状況変化 ①
翌朝、身支度を終えて部屋を後にする。
1階の酒場へと下りると、朝は酒場ではなく食堂として営業しているようだった。
まだ空が白み始めた程度の早朝だが、他の宿泊客なのか近所の住民なのか10人ほどの客が朝食を摂っている。
まだ眠そうな顔をしてる女性店員を捕まえて部屋の鍵を返却する。
「うっす。コレ、部屋の鍵な」
「おはようございます。ゆっくり眠れましたか?」
非常に簡素な形状の鍵を女性店員の手のひらに置くと、俺とケイナの顔を見比べて問う。
「はい。ぐっすりです」
「それは良かったです。朝食はどうされますか?」
ケイナの返事にニッコリと笑い返してから、「当たり前だろ」と言わんばかりに俺へ向かって注文を訊いてくる。
食ってから出発するつもりでは有ったんだが、商魂逞しいことで。
「2人分、頼むわ」
「銀貨2枚です」
圧力の有る笑顔に苦笑しつつ、毛皮袋から小銀貨を2枚取り出す。
「おう。―――、そういや、昨夜の連中は?」
「もう出発されましたよ。ジッカロープ狩りだー! って。2時間ぐらい前でしょうか」
酒場が静かだと思って訊いてみれば、あの酔っ払いどもはヤル気で働きに行ったらしい。
「へぇ? 随分と早く出たんだな」
「随分と早くに起きてこられるものだからビックリしました。久しぶりに、ちゃんとした仕事になりそうだと張り切って出られましたよ」
今は朝6時にもなっていない時間だと思うんだが、連中は朝4時に出掛けていったのか。
「そうかい。そりゃあ何よりだ」
現金すぎて苦笑しちまう。
ヤル気になったにしても早すぎだろう。
街灯の1つも無いのに外は真っ暗だぞ。
きな臭くなって以降、稼げていない状況が続いたらしいことは聞いたし、よほど鬱憤が溜まってたのかもな。
向こうも情報を得ただろうが、俺たちも連中からは色々な情報が得られたんだ。
一期一会って言葉も有る。
本当にまたどこかで会うことが有るのかは分からねえが、上手く行くことを祈っておいてやろう。
「お好きな席で待っていてくださいね」
「おう。分かった」
小銀貨2枚を受け取った女性店員はバックヤードへと引っ込んで行く。
ケイナを促せば店内を見回して小さく頷くと昨夜と同じ席を選ぶ。
こうやって冒険しないところにケイナの性格が出ている感じがして面白い。
いや。人間だって動物だって、一度通って安全だった実績がある場所を選ぶのは警戒心が強い証拠なのかもな。
油断するよりも100倍マシなんだし良いことだ。
ただ、ほんの小さな出来事の中でも、新しいことに挑戦できる安全な環境を早く作ってやりてえと考えちまう。
テーブルの奥側に治まったケイナが怪訝そうに眉を寄せて声を潜める。
「あの人、ずっと酒場にいるんでしょうか」
「住み込みの従業員か、ここの娘かの、どっちかじゃねえかな」
「すみこみ?」
ケイナが首を傾げる。
数日前に生まれて初めて「店」というものに遭遇したケイナにとって、住み込みという勤務形態は新しい概念か。
あ~。何て教えれば良いんだ?
誤解を減らそうと思うのなら、出来るだけ単純な答えの方が良いだろう。
「要は、この建物の中に住んでるんだろう」
「そうなんですね」
どこまで正確に伝えることが出来たのか怪しいもんだが、ケイナは納得顔で頷いた。
「今日はどこまで行くんですか?」
「今日中に領都とやらに着ければ、また宿で1泊だな」
地理的な情報が無いに等しいから、そうとしか答えようがねえんだよな。
「着かない場合は野営ですね」
「そうなるな」
笑顔で言うケイナに頷き返す。
何で嬉しそうなんだよ。
いくらも待たないうちに女性店員が戻ってきた。
「お待たせしましたー!」
食事を運んできた女性従業員が木皿とカップをテーブルにドカッと置く。
それなりの量だが、身構えるほどの量が盛られているわけでもない食器の中身に安心感を覚える。
昨夜も思ったが、エンツェンスでの宿はやっぱりドカ盛りの店だったんだろう。
テーブルを離れないうちに女性店員を見上げる。
「ありがとよ。ところで、この宿場町から、領都まではどのぐらい掛かるんだ?」
「1日で領都は厳しいかもですね。まあでも、2日は掛からないですよ」
「そんなもんか。分かった」
チラリと店外へ目を向けて少し考える素振りを見せた女性店員の答えに頷く。
考える必要が有ったのは馬か徒歩かの違いか?
「馬を表に回しておきますね」
「よろしく頼むわ」
それ以上の質問は無さそうだと見て取ったらしい女性店員が踵を返す。
考える必要が有ったのは馬か徒歩かの違いか? それ以上の質問は無さそうだと見て取ったらしい女性店員が踵を返す。
状況変化①です。
出会いあれば別れ有り!
次回、ポンポコ!?




