状況変化 ㉝
「都合良く王国へ向かう商隊護衛の仕事が有れば良いんだが、困ったことに魔獣素材の輸出を国王陛下が止めちまってるから商隊の行き来が少なくなってるらしい」
「自腹で移動するしかないってことか」
俺の認識を修正するなら、移動にカネを使うのではなく移動しながらカネを稼ぐ仕事は有るんだな。
ところが、ここの国の方針で移動しながら稼ぐ手段が無くなっちまったと。
国が物流を制限するってことは、それなりの理由は有るんだろう。
地球で言えば、特定の国に最先端半導体の輸出を制限するようなもんだ。
あれは「国家安全保障上の理由」だっけかな。
グローバリズムが浸透した世界経済でも用いられる物流制限政策なら、侵略戦争が当たり前の世界であれば、もっと普通に行われるだろう。
通行税も手元に残さずに使っちまう冒険者の計画性の無さが人手不足の一因とはな。
成果給で収入が不安定なのに、ちょっとカネを貰うと秒で衝動買いするフリーランスかよ。
「ま。今は状況が状況だ。実力の有る奴なら領主様が家臣として雇い入れようとなさるかも知れん」
「へぇー」
雇い入れねぇ。
兵士としてか騎士としてか、どのみち、安い賃金で便利遣いにされる未来しか見えねえな。
ここの領主がどんな奴かは知らねえが、普段から“中立派”だとか駆け引きで世間を泳いでいるようなヤツだろ?
そんな話に乗る奴が居るのか?
居るんだろうなぁ・・・。
場合によっては権力を笠に着て力尽くで従わせようとする恐れも有るな。
俺の反応が薄いことにフェイクが皮膜から目を上げる。
「何だ。興味無さそうだな」
「飼い殺しにされるのもなぁ」
俺の返事にチラリと表通り側のガラス窓へ目を遣って、フェイクは声を潜める。
「だったら、早めに他領へ出た方が良いかも知れんぞ」
「うへぇ。マジかよ」
悪目立ちしてマークされてるってことか?
フェイクの情報を聞いた瞬間からピリピリと危険物センサーが反応してやがる。
そういや、検問所の兵士が領主に報告するって言ってたな。
個人営業の店内で声を潜めることにどれだけの意味が有るのかは疑問だが、誰かに聞かれると拙い話なんだろう。
ご機嫌を損ねるとヤバい領主なのかも知れねえな。
まあ、封建制の身分階級からいえば、身元不明の流れ者の扱いなんてお察しだしな。
「あくまでも予想だから外れても恨むなよ?」
「そんなことするかよ」
国内の最新情勢といい、領主の動きといい、この男からは役に立つ情報を貰った。
正確だろうが不正確だろうが関係ねえ。
その可能性が有るってだけで対応するに値する。
今回は「借り」ってことにしておくか。
金貨2枚程度、ケイナが抱えているリスクに較べればどうってこともねえから、情報量として渡しちまっても良いんだが、フェイクは情報料が欲しくて話したわけじゃねえことぐらいは分かる。
ほとぼりが冷めたら儲けさせてやるよ。
「なら、またいつか良い素材が有ったら持ってきてくれ」
「ああ。分かった」
コイツ、なかなかの商売人じゃねえか。
フェイクの方も俺が理解したことを察してニヤリと笑う。
「で? 金貨2枚で売るのか?」
「それで構わねえよ」
「ヨシ。じゃあ、商談成立だな」
ガッシリと握手を交わし、皮膜の代金を受け取ってフェイクの店を後にした。
馬に跨がって来た道を戻りながらケイナに今後の予定を伝える。
「レイバンのところへ戻るぞ」
「さっきの話ですか?」
ただ事ではないと察したらしいケイナの質問に、端的に答える。
「ああ。ちょっと拙いことになりそうだから、ずらかる」
「ずら?」
「逃げるって意味だよ」
ちょっとばかし乱暴な説明だが、今は要点が伝わればそれでいい。
「逃げないといけないんですね」
「別に俺たちが悪いことをしたわけじゃねえぞ」
何となくでも察していたらしく、ケイナの声が元気を失う。
クソ領主が、ケイナを落ち込ませやがって。
いつか意趣返ししてやるからな。
「と、いうと?」
「仕事が出来そうなヤツらだと領主が俺たちに目を付けたっぽい。ロクな結果になりゃあしねえから、こういうときは手出しできねえ後ろ盾が出来るまで近寄らないに限る」
「そういうことですか」
状況を理解したケイナの声が少しだけ元気を取り戻した。
状況変化㉝です。
良くない情報!
次回、次の領地へ!?




