状況変化 ⑩
「純度が高い珪岩は何で入って来ねえんだ?」
「俺が言ってるのは珪岩じゃなく珪石だ。珪岩と珪石は純度がまるで違う。領内北部の鉱山で採れるんだが、ここんトコ、冒険者が居ねえだろ? コウモリの駆除が出来てねえから鉱夫が採掘に入れねえんだ」
ほう? コウモリの駆除、ね。
冒険者不足がこんなところにも影響してるんだな。
仕事が有るのにあの酔っ払いどもが手を出さねえってことは、人手の問題なのか、面倒くせえ仕事なのか、何かしらの理由は有るんだろう。
しかしだ。
「鉱山のコウモリを始末できればガラスを作れるんだな?」
「行く気か? アンタ、農夫だろ」
俺の確認にオッサンが表情を険しくする。
また言われた。
流石に凹んできたな。
いや。別に農民が蔑まれてるわけじゃ無さそうだし、構わねえんだけどよ。
仕事に差し障るようなら問題だ、ってだけだ。
服装ってのは人の信用を測る上でのバロメーターの1つでも有るから、軽視してるわけでもねえし。
王都に着いてから買い直せば良いかと思ってたんだが、もうちょっとマシに見える服を早めに買った方が良さそうか。
「いや? 冒険者だが」
「あら。アンタ、冒険者だったのかい」
俺の反論にオッサンだけでなくオバチャンまで意外そうに目を丸くする。
悪いな。ややこしくて。
小さな溜息を吐いたオッサンは首を振る。
「止めとけ。子供も連れてるのに、駆け出しじゃ無理だ」
「そのコウモリってのは、そんなに強えのか?」
人を見た目だけで判断するのは良くねえぞ。
オッサンの気遣いに構わず深掘りすれば、渋面を作ったオッサンが深刻そうな声を出す。
「ジッカロープよりも狩るのが難しい」
「ウサギよか強え程度? 大したことねえな」
そんなに強いコウモリなのかと警戒したのに、拍子抜けしちまったじゃねえか。
警告を蹴られたオッサンがムッとした顔する。
「ヨーシ。そうまで言うならコウモリを駆除して珪石を採ってきてみろ。そうしたらタダで珪石ガラスのメガネを作ってやる」
「言ったな? すぐに採ってきてやる」
良いねえ。売り言葉に買い言葉は大好物だからな。
オッサンも退く気は無い様子で手を差し出してくる。
「俺はレイバン工房のレイバンだ」
「冒険者のテツだ」
仕事人のゴツい手をガッシリと握り返す。
話が付いたと思えば、今度はオバチャンがオッサンに心配顔を向ける。
「良いのかい? レイバン」
「そんだけ材料が入って来なくて、どこの工房も困ってんだ。職人の技が有っても吹くガラスが無けりゃあお手上げでな。テメエらで駆除しに行けりゃあ早いんだが、俺らにゃガラスを吹く以外の技術はねえ」
溜息を吐きながらオッサンは肩を落とす。
そこは落ち込むところじゃねえんじゃねえか?
餅は餅屋ってもんだ。
職人の仕事は俺にゃあ出来ねえし、だからこそ世の中の経済は回るってもんだろう。
「そりゃあ、そんなもんだろ。そういう職人だからこそ仕事を頼めるんだからよ」
「言うじゃねえか」
口を半開きにして軽く目を見開いたオッサンが、目力を取り戻してニヤリと笑う。
手の甲で俺の胸元をポンと叩いた。
「質の良い珪岩は坑道の最深部でしか採れねえから、本当に行く気なら鼻栓を持っていけ」
「鼻栓?」
有毒ガスに備えて小鳥を連れていけとか、落盤に備えてヘルメットを被れとかなら分かるが、何で鼻栓?
「最深部はコウモリどもが住み着いてるせいで、とんでもなく臭えんだ」
あー。コウモリが住んでる洞窟は、降り積もったコウモリの糞尿で臭いって話は聞いたことが有るな。
坑道なのにそこまで糞尿が溜まるものなのか疑問は残るが、坑道が地下洞窟を掘り当てた可能性も有るんだろう。
ネズミなんかと同じでコウモリは病原体を媒介するってんで、洞窟に入るときはマスクをした方が良いって話も有った気がする。
かといって、マスクの着用は感染症の拡大を防ぐ効果は有るが、感染防止にはならねえて話も聞くしな。
どのみち、口元に手拭いを巻くぐらいしか防御策はねえんだから、考えるだけ無駄だろう。
「なるほどなあ。狩ったコウモリって売れるのか?」
「皮膜ぐらいしか売れん。持って帰ってきたら素材屋を紹介してやるから心配すんな」
ほう? 売れる素材が有るのか。
コウモリを食う国も有るらしいが、日本人感覚だとコウモリなんてもんはゲテモノの類いだからな。
ケイナが食べたいと言っても止めるつもりだったし、食えない肉だしカネにならないと思えばモチベーションが下がる恐れも有るからな。
鉱石以外でも小遣い稼ぎぐらいは出来そうで安心した。
状況変化⑩です。
定型パターン!?
次回、出撃!?




