状況変化 ⑯
作業時間中なのか坑道の入口に人の姿は無いが、坑道の奥に人の気配は有るな。
掘り出したものだろう石が放り込まれた木箱が壁際に積み上げられている。
畚を担いだ鉱夫も見掛けたから、坑道内から畚で運ぼ出してきた鉱石を木箱で搬出するのかもな。
2番坑、1番坑、4番坑、3番坑と通り掛かりに坑道を覗き込みながら鉱石を運搬するための道路を奥へ進んで行くと、目的の坑道に入口に着いた。
「ここが5番坑か・・・」
入口の造りやサイズ感は他の坑道と全く同じだな。
他の坑道と違うのは、その様子だけだ。
人が入れないと言うだけ有って放置されているのだろうが、坑道を塞いでいたのであろう木材の破片が入口周辺の路上に散乱している。
「本当に壊されていますね」
「だなー」
こりゃあ扉の残骸か?
まあまあゴツい木材の破片が引き裂かれたような破断面を見せている。
流石にデケエ木材は入口脇に積み上げられているが、後片付けをした、というよりは本当に邪魔になるものだけを端っこに蹴り寄せただけの状態に見える。
諦めの心情を感じさせる「整理」とは程遠い状態だな。
坑道内を覗き込めば、見える範囲には獣が這った形跡もねえな。
てことは、コウモリどもは空中を飛んで出入りしているわけだ。
入口の支保にブラ下がるように残った扉の名残を確かめていると、廃材の山を前にしゃがみ込んでいたケイナが俺を手招きした。
「テツさんテツさん。コレでしょうか?」
「どれどれ? おー。噛み痕っぽいな?」
ケイナが指す「コレ」ってのがコウモリの痕跡を指していることは、残骸を一目見て分かった。
何たって、木材の破断面の周りにデケエ歯形が何ヶ所も残ってるんだからな。
「かなりデカそうだな」
「はい」
点線状に鋭いものが食い込んだ痕は押し潰された半円形に並んでいて、その半円の大きさから察するに、顎の大きさは大型犬よりもデケエんだろう。
コウモリがどうやって扉を破壊したのかイメージ出来ていなかったんだが、扉に取り付いて噛み砕いたってわけだ。
「顎骨のサイズから考えて、体全体の大きさは人間よりデカくてもおかしくねえな」
「そうですね」
例によって、俺の常識にあるコウモリよりも桁外れにデケエんだが、ケイナからは単純な同意だけが返ってきた。
ケイナの顔をまじまじと見下ろす。
「どうかしましたか?」
「いや。驚かねえんだな?」
首を傾げれば、首を傾げ返された。
「魔獣はもっと大きいですよ?」
「ご尤も」
そう言えば、そうだったな。
大猿のボスなんて軽く人間の2倍ほども身長が有った。
地球を基準にしたサイズ感の違いに俺が困惑しているだけで、こっちの基準しか知らないケイナにとってはそれが普通なんだしな。
ケイナはコウモリを見たことが無いと言ってたし、そういうものだと受け止めたんだろう。
そんなサイズ感から想像してみる。
「しかしまあ。人間よりもデケエもんが翼をはためかせて夜中に飛び回るのか・・・」
「何か問題が有るんですか?」
つい、嫌そうにしちまった俺の表情に、見上げるケイナの表情にも警戒の色が雑じる。
「翼の音がメチャクチャ五月蠅そうじゃね? 安眠妨害だぞ」
「騒音ですか。それは迷惑ですね」
夜中にバッサバッサと大きな音を立てて飛び回る動物を想像したのか、ケイナがプッと噴き出した。
ケイナは笑っているが、クルマの1台も走ってねえこっちの世界では、闇と静寂が支配する夜中は風に戦ぐ草木の葉擦れもよく聞こえるんだ。
日本の夜中に走り回る珍走団よりも迷惑かも知んねえぞ?
意識を切り替えるためにポンと両手を打ち合わせる。
「ともあれ、コウモリの存在と大体のサイズ感は把握できたわけだ」
「そうですね。どう倒しますか?」
意識が切り替わったケイナが具体論を問うてくる。
ケイナは何でも俺と一緒にやりたがる。
反抗期前の子供が成長する中では当たり前の反応なんだが、ケイナは特にその傾向が強い気がする。
両親を早くに亡くしたせいか、学習意識が強いのか、置いて行かれることを怖れているようにも見えるな。
置いて行かれないように役に立とうとする、なんて物語の登場人物がよく居るが、ケイナのコレは、もっと積極的で、「私に任せろ!」と言わんばかりに前へ出ようとする姿が微笑ましい。
実際、背中を預けられる相棒が居るのは安心感が有るからな。
頼もしい相棒と現場を見た上での作戦会議だ。
俺の中に有ったプランを具体的に口に出す。
「作戦の決行は明日の朝だ。最奥部で生木を燃やして、燻り出された奴らを狭い坑道内で待ち伏せる」
「避けられないように、ですか?」
得意顔で開陳した俺のプランに初っ端からケイナが眉根を寄せた。
状況変化⑯です。
異議あり!?
次回、鳥!?




