状況変化 ㉛
「アンタら、一体、どうやって狩ったんだ? あの坑道は剣を振るにもギリギリの広さしか無いし、どうやったらこんなに綺麗な状態で狩れるんだ?」
「俺たちは武器を使わねえからな」
あー。またそれか。
「武器を使わない!?」
「拳一つ有りゃあ十分だろうが」
フィエクの前へグッと固めた拳を示して見せる。
「そんな馬鹿な!」
「俺は拳闘士なんだよ。この拳以外に武器なんざ要らねえ」
これは俺の本心だ。
俺はこの拳一つで、とんでもねえバカ野郎どもと渡り合ってきたんだからな。
俺が何よりも信じて居るのはこの拳だ。
俺の答えにフェイクは感心したように目を丸くする。
「拳闘士とは珍しいな! 道理で素材が綺麗なわけだ!」
「そうなのか?」
惚けてみればフェイクは勝手に喋り出す。
そういや理由を聞いたことはなかったな。
「迷宮探索以外の仕事をする冒険者では初めて見た程度にはな。珍しいと言われたことはなかったか?」
「有ったな。何でだ?」
迷宮探索以外? 獣を狩るって意味か?
首を傾げれば俺の胸元を指さしてくる。
「考えてもみろ。腕の長さと剣を握った腕の長さのどっちが長い?」
「そりゃまあ、剣を握ってる方が長いわな」
リーチの差は当然有るだろう。何を当たり前のことを。
「辺境地域においては人間と戦うよりも魔獣と戦う機会の方が多いんだ。しかも、魔獣は鋭い爪や牙を持ってる。命のやり取りをするのに腕は長い方が有利だ」
「あー。まあ?」
したり顔でフェイクは知識を開陳する。
「コウモリだって鋭い牙を持ってただろう? 魔獣に較べりゃ可愛いもんだが、噛み付かれたら腕の1本ぐらい噛み千切るのに造作はないんだ」
「普通はそうかもな」
俺も最初はそう思って、犬っコロと戦うときに警戒してたもんだ。
フェイクは首を傾げながらも検品を再開する。
「アンタは普通じゃないと?」
「少なくとも、コウモリ程度なら目を瞑ってても外さねえよ」
危険物センサーで接近も飛んで来る場所も分かってたからな。
自分の感覚を信じて腕を振り抜くだけで面白いようにクリーンヒットするんだから、ボーナスゲームみてえなもんだったんだが。
「大した自信だが、子供を連れてるんだから、もっと慎重になった方が良いぞ」
「そうなんだが、うちの子は強えからな。忠告には感謝する」
それを言われると辛えな。
俺だって現状が望ましいとは考えちゃあ居ねえし。
「まあ、アンタらにも事情が有るんだろうが、精々、気を付けることだ」
「冒険者ってにはワケ有りが多いのか?」
一般論で世間が「問題が有る連中」って認識なら、商売替えも視野に置いておく必要も有るか?
ケイナを目立たせるのは得策じゃあなくなってくる可能性が有る。
俺の心配を他所にフェイクは小さく肩を竦めた。
「言わば流れ者だからな」
「根無し草ってヤツか」
反社会的なアウトローって認識では無さそうか?
他に出来る仕事がないから危険な仕事に就いているって意味なら、そこまで警戒する必要は無さそうなんだが。
「色々と事情を抱えてるヤツは多い。アンタらは違うのか?」
「似たようなもん、では有るな」
どこからどう見ても、そこは誤魔化しようがねえだろう。
「命懸けの危険な仕事なんて、何事も無く、長く続けられるもんじゃないだろう。しっかり稼いだら早めに別の商売でも始めた方が良い」
「そうだな。考えておく」
そこは同意だな。事故が起こらねえうちに身の振り方は考えておいた方が良い。
どうやらフェイクは子連れの俺を心配したらしい。
コイツは善意で言ってるわけか。
俺の返事にフェイクは小さく肩を竦める。
「あんまり立ち入った話をするもんでもないな。仕事の話に戻ろう。全部で金貨2枚でどうだ?」
「それは適正価格なのか?」
職人の顔に戻ったフェイクは指を2本立てた。
別に金貨2枚で構わねえんだが、適正価格は知っておきてえ。
「単価としては少し安めになるな。ただ、あまりにも数が多すぎる」
「ほう? 少ない方が単価が伸びたと?」
ひと山いくら、は仕方ねえな。
20万円の400匹分だと1匹あたり500円ぐらいか。
んーっと。片翼だと250円だな。
手間を考えると魔獣に較べれば、あまりにも単価が安い。
状況変化㉛です。
市場原理!?
次回、情報収集!?




