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第六章 無との対決 EP1 帰還

いつも読んでいただきありがとうございます!

 一年、長い月日が経った。


だというのに、あなたは……あなたという人はどうして……


「起きないのよ……」


虚空城での動乱から一年。私、アリア・ムール・ハイリシア改めアリア フジヤは、堕賢者との戦いで大きな傷を負った。その時、私の夫。アマネ フジヤは無理をした。


私にはそれしか分からない。


あの時一瞬だけ、虚空城から脱出した上空であの悪魔様の声を聴いた気がした……分かることと言えばそれだけである。確か内容は……


『おぬし、よかったのか? 死ぬぞ?』


『それを何とかするのがお前の仕事だろう?』


『全く無茶を言うやつじゃ……では、こうしよう………………』


そして、彼の手によって私ともう二人、アマネの義弟である獣人のライラと私と同じアマネの妻であるリザが、病院に運ばれた。治癒師たちは最初こそ困惑したらしいが、取り合ってくれた。


「で、そのあんたが何で起きないのよ……バカ…………」


「どう?まだ起きない?」


アマネの病室にリザが現れた。


「もう動いていいの?」


「そっちこそ。包帯取れてないんでしょ?」


「そうだけど、お花の水くらいは変えられるわ」


「ふふふ。確かに」


私たちは笑みをこぼし合ったが、すぐに暗い顔になった。


「起きないね」


「ええ」


———ほんとにもう…………何で起きないのよ……。




・・・




 そのころ。俺、アマネフジヤはというと、


「待った待った!それは卑怯だろ!」


「何を言うか!ほらまだまだ行くぞ!」


俺の目の前にいるのは始まりの悪魔ことベルイズ アスモシアスさん。俺はこの一年間、精神世界で稽古をつけてもらっている。


「ほら、またじゃ。動きが大きすぎる!もっと最小限の動きで対応するのじゃ!」


精神世界内の時間ではすでに10年が経過している。


「やっと両翼を出せるようになったというのに、途端に動きが悪くなったぞ!ほら、もっと速くじゃ!」


「ひぃぃぃ!!」


俺がこの期間に身に着けたことは、数多くあるが、まず代表されるのは‘‘悪魔の翼‘‘だろう。


ベルイズ アスモシアスという始まりの悪魔には、どうやら生前、翼が生えていたらしい。その数6枚。その内4枚が攻撃や防御用で、後の二枚が、移動用らしい。


そして、俺が発現させられるようになったのはその移動用の二枚、通称、‘‘悪魔の翼‘‘だ。


名前がややこしい!


「よそ見をするな!!」


強烈な右ストレートをもろに食らって俺は宙を舞う。


「ぐはっ!むぐっ!」


きれいな直線を描いて、まっすぐ精神世界の壁にぶつかった。痛みは感じない(精神世界だし、生身じゃないからね)が、心臓に悪い。


「痛くないじゃろう?さぁ、早く立て」


一応言っておくが、この鬼教官ことベルイズ アスモシアスさん、実はめちゃくちゃ美人の女性である。

悪魔だから、性別はないらしいのだが、女性を自称している。

妖艶な衣装を身にまとい、肌は人間のそれだが、体中に赤色のラインが走っている。魔力の流れる回路らしい。


「うん?どうした?私から一本取るんだろう?」


「言われなくても……!」


俺はまた翼を展開し、戦闘態勢に入る。素手での一騎打ちだ。


一瞬の沈黙の後、両者同時に踏み込んだ。



・・・



 「ドリャァァァァァ!!」


俺の渾身の一撃がベルの顔の数センチ横を通り過ぎる。しかし、すかさず身をひるがえし、後隙を消す。


「うまくなってきたな!」


いたずらに笑うベルには、まだ余裕があるようだ。


だが、今回は違う……!


「……創造者(クラフター)!」


短剣。立った一振りの小さい短剣だ。しかし、仕掛けがしてある。


「そんなもの……っ? まさか!?」

「爆散!!」


‘‘爆刃‘‘と名付けた短剣は、威勢よく爆発した。不意を突かれたベルが一直線に吹き飛んだ。

しかし、うまく翼を使って空中で体勢を立て直した。


「私に渾身のスピードで拳を放った後に、その手の中から短剣を瞬時に生成、それを爆破……ふふふ……考えたな」


ベルは愉快そうに笑っている。起こってはなさそうだ。


「おい、おぬし、空中に生成することはできないのか?剣とか、盾とか、」


「え?」


言われてみればやったことなかったかもしれない。

俺は静かに目を閉じ、イメージする。


「……こうかな?」


空中に粒子が生成される。そして徐々に、それは形を成していく。粒子が集まり、幻想的でいかにもファンタジーらしい。


しかし……


「ウッ……!?」


頭に激痛が走る。

精神世界では傷は負わない。どこに頭をぶつけてもいたくないのだ。


しかし、もしも現実世界で傷を負ったなら、話は違う。


スキルの使用にはもちろん現実の自分の体を使う。特にスキルや魔法は、脳で処理される。


「限界か……まだ早かったのかもしれんな……無理はいかん。すぐに止めよ」


少し威厳のこもった声が響く。すぐに生成をやめた。できたのは、刃が半分しかない剣だった。

柄やつばの部分はできているのだが、どうにも刃が不完全だ。


「練習はしておくといい……先代の使用者はそうやっていた……」

「先代?ベル、創造者(クラフター)をほかに持っていた人もいるのか?」


ベルは長い髪をなびかせてこちらに背を向けてから、「また今度話す……今は忘れろ……」といった。そして続けて、


「たった今をもって、修行を終了する。まぁ、言いたいことはいろいろあるが、今はいいじゃろう」


呆れたような、それでいて、期待のこもった視線だ。

こうして俺の修業は終わった。


「今の状態なら、悪魔の力を少しはまともに使えるようになるじゃろう。もっとも、おぬし自身も強くはなっていると思うが」


「ずっと気になっていたんだけど、精神世界で鍛えたからって急に強くなるのか?」


「精神世界はその者の認知そのものだ。特に知能が高い生物は思い込みによる成長がすさまじいからな。自分が強くなったと錯覚すれば、自動的に身体も認知に追いつこうとする。つまり、強くなるということじゃ!」


ベルはどこか得意げに話した。

口元に笑みが浮かんでいる。


「さて、そろそろ目覚めの時間じゃ」

「ああ。いろいろありがとう。ベル」


ベルはなぜか少し照れたように顔を背けて、


「ま、まぁ、おぬしが戦えんとわらわが困るからな……! しかし、この始まりの悪魔に対し、ため口を崩さないとは大した度胸じゃ」

「いやまぁ、仲間に敬語はなしだろう?」


ベルは少し目を見開いて、驚いたような表情になってから、


「……全く……仕方のない奴じゃ……ふふ」


その頬は確かに赤く染まっていたのだった。


こうして、本当に俺の修業は終わった。この問答の後、俺はまた急な落下の感覚を味わいながら、意識をもとの体に戻していくのだった。


こうして、アマネ フジヤは死の淵から帰還した。


続く

次回

EP2 救出


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