冒険者 ①
王都に入るためには、外堀の跳ね上げ橋を渡った先に外壁門の検問所でチェックを受ける。
入市資格を持つものは無料。
入市資格を持たない者は検問所を通る度に、一人あたり銀貨5枚の入市税を支払う必要があるらしい。
そして今、俺たちはその検問所の入市チェック待機列に並んでいる。
「へぇ? 小銀貨5枚は良い値段だな」
「そうでもしないと、みんなが王都に来ちまうからね」
いくらか身綺麗な商人風の男は、そう言って胸を張る。
何でコイツが偉そうに胸を張るのかといえば、コイツは王都の戸籍住民で入市資格持ちらしい。
「用も無いのに来るな、ってことじゃねえの?」
「そうかも知れないね」
ハッハッハ。なんて感じで男と一緒になって朗らかに笑ってみせるが、一見さんお断りのボッタクリ店か?
他に領地に較べて2倍強ってのは、ちょっと強気すぎる価格設定だろ。
入市税が一人あたり5,000円と考えれば、「ちょっと」どころかかなり高い。
一人あたり5000円を毎日税金で取られてみろ、1家庭じゃなく1ヶ月間に一人15万円だぞ。
普通は一瞬で破産するだろう。
そこそこ稼げねえ奴は、一度入ったら王都から出るのを躊躇う金額だろうな。
地元民なら物価にも詳しいだろうと雑談形式で男から聴き取りを続ける。
物価としては、大衆食堂での1食の相場が、銀貨1枚から2枚程度。
中級の大衆宿での1泊の相場が、素泊まりで一人あたり銀貨5枚程度。
食事や宿の相場は他領の2倍までは行かないぐらいか。
共同の大浴場付きの宿だと、1泊の相場が、一人あたり大銀貨2枚程度。
風呂、高えな・・・。
風呂無し食事無しの素泊まりとして考えれば、日本の物価よりも高えぞ。
王都の戸籍住民と、冒険者ギルドの他、各ギルド員は個人単位での入市資格があって、入市税は無税。
各ギルドってのは、王都には冒険者ギルドの他にも、商人の集まりである商業ギルドや製造業に携わる職人の集まりである工業ギルドが有るらしい。
ギルド員は取引ごとに、入市税を兼ねた一定額の取引税をギルドに徴収される。
戸籍住民はギルドでの取引税が軽減税率になる。
その代わりに、国家庇護下の正式な国民である戸籍住民は、住民税に当たる人頭税の課税がある。
この戸籍は税収の試算に用いられる住民基本台帳的なもので、絶対的な資格ではない。
人頭税を払えないと王都の戸籍を喪失するから、無職ニートは資産を食い尽くした時点で追い出される仕組みなんだと。
とはいえ、王都内にはスラム街のような貧民が居着いて出て行かない区画も存在するらしい。
居座ることは出来ても今度は王都から出入りが出来なくなって稼げなくなるから、貧民から抜け出せなくなるんだろうな。
戸籍は買えるがクッソ高いらしい。
戸籍が無くても家屋だけの所有は可能。
土地の所有は戸籍住民にのみ許される、と。
ペラペラとよく喋る男から搾り取れる情報はこんなもんか。
丁度、男の順番が回ってきたから、互いに手を挙げ合ってサヨナラだ。
ルールを知っておくのは、円滑、かつ、平穏に暮らすための最低条件だ。
これを軽視して自我を主張する奴は軋轢を生んで社会システムから排除される。
逆に言えば、社会システムや経済構造を深く理解してる奴ほど旨味のある部分にありつける。
この点は政治形態や人種に限らず、社会というもの自体の共通項だ。
より良い人生を送りたいなら、このシステムを理解して適合する必要が有る。
ここが難しい部分で、社会に適合するだけならそう難しいもんじゃねえんだが、旨味が有るかどうかといえば、単純に語れねえのが社会ってもんなんだよなあ。
法律や慣例というルールに従わない奴が排除されるのは当然なんだが、ルールに従ってるだけじゃあ旨味が薄いんだよ。
真面目に正しく生きてる奴が損をするって意味じゃなく、社会システムやルールってのは最大数に出来るだけ等しく恩恵を分配しようとするものだからだ。
1ホールのケーキを4人で分けるのと100人で分けるのとでは、どっちの方が分配率が高い?
分配対象者が少ないほど個々の取り分は大きくなるのは当然で、だからこそルールを破ってボロ儲けを企む奴らが出てくるんだよ。
それほどまでに横紙破りには旨味が有る。
アウト判定を食らえば犯罪者の烙印を押されて社会システムから排除されるわけだが、そのギリギリのライン―――、グレーゾーンが一番旨い。
俺が狙うのは、そこだ。
冒険者ギルドへの登録の必要も有るしなあ。
拠点をどこに構えるか、という課題は王都に入ってから治安状況を踏まえて判断するとして、一旦は王都入りを優先しようか。
ギルドに所属しなくても経済活動は出来るそうだが、検問所を出入りする度に銀貨5枚を巻き上げられるなんて馬鹿馬鹿しいから、予定通り何らかのギルドには所属しておくべきだな。
まあ、稼ぎの効率から考えても冒険者ギルド以外の選択肢は無いようなもんだが。
本格的に拠点を構えるなら、風呂付き家屋の所有は考えても良いかもしれない。
毎日を風呂もない宿暮らしなんて、無駄金にしかならない気がするのは、日本人メンタルだからだろうか。
王都外壁の外に、広い露天風呂付きの馬鹿デカい家を勝手に建てて住んだら、不味いのかねえ?
外の土地は余ってるっぽいけど、不味いんだろうなあ。
俺たちは100人ほどの行列の半ばに並んでいる。
検問待ちの行列の中には、馬車の他にもロバ車っぽいものがチラホラ雑じっている。
1国の首都でもコレか。やっぱり、この世界の運搬・移動手段は馬車程度なんだな。
王都領へ入ってからの宿場町でも、この王都は1000年近い歴史を持つ城塞都市だと聞いた。
城壁の外周は直径4キロメートルほどの円形で、3重になった同心円形状の城壁で区画が3つに区切られている。
その中心に建っているのが王城らしい。
王城は東西南北に四面が向いた正方形の形状で、その王城のさらに中心に建っているのが、あの目立つ塔なんだと。
「次の者!」
「ウッス」
真面目っぽい兵士の前へ進んで、俺だけが、平然とマントのフードを捲って見せた。
こういうのは、堂々としているほうが怪しまれねえからな。
すると、兵士の視線が俺の頭へと向いた。
同時にピリッと危険物センサーに反応が走った。
「その髪の色・・・」
「髪? 俺の髪がどうかしたッスか?」
兵士の問いにシレッと惚ける。
冒険者①です。
グレーゾーン狙い!?
次回、不評!?




