状況変化 ⑲
右へ左へとカーブする坑道をしばらく進むと、地下方向へ向かって坑道が下り始める。
坑道ってのは上下左右を問わず鉱脈を追い掛けて掘っていくものだから、アリの巣みたいになるんだったよな。
一本道らしいから道に迷う心配は無いが、左右だけでなく上下にも曲がられると早々に方向感覚を失うものみてえだ。
方向感覚には自信を持ってたんだが、景色も代わり映えしねえし見分けが付かねえ。
「んん?」
現在地点の見当も付かないまま一本道を進んでいると、片側の壁一面が横板で覆われている場所がいくつか有ったんだが、向こう側を覗き込める隙間のある横板を見付けた。
中を覘いてみれば、鋭い傷痕と破断面のある石っころがパンパンに詰め込まれている。
「なるほどなあ。こうやって掘り出したクズ石を廃坑に詰め込んで処分してるんだな」
「クズ石ですか?」
質問と同時に何かを要求するような目をケイナが向けてくる。
数瞬ほど考えて気付く。
俺の目線の高さにある横板の隙間だから、俺の鳩尾よりも目線が低いケイナでは隙間を除くことができねえのか。
「面白いもんでもねえが、覘いてみるか?」
「はいっ」
日本でやれば事案だが、パァッと表情を輝かせるケイナを目にすれば俺に拒否権はねえな。
ケイナの後ろに回って腰骨の辺りを抱えて体を持ち上げてやる。
細いし軽いなあ。
食が細いってことも無いと思うんだが、もっと食わせないと成長不良になるんじゃねえか?
横板の隙間を目の前にしたケイナは興味津々で向こう側を覗き込む。
「ギュウギュウに石が詰まってますね」
「穴を掘ると土が出るだろ? 鉱山も同じでカネにならないクズ石が山ほど出るんだよ」
クズ石の意味に納得したらしいケイナを地面に下ろしてやる。
「ゴミ捨て場なんですね」
「そういうこった。ギュウギュウに詰まっていれば支えになって、天井の崩落も防げるんだろうし一石二鳥ってわけだ」
「いっせきにちょう?」
再びケイナが首を傾げる。
おっと。余計なことを言っちまったか。
普段使ってる言葉は、気を付けていてもついつい出ちまう。
「日本の諺だな。鳥を捕るのに石を投げたら一つの石で2羽の鳥が捕れた幸運を表すんだ」
「石が“せき”で鳥が“ちょう”ですか?」
諺の意味を解説すれば、ケイナは漢字の読みの違いの方に興味を持ったみてえだな。
「ああ。ええっと、何て説明すりゃ良いんだ? 日本で使う文字は一文字にいくつもの読み方が有るんだよ。地球の世界中で一番難しい言葉だと言われてる」
「そうなんですね。一石二鳥・・・。覚えました」
ケイナが興味を持つものもイマイチ分かんねえな。
ふんふんとケイナが頷いたことで、話題を切り替える。
「ところで、何か臭くねえか?」
「さっきから少しずつニオイがキツくなってきていましたよ?」
「そうなのか?」
平凡な嗅覚しか持ち合わせて居ない俺は今の今まで気付かなかったんだが、ケイナは少し前から気付いていたらしい。
女の子はニオイに敏感だからなあ。
ケイナも例外では無かったようで、僅かに眉根を寄せている。
俺も「臭いです」と言われねえように気を付けねえと。
「何でしょうね? このニオイ。獣の糞とは違うニオイだと思うのですが」
「だよな」
首を傾げるケイナに同意する。
同じ動物の糞でも犬猫の糞とはニオイの質が違う気がする。
腐臭と排泄物のニオイが入り混じったニオイいうか、少なくとも俺は嗅いだ記憶の有るニオイじゃねえな。
レイバンもビクトルも口を揃えて「臭え」と言っていたし、生理的に吐き気を催してくる臭さだ。
しかも、こんなものは序の口で、このニオイが最奥部に近付けば近付くほどキツくなる可能性が高い。
「なあ、ケイナ。鼻に詰め物をしておいた方が良さそうだと思うんだが、どう思う?」
「私もそう思っていたところです」
「それと、今着てる服がニオイでダメになるかも知れねえ。捨てても良い服を選べるなら、着替えておいた方が良いと思うぞ」
「あ。それは大丈夫です」
俺の心配にケイナは首を振る。
「そうなのか?」
「古着屋さんのおばさんから、気に入っている服は仕事中に着ないよう言われていましたから」
「おお~。あのオバチャン、良い仕事したんだな」
男の俺では気が付かねえ助言だな。
ま。ともかく今は仕事の遂行だ。
「んじゃあ、やるか」
「はい」
俺が腰に提げていた手拭いを取り出すと、ケイナも同じように手拭いを手に取った。
こいつの端を切って丸めたものを鼻の穴に詰めて、口元を強盗スタイルで覆うぐらいしか防御策がねえからな。
状況変化⑲です。
ニオイ対策!
次回、エンカウント!?




