状況変化 ㉗
「終わりましたね」
ヘイレンヤード領の領都への帰路に就いてほどなく、谷の向こう側に見える鉱山を眺めながらケイナがポツリと零した。
一仕事終えた感慨みたいなもんかな?
依頼として請けたものとしては初仕事だったしな。
「おう。お疲れさんだったな」
「テツさんもお疲れさまでした」
ケイナは愚痴ることが無いから、疲れが取れるように気を付けてやらねえと。
市場でマスタードを買いてえし、レイバンにゴーグルを作らせる必要が有るから、どのみち今夜は領都で1泊するつもりだったしな。
ビクトルたちが珪石を採掘しに行っている間に管理小屋で水浴びをさせて貰ったが、体に多少のニオイ移りが残っちまってるから、ケイナが水浴び出来る環境を維持してやりたい。
コウモリ狩りで着ていた服もニオイが付いてダメっぽいから、ケイナに代わりの服も買ってやりたいんだよな。
胴ってことの無い中古品の服だってのに悲しそうな顔で落ち込まれちゃあ、そのままにしておけねえ。
馬に背に揺られつつ、景色を眺めたり駄弁ったりしつつで、日が傾く前に領都へと帰り着いた。
「む? お前たちは昨日の冒険者か」
「昨日はどうもッス」
おっと。城門の検問所に居るのは昨日の出発時に声を掛けてきた兵士か。
小銀貨7枚を手渡そうとすると、兵士は小馬鹿にするような目を向けてきた。
「何だ。コウモリの駆除は諦めたのか?」
「いいえ。終わりやしたッスよ」
舐めてやがるな? と感じたが、軽々しくケンカをするわけにも行かねえから、アッサリと返してやる。
すると、兵士は目を剥いた。
「何!? 鉱山が復旧したのか!?」
「見やすか? コウモリの皮膜。いくらかマシだとはいえ、やっぱり臭えッスけど」
お前もコウモリのニオイで悶絶しろや。
皮膜を取り出そうと馬の背に括り付けてある麻袋に手を掛ければ、兵士が血相を変えた。
「出すな、出すな! コウモリの臭いが体に移ったら家に入れて貰えなくなる!」
「そんなもん、なんスねぇ」
チッ。断られたか。
巻き添えを食らわせてやろうとしたのに、コウモリの臭さを知っていたらしい。
「すると、お前たちは領都に滞在するのだな?」
「レイバンの仕事次第ッスね。あと、皮膜を引き取ってくれる偽をレイバンが紹介してくれるらしいんで、そこへ皮膜を卸しやす」
領都へ入る目的を告げると兵士は鷹揚に頷いた。
「ヨシ。鉱山が復旧した件は領主様へ報告しておいてやる」
「? よろしくお願いしやす」
領主に報告?
勝手にすりゃあいいじゃねえか。
面倒くさそうなヤツだな。
兵士の上から目線に首を傾げつつも反論しないでおく。
「ところで、レイバンの店? 工房ッスかね? どこに有るんスかね」
「次の広い通りを右に曲がって真っ直ぐ行くと工房街がある。少し入り組んだ場所だから、工房街に入ってから改めて町の者に訊くと良い」
「分かりやした」
兵士が偉そうな他には特に問題も無く検問所を通過する。
検問所の順番待ちの列に目を向けと、町から出る側も昨日より混んでる気がするな。
町に入る側の列も昨日より長かったしな。
明らかに昨日よりも町の空気に活気が有る。
そう感じたのはケイナも同じだったようだ。
「昨日よりも人の数が多いですね」
「だよなあ。市場が立つのは明日のはずだが、普段の様子を知らねえから何とも判断できねえな」
ケイナに答えを返しつつ、広めの通りの角を右折する。
通りを行き交う荷馬車の数も昨日より多いな。
明るい表情で立ち話をしている住民の姿も、そこかしこに見掛けられる。
人の数がどうとかってよりも、何となく町の空気が浮かれているように見えるな。
何というか、祭りの日みてえな感じだ。
「ま。レイバンに訊いてみりゃ分かるだろ」
「そうですね」
アッサリと究明を投げ棄てた俺に、ケイナもアッサリと頷いた。
「明るい空気」ってことは、悪い話じゃねえんだろう。
地元のことは、地元の人間に訊くのが一番だ。
兵士に言われた通りに町中を進んで行くと、何かの煙で薄らと霞んでいる町並みに変わってきた。
これが工房街ってヤツか。
炭を燃やしたような臭いに何らかの燃料を燃やしたような臭いが混じっていて空気が悪い。
俺は石炭の臭いなんかは知らねえが、中国や韓国の石炭を燃料にしている国が灰色っぽく煙っている映像はテレビのニュースで見た記憶が有る。
空気の悪さは、そんなニュースで見た光景に似ている。
あの町を灰色に染め上げる煙ってPM2.5なんかの健康に悪い微粒子じゃなかったっけか?
排ガスみてえに汚れて鼻毛が伸びそうな空気だよな。
状況変化㉗です。
空気の変化!?
次回、ガラス工房!?




