1.畑中ユウキ
得意な教科は体育。苦手な教科はそれ以外。文字の読み書きができない。簡単な計算に時間がかかる。友達はそこそこ。コミュニケーションはできる。それがおれ。それが畑中ユウキ。
昼休みに、いつも本を読んでいるクラスメイトがいた。頭脳明晰で、いつもテストで百点を取っている。授業では積極的に手を挙げて、グループ活動ではリーダーを務めているまじめな子。
おれは、友だちとドッジボールをしながら、チラチラと校庭からその子を観察した。
「おいユウキ!よそみすんな!ボールが顔に…」
友だちのコウがさけぶ。なんだ、と振り向くと顔に強い衝撃がはしった。おれはそのまま後ろに倒れこむ。尻餅をついた。
コウや、他の友だちもこちらに駆け寄ってきた。コウはため息をつきながら、「お前バカかよ」と言いながらもおれに手を伸ばす。
しかしおれは、その行為をみんなの前でさらすのが、なんだか恥ずかしくなってコウの手を払いのけて、自力で立ち上がろうとした。腰に力を入れた瞬間、ズキっと鈍器で殴られたかのような鈍い痛みがはしった。
しばらく沈黙して、おずおずとコウにお願いをする。
「コ、コウー……やっぱ手、貸して…」
小さな声でいう。コウはめんどうくさそうな顔をしたあと、しぶしぶといった感じで再度手を伸ばす。
「ユウキ、あとでポケモンのレアカードよこせよ。お前、自覚してないだろうけど馬鹿力だから相当痛かったんだからな」
おれのプライドとポケモンカードを犠牲に何とか助けてもっらったが、腰や鼻のジンジンとした痛みとは別に、鼻に違和感を感じた。触ってみると、手にべったりと血液が張り付いていた。
「うわっ!鼻血でた!」
おれは大急ぎで保健室に走った。
途中に教室から見えたあの子は、鼻で笑っていた。なんだか顔が更に熱くなっていくのを感じた。