プロローグ・しつこい雑草は根っこから枯らせば良いのでは? と考えた ②
本作は「蒼焔の魔女 ~ 幼女強い(Nコード:N6868JY)」の原点となったシリーズ作品です!
同じ世界観と設定を共有しております!
爆炎術式とは、こうやるのだ。
愚か者どもめが。
ちろちろと地面を舐める焔の残滓を払うように、もう一度、腕を振るう。
術式を破棄されて、変換の効果を主張していた熱と灯りが魔素に還って霧散する。
後に残るものは、元通りの静寂と、薄闇に包まれた巨大な洞穴、そして死体だけだ。
洞穴から吹き込んできた風が、血の臭いと肉の焼ける臭いを薄めてくれる。
グル・・・、と、喉が鳴る。
やっと静かになった。
焼かれた跡も見当たらぬ塒の床に身を横たえて蹲る。
そこかしこに転がっている黒焦げの死体は、地中に潜んでいるスライムどもが、一片の骨も残さず食い尽くすことだろう。
そうすれば、塒に籠もった”死の臭い”も消え失せる。
塒を汚されたのは業腹だが、こんなことは、いつものことだ。
こうやって我の塒へ侵入してきた愚か者どもの末路が、塒の端に押し退けて出来上がった武器や防具や装飾品の山だ。
散らかしたままにしておいて万が一にも剣を踏ん付けて足の裏に刺さったりすれば、我でも痛いからな。
知らず、溜息が漏れる・・・。
所詮は魔族だったな。
勇者に較べれば片付けるのも簡単なものだ。
そう言えば、面倒なことを思い出したぞ。
ヒト族どもの“勇者”召喚の周期が近いのでは無かったか。
よく覚えてはいないが、数年の内には次の召喚が行われるはずだ。
多くの魔素を無駄に使って無理やり”穴”をこじ開けるのだから、術式が発動すれば塒にいても分かる。
彼奴らは確か、30年周期ほどで召喚を行いおって、前回から、そのぐらい経ったのではないか?
かつて、たった一人でフラリとやって来た勇者のことを久しぶりに思い出す。
最後に来たあの勇者は、少し前―――、300年ほど前だったか。
目の前の地面に散らばっている武器を、鋭い鉤爪の先で、ピン、ピンと、壁際の山へと弾く。
腕試しとやらで塒へと侵入してきた勇者が振り回していた物騒なモノと比べて、今しがた追い払った魔族どもの武器は随分と見劣りするものだ。
あの勇者は、手にしていた武器よりも勇者そのものが“危ない奴”だったが、話の分かる奴でも有った。
今しがたの魔族どものように寝込みを襲うのではなく、わざわざ寝ている我を起こしてから「腕試しさせろ」と挑んで来おった。
言葉の通り「腕試し」に来ただけで、ほんの三日ほど暴れて満足したら、「迷惑を掛けた」と詫びた上で、魔獣の肉を山ほど置いて帰って行ったしな。
彼奴は強かった上に変わった奴だったが、あんな奴は過去に一人も居なかった。
彼奴だけが変わっていて、それ以前の勇者どもは、本当に面倒な奴らだった。
“ヒト”という種族は無礼で野蛮で狭量で、中途半端に小賢しくてイカン。
塒の入り口で生木を燃やされて燻されたこともあるし、破砕術式で塒の天井を崩されたこともある。
寝込みにコカトリスの石化毒を、ぶっ掛けられたこともある。
その度に、プチっと潰して、スライムにムシャムシャさせてきたのだが、潰しても、潰しても、しばらくすると懲りずにまた、やってくる。
んん? あれらは、今の塒に変える前だから、1000年は昔の話だったか?
あの頃は、我の塒はもっと西方に有って、魔族と人間が争いを始めて騒がしくなったから、今の塒に変えたんだったか。
ああ、そうだったな。
今の塒に変えてからは、我の塒へ辿り着けたのは、あの勇者一人だった。
まあ、エエわ。大抵の勇者はロクでもない奴らだったから、覚えていたくも無い。
その面倒なヒト族の中でも、“チキュウ”とかいう異世界から彼奴らが攫ってくる勇者というものは、とても厄介で、取り分け面倒くさい奴らであることが殆どだった。
あんな奴らを喚びたがるなど、まったく、度し難い。
上手く育った勇者は体内に内包する魔素の密度が魔族どもに並ぶほど多いから、一瞥すれば分かる。
高濃度の魔素を内包するまで成長した勇者なんてものは、我の鱗を貫くほどに攻撃力が有る上、嫌になるほど硬くなることがある。
治癒術者と徒党を組んでいる奴ともなれば、ちっとも死んでくれない。
何度、焼いても、何度、摺り潰しても、ヒョコっと回復し、喜々として斬り掛かってくる精神破綻者なのだ。
そう。あれらはキ〇ガイだ。
そして、キチ〇イだけあって、話が通じない。
こちらが“ヒト”の言語で話しかけてやっても、会話にならないのだ。
何なのだ? 「俺が勇者であることを証明するため、お前には死んでもらう!」とは。
我とお前、初対面じゃろうが?
お前らヒト族は、同胞を殺したり盗みを働く同胞を“盗賊”などと呼んで排除するのでは無かったか?
お前らの行為は、その盗賊と何ら変わらんではないか。
本当にヒト族というものは、身勝手で困る。
とりわけ、“ニホン”とかいう、分厚い空間の壁を超えた向こう側の世界から喚ばれて来る連中は、極め付きに厄介で、こちらの世界のヒト族どもが驚くほどに勇者としての成長が早く、こちら側で生まれたヒト族よりも遥かに強力に育つらしい。
あの勇者以前の勇者が、目をキラッキラさせて我の塒に攻め込んで来たことが何度か有る。
彼奴らは、漏れなくキチガ〇だった。
魔王も〇チガイだが、勇者は更に上を行くキ〇ガイだった。
プロローグ②です。
おお! 勇者よ!
次回、プロローグ最終話です!