冒険者 ②
おっと。これは日本人―――、勇者関係だと疑われたか?
兵士の反応にピンと来た。
ケイナんちの爺さんが地球から拉致られてきた“勇者”は日本人が多いと言ってたからな。
厄介なことになる予感しかしねえから、ここは徹底的に否定するべきだろう。
「お前、西方から来たのか?」
「東ッスけど」
西方―――、日本人を拉致している神教会って意味だろう。
俺は宗教とは無関係だし、東洋人だからな。
俺は何一つ嘘を言ってねえ。
ただ、“どこの東”と言ってねえだけだ。
「ふむ・・・。お前の血族に西方出身の者は居るか?」
「いいえ? 親も親戚も東の生まれッスよ」
首を傾げて惚ける。
周囲に迷惑を掛けまくった末にくたばったクソ親父も昭和の底辺生物丸出しだったし、ザ・日本人の俺に西洋人の血は入ってねえし。
因みに俺は、ただの一度も親戚の顔をみたことがねえ。
「む。そうか」
「そっちの子供は?」
「うちの子ッス」
ケイナはフードを取らないまま、ペコリとお辞儀する。
見るからに子供の背丈だから、ケイナは問題ないだろ。
「王都には何の用で?」
「仕事が多いと聞いたんで、冒険者になろうかと」
「子供もか?」
兵士が驚いた目で俺とケイナを見較べる。
ニッと笑ってみせる。
「魔法術士の素質があるんで、俺の助手で修行させてるんスよ」
「今から冒険者登録をするのだな?」
「その通りッス」
思案顔の兵士は唸りながら俺の顔を見てくる。
何だ? この反応は始めてだな。
「よし、頑張れ。二人分で銀貨10枚。馬が3頭で銀貨9枚だ」
「??? わかりやした」
がんばれ? 心の中で首を捻りながらもヘコヘコと頭を下げる。
「そこの記名台で名前を告げて、入市税を支払え」
指し示された側に、外壁の壁面にカウンター式の窓口が開いていて、帳簿を前に羽根ペンを手にした兵士が座っている。
口頭で名前を告げれば、兵士が書き取りまでしてくれるようだ。
この検問管理システムは文盲の国民、あるいは来訪者が一定数以上いるってことだろう。
文盲率ってのは文明進度を測るバロメーターの一つでも有る。
文盲が多いぐらいの成熟度なら詐欺まがいの手口でボロ儲けを企むことも出来そうだが、その場合の競合相手は権力者側になる可能性が高い。
権力者の横暴が罷り通りやすい環境とも言えるだろうし、ヘイレンヤード領で戦略的撤退をした選択は間違っていなかったと考えられる。
こう言った場合、権力に力で対抗しようとするのは愚策だ。
敵対せず利用する。
その先に俺がケイナたちに残してやるべき活路が有る。
「承知しやした」
首に吊した毛皮袋を首元から引っ張り出して、大銀貨2枚をカウンターに置く。
小銀貨1枚の釣り銭を受け取りながら、窓口の内側に座っている別の兵士に声を掛ける。
「スミマセン。冒険者ギルドって、どこに有るんスかね?」
「冒険者ギルド? それなら、この通りを真っ直ぐ行って―――」
こっちの兵士も、すごく親切丁寧に道を教えてくれるじゃねえか。
過疎化に喘ぐ日本の地方都市じゃ有るまいし、おもてなしの精神にしても気持ち悪いな。
冒険者が少なくて困っている現状が関係してるんだろうが、度が過ぎてねえか?
テツとケイナで窓口に名前を告げ、俺たちは何事もなくリテルダニア王国の首都、王都リテルへと入ることに成功した。
馬の手綱を牽いて検問所を離れれば、小走りに付いてきたケイナが横目に俺を見上げてくる。
不満そうな顔だな。
「テツさん。さっきの口調」
「分かってるって。役人ってのは下手に出たほうが早いんだよ」
しばらく一緒に過ごしてみて分かったことが有る。
誇り高く生きる教育を受けてきたケイナは、必要以上に遜ることを善しとしないところが有る。
「そういうもの、なんですか?」
「覚えとくと良いぞ。役人を相手に反抗的な態度は悪手だ」
こいつは実戦証明済みの鉄則だ。
ちょくちょく役所の窓口で怒鳴っているお馬鹿さんが居るが、怒鳴れば怒鳴るほど、役人ってのは意固地になる。
役人も人間だからな。
役人じゃなくても気に入らねえ奴が相手なら意固地になるってもんだ。
交渉するなら”落としどころ”を作って理詰めにしないと、お互いに時間の無駄なんだよ。
それにしても、だ。
冒険者ってのは、要するに”武装した流民”だろ?
状況を整理しようとする俺を見上げてケイナが小首を傾げる。
「どうかしましたか?」
「ああ、いや。兵士たちの態度が、親切すぎる気がしてな」
「親切なのは良いことでは?」
そうなんだけど、先に情報収集したほうが良いな、コレ。
なんか臭うわ。
「日が暮れる前に、冒険者ギルドに登録して素材を換金しちまうぞ」
「わかりました」
さあ、鬼が出るか蛇が出るか。
有利な関係が作れそうなら、突っ込んで交渉してもいい。
ひと勝負、行こうか。
冒険者②です。
違和感!?
次回、冒険者ギルド!?




