状況変化 ㉚
「あっ。テツさんテツさん。アレじゃないですか?」
「どれどれ?」
ケイナが指す看板を見上げてもミミズがのたくったような文字は俺には読めねえから、ケイナが指した建物のガラス窓を観察する。
「看板に“フェイク皮革商会”と書いてあります」
「レイバンは素材屋と言ってたが、皮革専門か? フェイクレザーかよ」
なんてネーミングセンスだよ。
大丈夫か、この店?
「ふぇいくれざー、ですか?」
「あー。何て言えば良いんだ? 地球だと“人造皮革”っつって、偽物の革を作れるんだ。“フェイク”っつーのが“偽物”って意味で、“レザー”ってのが“革”って意味になる」
地球の言葉を解説すると、ケイナが目を丸くして建物を見た。
「あの店、偽物なんですか?」
「いやあ。フェイクって人間の名前じゃねえの? 知らんけど」
確かレイバンは、「フェイクってヤツの店」と言ったはずだ。
フェイクの素材を取り扱っている店とは言っていなかった。
微妙な気分で皮革素材店の建物を見上げていると、ケイナの方が先に割り切ったようだ。
「行ってみますか?」
「おう。サッサと臭え革を手放してえしな」
グズグズと悩んでも仕方ねえ。
店舗の前に設えられた柵に手綱を結んで、馬の背から麻袋を一つ下ろす。
入口の使い込まれた木製扉を押し開けて店内に踏み込めば、強い革の臭いが店内に満ちていた。
蛇革やワニ革みたいな雑多に素材も積み上げられているから、皮革類なら何でも取り扱う店なんだろう。
店の奥に小さなカウンターが有って、その奥の扉の向こうからガサガサゴソゴソと物音が聞こえてくる。
「誰か居るかい?」
「ちょっと待ってくれ! 今、行く!」
誰かが居るのを分かっていて声を掛ければ、数メートルの距離から男の声が答えた。
ガサガサゴソゴソと音が大きくなって1~2分間。
こっちの世界では手元の作業が有れば客を待たせる方が普通らしい。
ようやく出てきた店員は無精ヒゲを生やした四十がらみのオッサンだった。
死体の一部を剥ぎ取ったものを取り扱っているせいか、どこか生気の無いオッサンだな。
「いらっしゃい。革をお探しで?」
「アンタがフェイクさんか?」
いかにも冴えない風体のオッサンは、無精ヒゲの顔を訝しげに歪める。
「そうだが、アンタは?」
「レイバンの紹介でコウモリの皮膜を売りに来た」
用向きを伝えれば、フェイクはクワッと目を見開いた。
それまでの生気の無さが嘘のようにカウンターの向こうから身を乗り出してくる。
「コウモリ!? 鉱山のコウモリを討伐したのか!?」
「ああ。鉱山は採掘を再開したぞ」
結果を伝えれば、フェイクは手でも叩かんばかりに表情を明るくする。
「そいつは良かった! 内戦が終わったってのに、採掘が止まってちゃあ困るからな!」
「これが、その皮膜なんだが」
ほう? 内戦は本当に終わったのか。もうちょっと掘り下げて訊きてえが、仕事を終わらせる方が先だ。カウンターの上にちょっと臭う麻袋を置けば、一転して仕事人の顔になったフェイクが麻袋の口に手を掛けた。
「ヨシ。査定しよう」
「まだ他にも袋が有るから取ってくる」
「分かった」
麻袋から引っ張り出した皮膜に目を凝らして顔も上げないままフェイクは答える。
コイツも職人だな。
普通に仕事は出来そうだと安心して残りの麻袋も馬の背から下ろしてやる。
麻袋の数は全部で8つ。
一袋の重量は10キログラムも無いと思うが、重荷を下ろされた馬は安心した顔をしていた。
全部の麻袋をカウンターの上にドッカリと積み上げてやれば、さすがに仕事中の職人も目を剥いた。
「って、こんなに有るのか!?」
「珪石の坑道に住み着いてたヤツらを一網打尽にしたからな」
始末してくれって言うんだから、そういう依頼だったんだろう。
そうじゃなくても、その場に狩れる獲物が居れば狩れるだけ狩るのが普通じゃねえか?
「何百匹居たんだ!?」
「400匹は居たかな。臭えし面倒で数えてねえ」
臭くて触りたくなかったのが9割で、数が多くて数えるのが面倒だったのが1割だな。
数が纏まれば単価が下がるのは必然だから、ひと山いくらになるものと覚悟していた。
「これだけの数をアンタたち2人で狩ったのか?」
「おう。2人だけだ」
ひとしきり驚いた後、フェイクは真面目に品定めの作業に戻った。
ところが今度は検品をしながらブツブツと独り言を零し始める。
「コレも・・・、コレも、コレもだ。しかも、余分な傷がまるで無い」
「うん?」
顔を上げたフェイクの様子にただならぬものを感じて首を傾げる。
状況変化㉚です。
終戦!?
次回、信じるもの!?




