状況変化 ㉘
「炭と、他にも何かを燃やしているような臭いがしますけど、ここって何をする場所なんですか?」
ケイナも臭いに違和感を感じたらしい。
スンスンと臭いを確かめて、嗅いだ記憶のない臭いなのか微妙そうな表情で首を傾げている。
「たぶん、炉で燃やしてる石炭か何かの臭いだと思うんだがなぁ」
「“ろ”って何ですか?」
「“炉”は高い温度に出来る竈のことだ」
ふんふんと頷いたケイナが再び首を傾げる。
「せきたん、とは?」
「石みたいに硬い炭、みたいなもんだな」
「炉で燃やす石みたいに硬い炭で“石炭”ですね。覚えました」
また頷いているが、今度はケイナの首も傾いていない。
ケイナの質問は、「何をする場所か」だったな。
「宿の窓にガラスが入ってただろ」
「はい。ガラスって凄いですよね。硬くて風を通さないのに窓の外が見えるんですよ」
そういや、エンツェンス宿で熱心にガラス窓を見てたな。
「あのガラスの材料が珪岩や珪石なんだよ」
「石ですよね?」
ケイナには石が「溶けるもの」って認識がないのかもな。
森の中で強い火を使わずに生きてきたんだから、工業的な炉のイメージは湧かねえんだろう。
「そうだぞ。あの石をスゲエ温度の高い火で熱するとドロドロに溶けちまうんだ」
「石が溶ける? あの白い石が動物の脂みたいにですか?」
ケイナの言う「あの白い石」ってのはビクトルが掘り出させた珪石のことだ。
やっぱりアレがガラスになるとは想像できなかったか。
日本だと製鉄所の映像なんかも簡単に目にすることが出来るが、見たことが無いヤツに炉で溶けた珪石をイメージしろって方が無理難題だな。
「おう。ネバネバした水みたいにな。そんで、それを板状に延ばして冷ますと窓ガラスに嵌まってるガラス板になる」
「石が透明になるんですか!?」
スゲエ食い付きだな。
相当に驚いたようで、大人しいケイナにしては珍しく大声になってる。
「お、おう。随分と興味が有りそうだな?」
「ガラスですよ!? ガラスの作り方を見られるなんて凄いじゃないですか!」
「そ、そうだな」
今日は済ませておく仕事が残ってるが、ケイナの見聞を広げる意味でレイバンに工場見学でもさせて貰うべきか?
そんなことを考えていると、通り沿いの建物から木箱を抱えた職人っぽい男が出てきた。
「なあ、アンタ。レイバンの工房ってどこか分かるか?」
「んあ? レイバンさん? レイバン工房なら、次の角を左に曲がって2つ目の角を右だ。看板が出てるから直ぐに分かるぞ」
「あんがとなー」
両手が木箱で塞がっている男は意外なほど友好的に、初対面の俺たちに道を教えてくれた。
礼を伝えて男が言った通りに脇道を進んで行く。
「あっ。ここじゃないですかね」
「おっ。そうか」
壁面に掲げられた大きな一枚板の看板をケイナが指した。
結構大きな建物だな。
工房って言うから一軒家程度の建物をイメージしてたんだが、普通に町工場ぐらいの規模感がある。
建物の上を見上げれば、20メートルは高さが有りそうな煙突が立っていて、黒っぽく濁った健康に悪そうな煙を吐き出していやがる。
日本でなら環境基準違反で操業停止処分を食らいそうな勢いで煙を吐き出しているが、こっちの世界には環境基準なんてものはねえんだろう。
入口脇に柵が据え付けられているから馬たちを繋ぐ。
「こんちわー! レイバンは居るかー!」
「今、手が離せねえ! ちょっと待ってろ!」
デカい声で呼べば、奥の方から怒鳴り声が返ってきた。
観音開きの木製扉が開けっぱなしになっている入口から建物に入ると、奥の方に明るいオレンジ色の光を放っている炉の炎が見えていて、何人もの薄着の男たちが立ち働いている姿が見えている。
奥の方が炉の有る作業スペースで、入口側の木箱やら何やらが積み上げられているスペースが出荷作業なんかをする場所か?
「うわぁ。熱いですね、ここ」
「そりゃあ、炉を火で熱してるからな」
室内の熱気に目を丸くしたケイナがパタパタと手のひらで自分を仰いでいる。
森の中で生きてきたケイナにとっては、真夏の日本と変わらないレベルで暑い空間は初めての経験だろう。
俺としては日本を思い出しちまう程度で普通に耐えられる暑さだけどな。
5分間も待たされないうちに、工房の奥からむさ苦しいオッサンが出てきた。
状況変化㉘です。
現地人の生活風景!
次回、依頼完了報告!
※本日は投稿時間が遅くなって申しわけありません!
ちょっと体調を崩して風邪薬を服用したところ、足がむくんで椅子に座れない状況となっておりました!
たぶん、もう大丈夫だと思いますので、今後ともよろしくお願いいたします!




