状況変化 ㉞
「何? フェイクが?」
工房へ取って返してフェイクから聞いた話を伝えるとレイバンが眉間を険しくした。
難しいで唸るが否定しないんだな。
「ああ。確度は分からねえらしいが厄介事は避けたい」
「フェイクは情報通だからな。それに、領主様なら有り得る」
レイバンも同意するようなら、ここの領主はそれなりの曲者なんだろう。
伊達に政治的な隙間を泳いでいないってわけだ。
「飼い殺しは勘弁なんでな。すぐに町を出るつもりだ」
「だろうな。それで、お前らはどこへ行くつもりだ?」
納得顔でレイバンが頷く。
このオッサンは約束を守るタイプだから目的地を教えても大丈夫だろう。
もしもレイバンが行き先を喋ったとしても、他所の領地へ入っていれば手出しは難しいはずだ。
「元々、王都に向かってたんだ」
「そうか。なら、モノはギルドへ送ってやる」
ほほう? ギルドってのは、冒険者ギルドって理解で良いんだろう。
日本の宅配便で言うところのコンビニ受け取りみたいなもんか?
「そんなことが出来るのか?」
「ギルドってのは冒険者を補助し、管理するために有るんだ。組合員ならギルドで受け取れる」
「管理、ねぇ」
微妙な話を聞いちまったな。
冒険者登録ってのをするつもりだったんだが登録して大丈夫か?
「そりゃそうだろ。どこで何をしてきたか分からねえ流れ者ってのはピンからキリまでだ。領軍でも手に負えねえ戦闘力を持ってるヤツともなれば最低限の管理は必要になる」
「首輪を付けたくなるってわけか」
褒めてるのか貶してるのか分かりにくい言い方をしつつ、レイバンは俺に胸元を指す。
随分とレイバンは俺たちを高く買っているらしい。
軍隊よりも強いって認識か。
例の“王国最強”なんて領地も存在するんだから、ここの軍隊と較べてって意味か?
どのみち分かりにくい基準だな。
微妙な気分が表に出ちまった俺の表情を誤解したのか、レイバンはメリットを口にする。
「とはいえ、悪い話ばかりじゃねえぞ。仕事の斡旋はギルドの権限だからな」
「ふむ。信用を作れってことだな?」
我が意を得たりとばかりにヒゲ面のオッサンがニヤリと口角を引き上げた。
ただでさえ人相が悪いのに、言ってる中身はもっと悪い。
このオッサンは「信用の有る奴に美味い仕事が回る」と示唆したわけだ。
「信用が置ける冒険者ってのは少ねえんだ」
「信用が有れば、それなりに美味いと」
癒着が通用するってのは有益な情報なんだが、婉曲な言い方で裏の意図を臭わせるのは、こっちの連中の特徴か?
少なくとも俺の理解は間違っていなかったようで、レイバンは話を切り上げる。
「そういうこったから、ちょっと待ってろ」
「ん? おう」
どこかへ歩き去ったレイバンを待つ間、10分間ほど職人たちがガラスを吹いている様子を遠目に眺める羽目になった。
領主が動き出す前に町を出たいんだがなあ。
ガラスってのは文字通り「吹く」んだよ。
2メートルぐらい有る金属パイプの先に高熱の炉で溶かした珪石を取って、風船みてえに息を吹き込んで薄く膨らませる。
そいつを型に嵌めて冷やし、チョキンとハサミで切るとガラス瓶やグラスの形に整形できる。
ガラス職人たちの仕事振りをケイナに解説していると、レイバンが戻って来て俺の手に封筒を押し付けてきた。
「コイツを持ってけ」
「これは?」
封筒の表には例のモヤシが並んだような文字が書かれていて、誰かに当てた手紙であることが窺えた。
「推薦状だ。それと、町を出るときには俺から鉱山への届け物を預かったと言え」
「アンタは大丈夫なのか?」
このオッサン・・・。昨日会ったばかりの俺たちのためにリスクを背負おうってのか。
買って貰ってるのは嬉しいが、さすがに心配になっちまう。
「ビクトルなら何とでも話を合わせる。犯罪者じゃねえんだから領境の関所までは手を回しちゃいねえだろ」
「そっか。世話んなったな」
義理を受けちまったら、どこかで返さなきゃなんねえな。
礼を口にすれば、レイバンは首を振った。
「なに言ってやがる。世話んなったのはこっちの方だ」
「そういうことにしとくか」
いかにも職人って絵面で見てくれは悪いが、なかなか気持ちの良いオッサンじゃねえか。
「ガラス関連で力になれることが有ったらいつでも言え。お前の仕事なら引き受けてやる」
「おう。んじゃ、またな」
「おう。達者でな」
フェイクに引き続いてレイバンともガッシリと握手を交わして俺たちは工房を後にする。
レイバンに言われた通りに検問所で兵士に伝えれば、疑う様子も無く兵士たちは俺たちを素通りさせた。
領主からの指示がまだ出ていないのか、それともフェイクの読み違いか、その答えが分かったときには手遅れになっちまう。
答えが無いまま急ぎ足で街道を駆け抜けた俺たちは、無事に領境の関所を越えて次の領地へと入った。
状況変化㉞です。
無事に脱出!
次回、3つ目の領地!




