状況変化 ⑤
焚き火の火を消し、タヌキと木桶を馬に背に括り付けて昼休憩を終える。
代わり映えしない景色を眺めながら街道を西進して残り半日を馬に揺られて過ごす。
時折、擦れ違う荷馬車や旅人と挨拶を交わしたりしていると、ようやく夕陽に照らされた城壁が見えてきた。
あれが領都か、と思う半面、問題に直面していることに気付く。
「こりゃあ、間に合わねえかなぁ」
まだ4~5キロメートルは有るんだろうから日没までに町へ入るのは絶望的だろう。
宿の女性店員が言った通り、1日では着けなかったな。
宿場町を作るなら1日で着ける場所にしろや、と言いたくなるが、何やかんや理由が有ってあの場所なんだろう。
ともあれ、早々に諦めて野営するか、無理して町まで移動するか。
ギャンブルになりそうだが、さて、どうしたもんかな。
ただのボヤキだから特に聞かせるつもりが有ったわけじゃねえんだが、俺のボヤキはケイナの耳にしっかりと届いたようだ。
「何がですか?」
「日没で城門が閉まるのなら、町に近付くと厄介なことになるかと思ってな」
間に合わないなら、暗い夜道を押し通るのは馬が足を挫くリスクが発生する分、丸損になるだろう。
そして、看過できない別のリスクが発生する。
「厄介、ですか?」
意味を理解しようとするケイナが首を傾げる。
人が集まる場所で暮らそうとする以上、どこかで教える必要が有ったから良い機会だ。
「ああ。城門近くでの野営は人目に触れやすいだろうからな。人目を集めるだけじゃなく、おかしな連中を呼び寄せることになりかねねえんだよ」
「おかしな人」
”変な人”って意味じゃねえぞ?
ちょっと表現が悪かったか。
“良くない連中”という意味で言ったんだが、ホームレスも見たことが無いケイナに中略した物言いで教えるのは良くなかった。
もう少し掘り下げて教えた方が良いだろう。
「具体的には、“町に入れない”ような連中のことだな」
「どうして町に入らないんでしょうか」
案の定、想像できなかったらしいケイナに意味は伝わっていない。
ここは何が危険かを、しっかりと教えておかねえと。
「“入らない”んじゃなく、“入れない”だ」
「入れない?」
ケイナが首を傾げる。
今までの経験から想像させるのが良いか?
「今まで、どの町も町の入口に検問所が有って、警備兵が立っていて、通行税を徴収していただろ?」
「そうでしたね」
記憶を探るまでも無く、今度はケイナも頷く。
「検問所を通れない連中ってのは、手持ちのカネの問題か、治安上の問題かを抱えていることになる」
「問題・・・」
イマイチ分かってなさそうだな。
もうちょっと噛み砕く必要が有るか?
「通行税を支払えるだけのカネが無きゃ入れて貰えねえし、盗賊のような悪いヤツも、もちろん入れて貰えねえ」
「ああ、はい。そうでしょうね」
今、ケイナが理解できたのは、“そうなった原因”だ。
次に“人間の行動”を理解させる必要が有る。
「町ってのは郷と同じで人間社会だ。社会ってヤツの中には食い物や便利なものが色々と有るだろ?」
「そうですね」
「ケイナは、便利なのと不便なのと、どっちが良い?」
「便利な方が良いです」
ケイナが明快に頷く。
町に入らなきゃ、ぱんつ1枚も買えねえからな。
ぱんつを自作しようにも布地が必要だし、布地ってヤツは勝手に生えてくるもんじゃねえ。
手先が器用で材料が手元に有って知識が有れば布地を作ることも可能だろうが、そう言った諸々を素っ飛ばして必要なものを買えるのが人間同士のコミュニティ―――、社会ってもんだ。
「だろ? そこに入れて貰えなくて、諦めきれなかったら、どうする?」
「んー・・・。入れる機会が来るまで待つ、ですか?」
少し考えてケイナは正答した。
「そういうこった。郷の周りに居座って離れなかった大猿どもと同じだな」
「あっ。なるほど」
これが“人間の行動”の1つ。
“人間の”というよりも、“知恵の有る生き物の”か。
「大きな町だと特にな。そういった連中は社会の傍―――、町の入口周辺に住み着くことが多いんだ」
「気持ちは分かる気がします」
ケイナが深く頷く。
要は人間の“未練”だな。
排除されても諦めきれないから、居着く。
排除された社会をスッパリと諦めて、自活できる新たな場所を探した方が生存率が上がるかも知れなくても、“未練”と“不安”が社会の傍から離れさせない。
そんなもん、割り切って決断できるヤツの方が珍しいだろう。
状況変化⑤です。
スッパリと割り切って決断できるヤツ!?(心当たり
次回、アレの鍋!?




