旅の準備 ②
「手拭いは有るかい?」
「有るよ。何本、要るんだい?」
本当に客なのかと疑っていたのか、注文を告げるとオバチャンが表情を緩める。
文字通り“毛色の違う”大男とフードを目深に被った子供の怪しい二人組だしな。
警戒されても当然か。
「10本―――、いや。20本くれ」
「20? あいよ」
本数の多さに驚いたのか目を丸くしたオバチャンは、すぐにプロ根性を発揮して商売モードに復帰した。
カウンターを出て商品棚の間の通路へと入っていく。
「お代は―――」
「ああ、ちょっと待ってくれ。子供が服を選んでる」
店内の通路に置かれていた木箱からごっそりと布束を抱えてカウンターに戻って来たオバチャンが口を開くのを手で制する。
オバチャンが目を向けた先には、棚から取りだしたシャツを広げては首を傾げるケイナの姿がある。
「手拭いもだけど。ずいぶんと沢山買ってくれるんだね」
「狩りの最中に荷物を全部やられちまってなあ。大出費さ」
見るからに余所者だからか、それなりに警戒されてたんだな。
こりゃあ、“探り”だ。
世間話のような口調で訊いてきたオバチャンに、やれやれと困った表情を作って肩を竦めて答えると、警戒レベルを引き下げた様子でオバチャンが頷く。
「アンタら冒険者かい? そりゃあ災難だったね」
「何とか獲物は狩れたし、命あっての物種だからな。荷物ぐらいで済めんだなら良いってことよ」
「そりゃそうだ」
ハッハッハ、と笑い飛ばしてやれば、オバチャンもアッハッハと明るく笑う。
「俺も何着か選ぶかな」
「アンタ、体格が良いから、在庫が有るかねえ」
新たな商売のチャンスに、腕組みになったオバチャンが職人のような目で俺の全身を見回す。
いや。有るだろ。
目と鼻の先に軍隊が駐屯しているのだから、俺と大差無い程度の体格の奴なら、ゴロゴロとまでは行かなくても、それなりには居るはずだ。
俺には売りたくねえ、ってわけでは無さそうなんだけどな。
「出来ればシャツとズボンを2~3着ずつ、適当に見繕ってくれるか?」
「任せな。アタシが探してあげるよ」
イイ顔でニッと笑ったオバチャンが再びカンターから出撃してくる。
ははぁ。そういうことか。
このオバチャン、商売人だなあ。
前もって品薄を臭わせたのは、イイ値段の商品を売りつけるための前振りだったんじゃねえか?
ボロボロで見窄らしい衣服よりは良いから、いくらか高いぐらいなら構やしねえんだけどよ。
オバチャンが衣服の山と格闘戦に入ったのを確認して、改めて店内を見渡せば中古品らしきブーツまで足元の通路に並んでいた。
どれも靴底までゴツい革製で、脛の半ばまで丈のある半長靴みたいなタイプだ。
いや。ロング丈のトレッキングブーツっぽい見た目か。
足首から脛を革紐で縛り上げて締める作りなのは地球の靴と同じなんだな。
適当に一つを手に取ってみる。
靴底はただの平たい革だから、半長靴やトレッキングブーツみたいなソールパターンは無いけどな。
ぬかるみで足が滑りそうだが、どの靴も同じ平たい革だから、これが標準なのだろう。
目測でサイズを測って試し履きしてみれば、ピッタリとまでは言わないが、微妙に大きめで歩くに支障のないサイズ感だったから買っておくことにする。
オバチャンは、もののついででケイナの衣服も6着ずつ選び出してくれた。
そして、俺とケイナのズボンの革ベルトだけでなく、下着も。
男物の下着はトランクスのゴムの代わりに紐で結ぶ形。
女物の下着は男物と基本は同じ作りだが、両腿の裾も紐で締めて結ぶ形になっていた。
この形、何て言ったかな? ズローズ?
ケイナはサイズ的に上の下着はまだ要りそうに無いが、キャミソール的なものぐらいは有っても良さそうなものなんだがなあ。
胸が大きくなってきたらサラシでも巻くんだろうか?
ケイナに嫌われると拙いから、これ以上は言うまい。
俺はデリカシーに欠けるとカナに散々絞られたもんだ。
必要な状況になる前に、女性面でケイナの相談に乗って貰える相手を見つけないとな。
ともあれ、俺の着替えと二人分の下着類と中古ブーツも合わせて、締めて金貨2枚だ。
まあまあの金額になったな。
明細書が付いてくるわけでは無いから個別の単価は分からないが、金貨1枚もあれば、それなりの量が買い揃えられることは把握した。
ホクホクの恵比寿顔でカウンターに衣服と手拭いを積み上げたオバチャンが、郷から持って出た革袋にケイナ用と俺用の衣服を分けて詰め込んでいる俺の質問に首を傾げる。
旅の準備②です。
父親目線!
次回、情報!




