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オジサンはお家に帰りたい ~ 粉砕!! 異世界迷子オジサン  作者: 一 二三


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状況変化 ⑥

 社会からの排除ってのは生死に関わる。

 生死が懸かった場面で“未練”と“不安”を断ち切れるヤツってのは、知恵なり手段なり、自分1人でも生きて行ける自信を持ってるもんだ。


 そんなヤツは滅多にいねえし、俺は今まで会ったことがねえ。

 そういう俺だって、こっちの世界へ放っぽり出されて社会へ戻ろうと足掻いたんだ。

 そんな人間の“未練”が足を鈍らせて踏み留まらせ、人間の“不安”が同じ“未練”を抱えた同類を集める。


「そうやって出来上がる場所を“スラム”―――、貧民街って呼ぶんだが、そういう場所には、カネを稼ぐ知恵が無かったり働けなかったりって理由で社会から弾き出された弱者だけじゃなく、悪事を働いて社会に居られなくなった悪人も入り込み易い」

「ははぁ。そういうものなんですね」

 ケイナが何度か頷く。


 理解はしたんだろうが、イマイチ想像できていないっぽいな。

 今はしょうがねえか。

 見たこともないものを口先だけで説明されても、不正確な想像図しか頭の中には浮かばねえもんだ。


 戦国時代の狩野かのう何とかって画家が伝聞だけで描いた“唐獅子図屏風”とかいう国宝の展示をカナと見に行ったことが有るんだが、ライオンがどんな動物かを知ってる現代の俺たちにすれば「んん?」と首を傾げたくなる部分が有っても、見たことも無い未知の生物を想像だけで描き上げたと思えば「メッチャ似てる!」と驚かされるぞ。

 悲しいかな、俺にはケイナに正しく想像させてやれる表現力の持ち合わせがねえってことだ。


「あの町の入口にスラムが有るのかも、まだ分かんねえがな。有ったときが危ねえんだ。もしも、そんなのが有って、“何か寄越せ”って俺たちの野営場所まで付いて来たら安心して眠ることもできねえだろ?」

「私はテツさんが居れば安心して眠れますけど?」

「お? おう。そうだな?」

 とぼけていうケイナと顔を見合わせて笑う。

 ケイナだって、事前情報が有って実物を見れば、俺が“危ねえ”って言う意味は納得できるだろう。


「兎も角だ。俺一人なら、スラムぐれえ何だ、って感じだが、ケイナを連れている今は、問題の有る連中との接触は避けたいってのが俺の本音だな」

「じゃあ、近付かずに野営にしましょう!」

 ニコリと笑うケイナもまた、スッパリと割り切って決断できるヤツだったらしい。

 分からないなりに“近付かない”ってのがケイナが出した答えだな。

 ケイナらしい賢明な答えだ。


「そうするか」

「はいっ」

 機嫌良く前を向いたケイナが、早速、行く手を指す。


「あの辺りでどうですか?」

 街道から外れて少し奥まったところに数本の木々が立ち並んだ場所がある。

 地面も平たく見えて馬が食むための草も周りに生えている。

 領都の側からは木々が陰になって火を焚いても見えにくいだろうしパーフェクトだな。


「おおー。良いんじゃね」

「行きましょう!」

 言うが早いか、ケイナは手綱を引いて街道から逸れていく。


 俺が跨がっている馬は、といえば、俺が手綱を引く前にケイナの馬に付いて行きやがる。

 この野郎。今、お前に乗ってるのは俺だぞ?

 ケイナに懐いてるのは分かっていたが、俺はただの荷物って言いたいのか?

 馬に馬鹿にされているようで釈然としねえが、ここで馬に当たるのも大人気ねえから飲み込もう。


「晩メシは何にすっかなー」

「これ、食べてみたいです」

 タヌキか・・・。

 ケイナが指している“これ”とは、馬の背に括り付けられている四つ足動物たちだった。

 どうやらケイナは食い道楽の道に目覚めたらしい。


「クセが有るって言ってたが、大丈夫か?」

「食べてみなきゃ、どんなクセなのか分からないじゃないですか」

 仰る通りで。

 そういや、「町の料理が楽しみ」とは言ってたな。


「クセってことは肉の臭いが強いってことだろうけどなあ」

「塩水にしばらく漬けて洗えば、多少はマシになると思いますよ」

「そうなん?」

 ああいや。たまに猪や鹿の肉をくれていた農家の爺さんも、そんなこと言ってた気がするな。


 罠に掛かった害獣の駆除で、軽トラへの積み込みやら血抜きやらが爺さんには結構な力仕事になるからと、連絡が有れば手伝いに行ってやってたんだが、いつも下処理済みの肉をくれていたから自分で下処理したことは無かったな。

 ケイナが下処理の経験者なら心強い。


「んじゃ、1匹食ってみるか」

「今日は私が作りますね!」

「おう。任せるわ」

 てな感じで上機嫌で勢い込むケイナを手伝ってタヌキを食ってみたんだが、これが失敗だった。


 1時間以上も掛けてケイナが下処理してくれたお陰か臭みは特筆するほどではなかったものの、とにかく火が通ると肉が固かった。

 例によって、バターで炒めてから水を足して煮込むスープにしただけじゃ、ゴム板を噛んでるみたいで噛み切れないぐらいに固い肉だった。


 農民のオッサンは「煮込んで食う」と言ってたはずだが、アレ、「数時間も煮込めば」って条件付きだったんじゃねえか?

 肉の臭みは味噌と酒とニンニクがあれば完全に消せそうだし、味噌が無いならワイン煮込みかな。

 圧力鍋でも有れば多少は早いかも知れねえが、数時間も薪を燃やして煮込む必要が有るとなれば、メシ屋で食った方が良いだろう。


 「魔獣の肉は美味い」とは聞いていたが、あれ、本当だったんだな。

 このタヌキ肉に較べればヘビ肉の方が全然イケる。

 同じイヌ科でも犬っコロの方が遙かに美味いと満場一致で結論したが、ケイナと2人で、ああすればこうすればと試して失敗するのは、それはそれで楽しめた。


 ただまあ、魔獣じゃない野生動物ってのは、害獣駆除の仕事でもなきゃ好き好んで狩るほどじゃねえな。

 鈍臭いタヌキを狩るのは簡単でも、肉にそれほど需要がねえから絶滅してねえのかも。

 こういう需要の問題も有って、仕事を請けてくれる冒険者には居て貰わないと困るんだろう。

 あの酔っ払いどもが魔獣を狩りに行きたいという理由がここにも有ったと理解せざるを得なかった。



状況変化⑥です。


タヌキ、酷評!?

次回、ガラスの町!?

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