状況変化 ⑫
オバチャンによると、”カラシナの実”は3日に一度立つ市場で買えるらしい。
次の市場が立つのは明後日らしいから絶対に買いに戻ろう。
他に得られた情報といえば内戦終結の噂だが、農夫のオッサンが言っていたものと大差無かった。
違いが有る部分は、西部に居るはずの“南部の雄”とやらが転戦して北部に居るらしいってことぐらいだな。
転戦してるってんなら、内戦はまだ終わってねえんじゃねえの?
憶測や願望が混入する人の噂なんてもんは信憑性が低いもんだ。
確定情報以外はアテにならないと見るべきだろう。
明後日の市場に王都方面からの行商人も来るだろうって話だから、最新情報の入荷は明後日までお預けだな。
だったら、町で時間を潰す意味もねえ。
「ウッシ。行くか」
「はい」
タヌキを処分していくらか荷物が軽くなったことだし、共同使用の井戸で馬に水を飲ませたら、早速、鉱山へ向かうことにする。
コウモリの捕り方なんぞ知らねえが、なぁに、その辺の生木でも燃やして燻してやれば大抵の生き物は逃げ出すもんだろう。
取り立てて準備するものも思い付かねえし、行ってみりゃあ分かるってもんよ。
何とかいうアゴのプロレスラーだって、「迷わず行けよ。行けば分かるさ」と言ってたしな。
取りあえず行ってみる、って方法論には俺も同意するところが有る。
計画性? んなもんケースバイケースだ。
体当たりで壁にブチ当たったら、乗り越えるなり避けて通るなりで知恵を使えば良い。
なんてことを考えている俺を、城門に有る検問所の守備兵は頭の天辺から爪先まで胡散臭そうに眺め回している。
「王都へ向かうのか?」
「いいえ。害獣駆除の依頼を請けたんで、鉱山へ行って、また戻って来やス」
首を振って答えれば、パチパチと瞬きした守備兵が意外そうに上から下まで俺の格好を検め直す。
「お前たちは冒険者だったのか」
また農民スタイルで疑われたんだな。
農民が馬で移動するのが怪しかったのか?
考えてみりゃ、土地に貼り付いて糧を得る農民が、作物を売りに行くでもなく旅をしてるってのは、怪しいと言えば怪しいのか。
この町の検問所は真面目に働いてる、っつーか、まともに機能してるんだな。
人畜無害なはずの農民スタイルが持つ致命的な欠点に、ようやく気付いた気がする。
町から出る側で馬に跨がったままだから、小石を殴り潰すデモンストレーションも今は使えねえ。
そこまで言う必要はねえかと黙っていたが、情報を開示した方が良さそうだな。
「へい。ガラス職人のレイバンさんが困ってるってことで、引き受けたんスよ」
「レイバンの依頼か。最近は冒険者が少なかったからな」
納得顔で守備兵が頷く。
へぇ? あのオッサン、名前が通ってるってことは本当に腕が良いのか。
「そんなわけで、ちょっくら行って来まさあ」
「うむ。しっかりやって来い」
散々怪しんでいた守備兵に最後は激励されて町から出た。
町の西側から続く街道は、この町まで来た東側の街道よりも道幅が広くて荷馬車も楽々擦れ違えそうだ。
ここの領都は、エンツェンスの領都より町の規模も大きくて、「町」というより「街」だったしな。
人口も多いんだろうし、人口が多いなら物流の規模も大きいはずだ。
その証拠に、町から出ようとする人間の数も町に入ろうとする人間の数も、検問所で足止めされている連中は明らかに多かった。
「コウモリって、どんな動物でしょうね?」
「見たことねえのか?」
ポックポックと鞍の上で揺れているケイナが思案顔で首を捻っている。
「郷の周りには居なかったと思います」
「何て言やあ良いんだろうな? ネズミみたいなのに羽根が生えてて飛ぶんだよ」
不細工なネズミみてえな顔だが、コウモリはネズミの仲間ではなかったはずだ。
何に驚いたのかケイナが目を丸くする。
「鳥の一種ですか?」
「いいや。哺乳類って言ってな。鳥みたいに卵で増えるんじゃなく、人間や普通の動物と同じように子を生んで増えるんだ」
俺が知らねえだけで、居るのかも知れねえが、俺の知る限り「鳥」ってのは卵で増えるヤツしか居なかったはずだ。
俺の常識とケイナの常識は合致したらしく、興味深そうにケイナは頷いている。
「本当に空を飛ぶ動物なんですね」
「鳥でも動物でもない、ってんで、地球では裏切り者とか仲間外れの童話が有ってな。不遇というか、良くないイメージというか、不当な扱いを受けてる動物だったな」
ケイナがコテッと首を傾げる。
「童話ってどんなのですか?」
興味津々のケイナに、うろ覚えの「コウモリの話」を聞かせてやる。
アレって童話か? いや。寓話?
正式名も覚えてねえ話だし、どっちでも良いか。
四つ足動物と鳥がどうのこうので「どっち付かずはダメだよ?」って例のアレだぞ?
オチまで童話を聞き終えたケイナは真面目な顔でフムフムと頷いている。
「なるほど。裏切り者ですね。それはいけません」
「ただの童話で、実際の話じゃねえからな?」
心配になったので釘を刺す。
童話や寓話は戒めや教訓を子供心にも響くように書かれたもんだ。
フィクションだよ、フィクション。
「もちろん分かってます。ただ、火の無いところに煙は立ちません」
「お、おう」
嫌悪感を滲ませるケイナの断罪に、風評被害を広げちまったことを心の中でコウモリに詫びる。
進化の過程でそういう生態で生き残った動物ってだけで、コウモリに罪が有るわけじゃねえからな。
状況変化⑫です。
熱い風評被害!?
次回、鉱山!?




