状況変化 ⑬
「分かれ道ですね」
「これっぽいな」
ケイナと2人で合意する。
しばらく街道を進むと右手に少しだけ細い脇道が有った。
路面に刻み込まれた轍は領都方面にだけ曲がっている。
この道を通る荷馬車は領都との間を往復するだけなんだろう。
轍に雑草が生えていないということは、頻繁に荷馬車が通る“生きた道”である証拠だ。
深い轍が刻まれた被舗装道路は馬も歩きにくいようで、歩くペースは上がらない。
「アレか?」
地形に沿ってカーブを抜けると、行く手の左斜め前方にそれっぽいそれっぽい景色が広がった。
数回の休憩と昼メシを挟み、5時間かけて見えてきたのは、搬出路らしき段差が山腹に絡みついた岩山だった。
「鉱山って、本当に人の手で掘られた横穴なんですね」
ケイナの目は段差に向いていて、段差の上には虫食い穴のように山腹に空いた坑道の一つが見えている。
荷馬車が停められているのが見えるから、人の出入りが有る現役の坑道なのだろう。
「ああ。見たのは初めてか」
「お祖父さまから教わって、知識として知っているだけです」
へぇ。あの爺さん、一般教養以上の雑学もしっかり教えてたんだな。
森から出たとしても普通に生活してりゃあ鉱山なんてもんとは縁が無いもんだ。
それでも教えてるってことは、それだけ爺さんの知識が広汎なんだろう。
さすがは長生きな知識層だな。
伊達に元・王様じゃねえってわけだ。
ケイナが興味ありそうだから、雑学を補強しておいてやるかな。
「そっかあ。この鉱山は、そういうタイプってだけで、横穴じゃない鉱山も有るんだぞ」
「そうなんですか!?」
目を丸くしたケイナがクルンと顔を向けてきた。
「“露天掘り”つってな。山を上から丸ごと掘り崩しちまう堀り方も有るんだ」
「それは豪快ですね!」
「そうだなー」
想像を膨らませたのか、目を輝かせたケイナは鉱山へと視線を向け直す。
勤勉だし新しいことを知るのが楽しいんだろうな。
楽しいってのは、感受性を育てるだけじゃなく教育上にも良いことだ。
そこから30分も掛かって、ようやく鉱山の入口に到着した。
現代地球の鉱山のようなトロッコのレールや重機器もない、いくつかの木造家屋が建てられた広場の端に、掘り出された石や土くれが山と積み上げられている。
ツルハシや畚を担いだ土塗れの男たちが立ち働いていて、人力で掘られている鉱山なのだと分かる。
「なあ! 管理人のビクトルはどこに居る!?」
「あそこの管理小屋だ!」
作業員の一人に声を掛ければ、作業員は木造家屋の1つを指した。
「ありがとよ!」
謝意を伝えて作業員と別れ、木造家屋の前に設えられた木柵に手綱を結ぶ。
足元に置かれた木製の水槽は水で満たされているから、馬はこの小屋で預かってくれるんだろう。
小屋の扉をドンドンとノックすると、扉が開いて技術屋っぽい無精ヒゲの男が顔を覘かせた。
「誰だ? アンタたちは」
「アンタが管理人のビクトルか?」
初対面の相手が自分の名前を知っているのが原因だろうが、男の怪訝な表情に警戒心が加わった。
「そうだが」
「レイバンの依頼で来た。俺はテツ。こっちはケイナだ」
クワッと目を見開いた男が食い付くように身を乗り出してくる。
「もしや、冒険者か!?」
「おう。コウモリを駆除しに来たんだが、どこに居る?」
「5番坑だ! ちょっと待て!」
アレがビクトルで間違い無いようだな。
ドタドタと騒がしく小屋に駆け込んだビクトルは、巻いた大きな紙を手に戻って来た。
バサリと開いた紙はA1サイズほどの大きさで四辺が歪になっている。
これは羊皮紙ってヤツか?
トレーシングペーパーかビニール加工された防水紙みたいな質感に見えるが、微妙に透き通っている辺りに生物的な「革」の名残を感じる。
横軸方向の断面図らしい羊皮紙には、山の形状らしい図形とアリの巣のような坑道が数本描かれていた。
ビクトルはトンと紙面の一点を指す。
「これが5番坑の地図だ」
「これ、どこに有んの?」
ビクトルは山腹に這った搬出路を指す。
「あそこに見えるのが2番坑で、2番、1番、4番、3番、5番と並んでる」
「一本道か?」
「ああ。そこから登っていった一番奥だな」
そりゃあ分かりやすくて良い。
順番がバラバラなのは鉱脈の発見順か何かだろう。
鉱脈が有りそうな徴候を探して、勘に頼って掘り進めるのが採掘事業ってもんだと聞いたことが有る。
採掘者―――、“山師”の勘に賭けるところから「山勘」という言葉が生まれたのが鉱山の仕事だからな。
現場の場所が分かったのなら、次は状況と注意事項の確認だな。
「他の坑道とは中で繋がってんのか?」
「いいや。5番坑は単独で、どことも繋がっていない」
ビクトルが首を振る。
他の坑道に被害を出す恐れは無さそうだな。
状況変化⑬です。
現場に到着!
次回、作戦!?




