空気の違い ㉚
「本当に何も知らないんだな」
「あ、あんまり興味が無かったもんでな」
苦しい。言い訳にしても苦しすぎるだろ、と自分でも思う。
どんだけ世相に疎いんだ、と思われるぞ。
事実、世相に疎そうだと割り切ったらしい1号が俺を指す。
「今後はどうなるか分からんが、今はお貴族様の依頼は迂闊に請けるなよ? 新しいギルド長に代わったときの風向きが読めん」
「貴族同士の揉め事に巻き込まれる怖れか?」
そのぐらいしか理由が思い浮かばねえ。
俺の理解は間違っていなかったようで、1号が深く頷く。
「ああ。派閥争いに巻き込まれれば、俺たち冒険者なんぞ簡単に口封じされるだろう」
「そりゃあ勘弁だな」
新体制側から見て旧体制側に関係すると疑われるリスクと、旧体制側の依頼がヤベエものだったときのリスクか?
狩って来いと依頼されたものが保護対象動物や禁輸品だった場合は有り得そうだな。
こっちの世界の文明進度で野生動物保護なんて概念が有るのか甚だ疑問だが。
そうだとしたら、旧体制側が生き残りを図ったときに口封じされるってのも分からなくはない。
「派閥争いから距離を取るには“中立派”領地に居るのが一番では有るんだが、稼ぎやすい南部はカリーク公王国と戦争中で近付けんしな」
「そっちでも戦争してんのかよ」
おう。カリークってのは貴族の領地じゃなく国の名前だったか。
戦争中ってことは隣国なんだろう。
内戦中に隣国へ侵略戦争を仕掛けるとは思えねえから、こっちが戦争を仕掛けられた側なんだろう。
火事場泥棒的に背後から侵略を仕掛けるのは、いつの時代も常套手段だからな。
「“南部の雄”が負けるとは思わんが、万が一を考えると近付きたくねえ」
「かと言って、魔獣が強い東部の森で稼ぐのは少人数では厳しい。普通はな」
2号が肩を竦めて4号がジロリと俺を見る。
東部は魔獣が強い?
森へ入る場所によって魔獣の強さが変わるのか?
考えられるのは生態系というか、魔獣の棲息域―――、縄張りみたいなもんか?
さっきの4号の剣幕は、このことが理由っぽいな。
「冒険者が減りすぎて声を掛けても人が集まらねえからなあ」
「だから俺らは森にも入れず、無茶を押し付けられ兼ねん王都から離れて、害獣駆除の依頼を細々と請けてるってわけだ」
3号がボヤいて1号が首を振る。
強い魔獣を狩りに行くには人数を集めて物量で攻める方法を採るのか。
山分けすると取り分が少なくなりそうだが、ヘビ1匹で100万円と考えれば、そこそこ儲かるのかもな。
そのやり方は有りか。今後の参考にさせて貰おう。
「ふーん。―――、あれ? ちょっと待て。“南部の雄”は内戦もしてるんじゃなかったか?」
「おう。西部の国境辺りでな」
納得し掛けて気付く。
1号は頷くが、それはおかしいだろ。
「冒険者は西部へ逃げたんじゃなかったか?」
「連中が逃げた先は王国西部じゃなく西方諸国だ。王国北部を迂回してな」
3号がヒラヒラと手首を振って俺の間違いを訂正する。
「あー。そういうことね」
そういや「西方」と言ってたんだったか?
あっちもこっちも火事だらけで、ややこしいな。
「北部は火種が大きくなるのが遅かったから、以前は何とか通れたようだ」
「南もダメ。西もダメ。北もダメ、か。かなり拙いんじゃねえの?」
俺たちは偶然にも平穏を保っている場所にピンポイントで出てきたんだな。
今、俺たちがいる東部地域だけが平穏を保っていて、他の地域は随分と空気が違うらしい。
東西南北と中央の5つにエリア分けしたとして、国土の5分の3に火が点いているわけか。
俺たちも逃げた方が良いのかと考え始めたところに1号が首を振った。
「いいや。西部と南部はそのうち治まるだろう」
「流石は“南部の雄”だぜ。他の領地じゃあ、南部と西部で同時に戦争なんて出来んだろうよ」
「南東の端と西の端じゃあ1000キロメテルは離れてるしな。とんでもねえぜ」
1号の予想に2号と3号が同調し、4号もジョッキを煽りながら頷いている。
コイツらはウォー何とかって貴族が勝つと確信しているみてえだな。
「はー。二正面戦線かよ。マジで強えんだな」
俺の感想に全員が頷き返して来る。
暫くは火種が燻るにしても国が傾かないなら脱出する必要は無さそうか。
稼ぎの面や郷からの距離を考えても、この国が存続してくれるのは俺たちにとっても望ましい。
何より、神教会とかいう連中が影響力を持つ国はヤバすぎるから、出来るだけ近付きたくねえ。
1号が深い溜息を吐く。
「そうは言っても、戦争が終わるまで待ってるわけにもいかねえ」
「今の北部は“北部の雄”が率いる“保守派”と“融和派”が睨み合ってて近付けねえし、そもそも北部の魔獣は領軍で対処しなきゃならんぐらいに強え」
「東の森しか稼げる場所が無いんだが、人手が無くて入るに入れねえ」
「そんなわけで、今は仕事が有るのに稼ぎにくいんだ」
2号と3号がボヤいて4号が大袈裟に肩を竦める。
「そこで、だ。俺らと組んで“魔の森”へ魔獣を獲りに行かねえか?」
最後の締めに1号が俺を指してニヤリと笑う。
ようやくコイツらの意図に気付いて小さく吹き出す。
空気の違い㉚です。
エピソードタイトル回収!
次回、スカウト!?




