EP3人として パート2
「もういい」
僕の中で何かが切れた音がした。
「ふーんそうかい。ならとっととここから去れ」
去れ…つまり俺はここから去ることだけを強制されておりほかはなにをしてもいいということだ。
「立てるか?」
座り込んでいるエルフにささやくように声をかけた。一瞬あっけにとられたような表情をしたが、小さくうなずいたのでひょいっとお姫様抱っこをした。人生初のお姫様抱っこは意外と簡単だった。この子が軽いからだろう。
「ひゃっ⁉」
変な声が聞こえた気がしたが聞かなかったことにしよう。そして、俺はそのまま走り出した。
「何⁉」「待てゴラ~」「噓だろ⁉」などを口々に言って追いかけてくるがお構いなしに走る。現代科学の塊であるスニーカーの威力はすさまじく、あっという間に逃げきれた。この世界で人間は魔族を迫害する。差別はいつどんなところでも起こりえる。はっきり言って仕方ないことだ。しかし、その行為を``人として正しい``とするのは違うと俺は思う。それはつまり人間同士の共通認識であり社会の常識ということだ。そんな奴らと同じなんて俺は嫌だ。だからこの世界で、俺は人間であることを捨てた。これからは自由にいきさせてもらおう。
「君名前は?」
「リザ…姓はない」
「じゃあリザさん、これからどうしたい?」
好きに生きるとは言ったものの何か指針がほしいのは事実なので一応聞いてみた。
「どうって…?」
首をかしげた自覚があるのかどうかは分からないが、めちゃくちゃかわいい。
「例えば、さっきの奴らに仕返しするとか、故郷に帰るとか…」
そこまで言ったとたんに彼女は眼の色を変えて、
「帰る場所も、家族も友人も、奪ったのはおまえたち人間だろうが!今更勝手な子を言うな!」
その目は悲しみと寂しさ、そして強い怒りの眼光を発していた。
「悪かった。言葉が足りなかったすまない。実は俺、この世界の人間じゃなくて…」
俺はリザさんにこれまでのことをすべて話した。田口に突き落とされた時から、リザさんに出会う前までの全てを。
「ごめんなさい。急にカッとなってしまって」
「いいさ。もともとは俺の言葉足らずが原因だ。それでこれからどうしたい?」
「私は…たとえなくなっていてももう一度故郷に帰りたい。ちゃんとお別れを言いに行きたい。その後はどこか安全な場所で静かに家族と過ごしたい。まぁ、かぞくはもういないけど」
どこかさみしそうな声でだった。
「じゃあ、俺の故郷に来るか?俺の故郷、魔族いないから差別とかないし、何より別世界だし、どうだ?」
リザさんは少し考えた後、
「行く。あなたの故郷行ってみたい」
「決まりだな。俺はアマネ、アマネ フジヤだ。アマネでいい」
「私もリザでいい」
「よし!じゃあいくかリザ」
そして俺たちは進みだした。リザの故郷、魔大陸ベルへゼ地区にある``エルフの里``へ。
第一章人として完。次章、第二章故郷を目指して。こうご期待。