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オジサンはお家に帰りたい ~ 粉砕!! 異世界迷子オジサン  作者: 一 二三


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状況変化 ⑮

「なるほどなあ。あの辺の木は伐って良いのか」

「何をする気だ?」

 方向を変えた俺の質問に、管理者の顔に戻ったビクトルが怪訝な目を向けてくる。

 俺が指したのは山腹の斜面に生えている木々だ。


「ちょっと燻すだけだ。気にすんな」

「坑道内で火を焚く気か? 死んでも責任は持たんぞ」

 ヒラヒラと手を振る俺を前に、数瞬、何かを考える様子を見せ、ビクトルが厳しい顔になる。

 そうそう。仕事人ってのは、必要性が認められれば非情な決断もしなきゃなんねえ。


 そんなもんは、こっちだって百も承知だ。

 日本の建設工事だって人命もコストに計算するもんだからな。

 難工事だったことで有名な黒部ダムだって、計画段階から「何人ぐらい死にそうか」までコストとして計上されていた。


 現代の価値観で歴史上の偉業を勝手に評価して、「人の命を何だと思ってるんだ!?」とか怒り出す奴がよく居るんだが、危険でも実行しなきゃならねえ仕事ってものは往々にして有るし、人命をコストに計上する実例の最たるものが“戦争”だ。

 大多数の”必要”のために甘受すべきリスクを”何で相殺(トレードオフ)するか”ってだけの話だな。

 他に手段が無いなら人命で穴埋めするのも”必要”がさせることで、今の俺たちのようにそのリスクを請け負う仕事も有る。


「自己責任だな。分かった」

「テツと言ったか。アンタ、良い度胸をしてるな」

 迷い無く言い切った俺にビクトルが目を丸くする。


「そうか?」

「狭くて剣を振るのにも苦労する鉱山での戦闘なんて、ただでさえ、みんな嫌がるんだ。普通の冒険者なら、自分も居る坑道内で火を焚こうとはしない」

 テメエの仕事場に火を放つのが無茶だってことも、百も承知だぜ?


「それが効果的だと考えたに過ぎねえよ。コウモリを始末するのが俺の仕事で、アンタの仕事は?」

「脅威が排除された坑道から鉱石を採掘して出荷することだな」

 俺の指摘にビクトルも仕事モードに入ったようだ。


「仕事人同士、テメエの仕事をしようぜ」

「確かにその通りだ」

 俺が突き出した拳に、ビクトルも拳をぶつけてきた。

 話が終わったと見て取ったケイナが俺の顔を見上げる。


「テツさんテツさん。“しほ”って何ですか?」

「鉱山みてえに深い横穴を掘るときに、こう、壁や天井が崩れないように木枠で支えたり押さえ付けたりするんだよ。それが支保だ」

「ほーう」

 写真家やカメラマンが構図を決めるように、両手の親指と人差し指で四角形を作ってケイナに支保の形状を示してやれば、ケイナは感嘆の声を上げる。


 俺は一例を示しただけだし、ケイナも正確にイメージ出来たわけでも無いだろうけどな。

 日本でなら道路工事なんかの現場で深く地面を掘るときに支保工事を見掛けることが有るんだが、現代日本人でも「支保」という単語を知ってるヤツは少数派だろう。

 こんなもんは話で聞くよりも現物を見た方が早い。

 俺の説明に何かを感じ取ったのか、ビクトルが窺うように俺の顔を見る。


「アンタ、詳しいな?」

「いいや? 鉱山は未経験者だ。こんなもん一般常識程度だろ」

「一般常識、ねぇ? いや。冒険者に出自を訊くのは野暮ってもんだな」

 俺の答えを勝手に解釈したらしいビクトルは、勝手に納得したようだ。

 どんな想像を働かせて納得したのかは、俺の知ったこっちゃねえからビクトルの勝手に任せておく。


「馬は任せておいて良いか?」

「ああ。管理小屋で預かっておく」

「助かる」

 ビクトルの返事に頷き返して背中を向ける。


「下準備を始めるぞ」

「はいっ」

 ケイナを促して歩き出せば、児童を労働に動員するブラック環境だというのに嬉しそうな返事が返ってくる。

 まあ、半分ぐらいは遊びの延長線みたいなもんだしな。


 学校で学べる環境じゃねえなら、実体験で“生きるための手段”を学ぶのが正しい形なんだろう。

 ここは何でも切れるドラゴン包丁の出番だろうな。

 馬の背中に括り付けたままのリュックからドラゴン包丁を取り出して、ナイフのベルトの後ろ腰に挟んでおく。


 「5番坑」と名前の付いた付いた坑道を目指して、山腹に絡みついた取り付け道路を上っていく。

 山の斜面にL字の切れ込みを掘って道路にしただけの原始的な道路だが、しっかりと踏み固められた路面は、舗装してあるわけでも無いのに案外歩きやすく足を取られることも無い。

 この道路や山の斜面も土魔法とやらで固めてあるのかもな。


 通り掛かった壁面に、デッケえアリの巣穴のように見える横穴が口を開いている。

 絵に描いたような坑道だな。

 坑道の大きさは意外に大きくて、縦横3メートルずつの四角いトンネル状になっていた。

 そして、そのトンネルと天井と壁に一体化するような格好で、太い角材を組み合わせた木枠が嵌まり込んでいる。

 

「ほら。この木枠が“支保”だ」

「ふむふむ。こうやって上から掛かる土の重さを支えてるんですね」

 ケイナに指し示してやれば、坑道の入口に近付いて行ったケイナが興味深そうに支保を眺め回す。

 一緒になって覗き込んだ坑道の中には、数メートルおきに木枠が嵌まっているのが見て取れる。


「そうそう。でもな? 土圧(どあつ)ってのは、上からだけじゃなく横からも掛かるものなんだよ」

「ほーう!」

「上下左右からの荷重を“支えて保つ”から支保って言うんだが、日本語の漢字表記を短縮した単語なのに、何で通じるんだろうな?」

 いや。マジで。

 翻訳魔法の謎が、また1つ増えたな。



状況変化⑮です。


仕事人!(キュピーン!

次回、状況開始!

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