状況変化 ⑪
「分かった。んで、その鉱山ってのは、どう行けば良いんだ?」
勝負を受けたのに、勝負する場所に着けなきゃ話になんねえ。
「領内北部」とは言っていたが、行き道を教えねえ、なんてことはねえだろうな?
杞憂だったと言うよりも、自分から吹っ掛けた勝負なんてどうでも良かったようで、オッサンは俺たちが町に入ってきた城門とは逆方向を指した。
「西門から領都を出たら、直ぐに北へ向かう分かれ道が有る。鉱山からの荷馬車が通る道だから、轍の跡を追っていけば鉱山に着く」
「道は分かりやすそうだな?」
西門を出て最初の角を右折ってことか。
目印が轍の跡ってところに一抹の不安を感じるな。
地方の町で暮らしてると、轍ってのはどこの道にも付いてるもんだから目印になんねえんだよ。
俺の不安を感じ取ったのか、オッサンは首を振る。
「一本道だから迷うことはねえよ。管理人のビクトルって野郎が居るから、レイバンの依頼で駆除に来たと言えば鉱山に入れてくれる」
「ヨシヨシ。任せとけ」
一本道なら最初からそう言えっての。
管理人のビクトルね。
コウモリの巣になった、なんて言うから放置されてる坑道なのかと思えば、ちゃんと管理されてはいるんだな。
訊き出せそうな情報はこんなところかと考えていると、オバチャンの目が俺たちの馬へと向いている。
俺の誤解では無かったようで、オバチャンが馬の積荷を指した。
「ところで、アンタ。そのラクーンは、いつ狩ったヤツだい?」
「昨日の夕方だな」
ラクーン。ラクーンだな。
いつまでもタヌキと呼んでいると名前を覚えらんねえ。
俺の答えにオバチャンが思案顔をする。
「新しいんだね。卸し先は決まってるのかい?」
「いんや。肉屋か食堂で引き取ってくれると聞いたんだが、どこに持っていけば良い?」
自分たちで食えねえのなら邪魔にしかならねえし、サッサと処分しちまおう。
「アタシが買い取ってあげるよ」
「おっ。そりゃあ助かる」
オバチャンの気が変わらないうちに押し付けちまおう。
手綱をケイナの手に預けて荷解きしていると、オッサンが覗き込んできた。
「ほう? 立派な大きさじゃねえか」
「昨夜、試しに1匹食ってみたんだが、肉が固くてな」
子の肉であの固さなら、親の肉なんてお察しだ。
俺たちの手には余る。
敗者の弁にオバチャンがカラカラと笑う。
「そりゃあそうだろうさ。2日は煮ないと柔らかくならないよ」
「2日も?」
マジかぁ。
数時間どころじゃなかったのか。
野営暮らしで、そんなもん料理できねえぞ。
腕組みで値踏みしていたオバチャンが指を2本立てる。
「そうだねえ。大銀貨2枚ってところでどうだい?」
「おう。それで構わねえよ。ついでに昨夜の残りも付けとくわ」
3頭で2万円ってのが高えのか安いのか分からねえが、郷に従えだ。
俺の即答にオバチャンが首を傾げる。
「良いのかい?」
「余計な荷物になるからな」
いや。マジで。
馬の積載量が限られている以上、余計なもんはカネになる内に処分しちまうに限る。
オバチャンが指示する通りに屋台の裏側へ3頭のラクーンを下ろし、リュックから取り出した肉の包みはオバチャンの手に渡す。
引き換えに大銀貨2枚を受け取って取引は終了だ。
屋台の裏側へ入って気付いたんだが、オバチャンの屋台では串焼きを炙ったパンに挟む“焼き肉サンド”的なメニューも有ったらしい。
オッサンは仕事前に昼メシの焼き肉サンドを買いに立ち寄っていたらしく、俺たちが焼き肉サンドを追加注文したタイミングで出勤して行った。
「ん?」
オバチャンの仕事場には調味料らしい陶器の壺が置いてあって、何気なく目に付いた壺の中身に目を奪われた。
ヤベエ! これ、マスタードじゃね!?
「なあ。これって、どこかで買えるのか?」
「これ? ああ、カラシナの実かい?」
「カラシナ!」
確か、”カラシナ”ってアブラナみたいなヤツだよな!?
菜種みたいなカラシナの種を酢で漬け込むか何かすれば、マスタードを作れるんじゃなかったっけか。
粉末状に磨り潰せば”カラシ”になったはずだが、混ぜ物をせず粉に挽くだけで良いのかまでは知らねえな。
少なくとも、塩味オンリーで単調だった焼き肉のアクセントになるのは間違いねえ。
「欲しいんなら、市で買うと良いよ」
味見をさせて貰ったが焼き肉サンドのソースは、紛うこと無く粒々タイプのマスタードだった。
バターとマスタードを塗ったパンで、串を外した焼き肉を挟むんだと。
同じように味見させて貰ったケイナは初めての味覚だったようで、涙目になってはいたが興味は有るみてえだな。
状況変化⑪です。
マスタ――――――ド!!
次回、依頼!?




