状況変化 ④
「やあ。これは立派なラクーンですね」
ケイナと2人でベーコンチーズトーストにかぶり付いていると、通り掛かった荷馬車の御者が声を掛けてきた。
俺と変わらない服装から察するに地元の農民って感じの男だな。
男が目を向けているのは首を割かれて逆さ吊りになっている親子タヌキだ。
「コレってデケエのか?」
「まあまあの大きさだと思いますよ」
モグモグしていたトーストを飲み込んで問うと、ニッコリと笑った男が頷く。
図々しさも大物だと思ったが、コイツら本当に大物だったんだな。
「へえ。初めて獲ったんだが、売れるのか? コレ」
「売れますよ。ちょっと癖の有る肉ですが煮込みにすると美味いんで、肉屋か食堂なら引き取ってくれるでしょう」
そりゃあ良い情報だな。
いくらかにでも換金できるなら狩った甲斐も有るってもんだ。
「そっか。持って行ってみるわ」
礼を告げて終わりかと思えば、男は困り顔でタヌキを見る。
まだ何か有るのか?
「最近は駆除してくれる人が減って増えてたんですよねぇ」
「駆除?」
しみじみと言う男の言葉に首を傾げる。
タヌキは害獣扱いってことか?
日本でもタヌキは害獣扱いだったな。
見た目がよく似たアライグマでよく聞いたのは狂犬病と食害だったが、タヌキの食害を耳にしても感染症の媒介は聞いたことがなかったなあ。
まあ、イヌ科なんだから狂犬病も媒介するだろうし、色んなものを媒介するんだろう。
「ラクーンは何でも食うし畑を酷く荒らすんで、農家としては駆除してくれる人が減ると困るんですよ」
「ああ。冒険者か」
やっぱり害獣なんだな。
こっちでも問題視されているのは雑食性による食害か。
酔っ払いどもも言っていたが害獣駆除も冒険者の仕事ってことなんだろう。
しかし、これだけ簡単に狩れる害獣となれば駆除の手間賃も安そうだ。
「内戦も終わったそうですし、戻って来てくれると良いんですけどねぇ」
「えっ? 終わったのか?」
驚いて思わず訊き返しちまった。
昨日の今日で随分と状況が変わったんだな。
いや。情報ってのは人が運ぶもんだ。
人が少ない場所は情報伝達が遅れるのは当然か。
寂れた街道の宿場町だから情報が遅かった可能性が有るな。
「まだ逆賊平定のお達しが有ったわけじゃないらしいですけどね。領都はその噂で持ちきりでした」
「ほほぅ。そうなのか」
他国へ逃げる必要が無くなったのは俺たちにとっても良いことでは有る。
だが、また少し戦略を練り直す必要が有りそうだ。
「王国騎士団長様が北部から王都へ戻られるんじゃないかって話ですよ」
「静かになるのは良いことだな」
ふむ? 騎士団長ね。
「王都へ戻る」ってことは、そいつは王都が活動拠点なんだろう。
男の口調から察するに国民の支持が有りそうな権力者だ。
“長”ってことは部門トップなんだろうし、軍事部門なら接点も有り得るのか?
警察みたいな治安部門が別に存在するのなら縁が無い可能性も有る。
取りあえず、そういうヤツが居るってことは覚えておくか。
「ええ。“南部の雄”様々ですよ。私らも安心して暮らせるってもんです」
「まったくだな」
男の意見に合わせてハッハッハと笑い合う。
笑い声が治まるのを見計らったのだろうタイミングで、トーストを平らげたケイナが腰を上げた。
「テツさん。これ、もう下ろして良いですか?」
「そうだな。下ろしちまうか」
俺もメシを平らげちまわねえと。
考えが顔に出ちまったのか、俺たちがメシの最中だったと思い出したらしい男がバツの悪そうな顔をした。
「おっと。いつまでも邪魔をしちゃ悪いね」
「いや。いい話を聞かせて貰った。ありがとよ」
反省の弁に笑い返すと男も人の好い笑みを浮かべて片手を挙げた。
「良いってことさ。じゃあ、私はこれで」
「おう。またどこかで」
俺も手を挙げ返してトーストを口にねじ込む。
ケイナの手から吊したロープを取り上げて、力仕事は俺が担う。
ニコリと笑うケイナに笑い返して、タヌキを地面に下ろしながら頭を使う。
内戦の終了という状況の変化をどう捉えるか。
いきなり冒険者不足の状況が改善するってことはねえだろうが、タイムリミットは発生したと考えて良いだろう。
悩ましいところだな。
売り手市場の内に恩を売りつけて立場を強くしたかったんだが、システムに出来るだけ深く食い込むために多少は強引にねじ込むべきか。
強引にやり過ぎると反発を受けやすいし綱渡りになりかねねえ。
出たトコ勝負になるだろうが、乗り切るしかねえな。
状況変化④です。
終戦!?
次回、領都!?




