキャリアウーマンを思わせる風貌の女性は、極めて事務的に出迎えてくれた。
高い位置で薄い色の金髪を結い上げ、地味な濃紺のハイネックワンピースを着たメガネの女性は、来訪者を相手にもニコリともしていない。
アーデルハイドに厳しく当たった家庭教師かよ。
クララはどこだ?
「アッ、ハイ。冒険者登録をですね」
「(テツさん?)」
不機嫌そうな声のケイナにポコッと腰の後ろを殴られた。
ケイナの細腕に殴られたところでぜんぜん痛くはないんだが、俺が卑屈な態度を取ったときとはちょっと違う感じで不機嫌だな。
「(仕方ねえだろ。ちょっと苦手な高圧冷凍タイプっぽいんだから)」
「(こうあつれい・・・なに?)」
こそこそと小声でケイナが聞いてくるので、挙動不審者化した俺もコソコソと小声で答えてしまう。
がさつな俺は、反応がない女性ってのは扱いに困るんだよ。
冒険者③です。
ここが例の!?
次回、問題発生!?




