状況変化 ㉑
「ああ。光も音も波長って意味では同じものだからな」
「はちょう?」
おおう・・・。説明すればするほど次の伝わらねえ言葉が出て来て泥沼にハマっていく感じがする。
だからと言ってケイナから逃げるような真似はしたくねえ。
理解できるように真っ直ぐ向き合って言葉を尽くすしかねえんだ。
「波のことだ。あのザリガニが居た塩水湖の水も、ザリガニが出てきたとき水面に波が立っただろう? あの波と同じだな」
「ざりがに? 塩水湖に居たというと、カルキノスのことですね」
思い当たってくれたらしいケイナがフンフンと頷く。
今度はケイナの口から俺の知らねえ単語が返ってきたぞ。
「カルキ? まあ、あのデカいヤツのことだな」
「あのときの波・・・。波の長さで“波長”ですか。覚えました」
ケイナは新しいことを学ぶのが好きなようだな。
俺自身が見て調べたわけじゃねえし、俺が偉そうに教えるなんて烏滸がましい話なんだが、先人の知恵ってヤツは信じるに値する情報だろう。
取りあえず、これ以上の泥沼にハマって抜け出せなくなる前に軌道修正だ。
「まあ、そんなヤツをコウモリって動物は目の代わりにするんだよ」
「ほーう」
ケイナが感心したのは「目の代わり」っと部分か?
レーダーやソナーのように音波を使う動物はコウモリだけじゃねえからな。
鯨なんかも、そうじゃなかったか?
モグラや鯉は音じゃなくヒゲの触覚でエサを獲るんだったか。
「そんなわけで、真っ暗闇でもコウモリは物にぶつからず空を飛べる」
「色々な動物が居るんですね」
環境への順応ってヤツは人間の想像を超えるからな。
深海魚なんかは1平方センチメートルあたり数トンもの水圧が掛かる海底で生きてるし、人間の常識は人間にしか通用しねえと考えた方が良い。
そんな風に和やかに喋っていられるのは、そこまでだった。
「そうそう。―――、うごっ!」
「臭っ!!」
風が吹いたわけでもないのに、突如として鼻の奥を強烈なニオイがガツンと直撃した!
頭がクラッとするほどのニオイだ!
こっちは口呼吸をしてんだぞ!?
「何だコレ!? 鼻を塞いでても臭うのかよ!」
「目に染みます! うっぷ!」
確かにな!
涙腺が刺激されて俺も涙目になってきてる!
甘く考えてたか!?
クッソ! かといってコウモリごときに負けられっかよ!
「ケイナはここで休んでろ。近そうだから、チョット見てくるわ」
「ううっ・・・。私も行きます」
手の甲でぐしぐしと目元を擦ったケイナが顔を上げる。
「大丈夫か? 今日は敵情視察だから無理しなくて良いんだぞ?」
「いいえ。行きます」
キッと目力を強くするケイナの姿に、これ以上は野暮だと考え直す。
「そっか。んじゃ、いつでも魔法を撃てるように警戒しろよ?」
「はい」
小さな声で例の呪文を口ずさんだケイナが戦闘態勢になる。
ケイナがヤルと言うなら頭ごなしに止めるのではなく、危険を取り除いて経験させてやるのが親代わりの俺の役目だろう。
俺は危険物センサーでコウモリの接近を把握できるがケイナはそうじゃねえ。
俺が壁になって居城に通さなければ良いだけだ。
それでも慎重に坑道を進めば、両側の壁が見えなくなって少し先がポッカリと暗い穴にしか見えなくなった。
これは、アレか?
「広くなりそうだな。ここが最奥部か?」
「本当に凄いニオイです」
ケイナの鼻声を背中に聞きながら、足音を控えめに足を踏み出していくと、地面にポツポツと何かが貼り付いているのが見えてきた。
たぶん、アレがそうだな。
両側の壁がなくなった先の地面だから、あの辺りから“居る”と思った方がよさそうだ。
危険物センサーの反応も俺たちよりも高い位置に有るから間違い無いだろう。
「糞が落ちてる。足元に気を付けろよ?」
「はい」
ケイナに注意喚起しつつ頭上を見上げる。
俺の直上に浮いている裸電球のような光の球のさらに上、10メートルほど高い位置にたくさんの目が光を反射していた。
「うええ・・・」
「テツさん! 上!」
俺の呻き声が聞こえたのか、ケイナからも注意喚起が返ってきた。
「ああ。気付いてる。向こうも気付いてるようだが今すぐに襲って来る様子は無さそうだ」
危険物センサーの反応も緊急対応を要する警報は発していない。
直ちに問題は無いという俺の判断に余裕を取り戻したのか、ケイナが最奥部の空間を見回す。
状況変化㉑です。
現物にもエンカウント!?
地雷原!?




