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第5話 仲間と差別 前編

「じゃあ早速移動するか」


 ドラが洞窟の外を指さした。


「こうたはこれに乗れ。まだまともに動けないだろ?」


 見ると、洞窟の外に木でできた荷車が置いてあった。太い木の車輪がついていて、荷物を運ぶためのものらしい。


 ぼくは内心、ほっとした。


 さっきの戦いのせいで、体はまだ重く、足もふらふらだ。正直、歩けと言われたらかなりきつかったと思う。







「ありがとう……」


 ぼくはせいかに支えてもらいながら、なんとか荷車に腰をおろした。体を動かすだけでも少し痛むけど、座るとだいぶ楽だ。


「これ、どうしたの?」


 せいかが荷車を見ながら聞いた。


 レオが答える。


「近くの別の村に、これを使って荷物を届けてたんだ」







「それで帰り道に森が急に光ってな」


 レオはちらっとドラを見る。


「ドラがどうしても行くって聞かなくてよ。俺は止めたんだけど」


「だっておもしろそうじゃん!」


 ドラが胸を張る。







「森が光るとか、絶対何かあるだろ!」


 レオは大きくため息をついた。


「それで光った場所に向かって歩いてたら、この洞窟を見つけた。そこでせいかを見つけたってわけだ」


「なるほど……」


 せいかが小さくうなずく。


 ドラが空を見上げた。






「じゃ、あとは移動しながら話そうぜ。日が暮れたら母ちゃんに怒られちまう」


 ぼくは荷車のへりをつかんで、体勢を整えた。


「よし、出発!」


 ドラが前で荷車を引きはじめる。


 後ろから、せいかとレオが押す。






 ごとごとと音を立てて、荷車はゆっくり森の道を進みだした。


 ぼくは荷車の上で揺られながら、三人を見ていた。


 自分だけ何もしていない。


 ただ乗っているだけだ。


(情けないな……)


 そう思った。


 でも、ドラもレオもせいかも、誰一人嫌な顔をしていない。むしろ楽しそうに歩いている。


(……ありがとう)


 ぼくは心の中でつぶやいた。






 しばらく進んだところで、ぼくはドラに話しかけた。


「ねえドラ」


「ん?」


「人間は珍しいって言ってたけど、この世界って他にもしゃべる動物はいるの?」


 ドラは少し考えてから答えた。


「いることはいるぞ」






「でもやっぱり珍しいな」


 後ろからレオが言う。


「人間と同じで、そんなにたくさんはいない」


「俺たちにとっては普通の世界だけどな」


 レオは少し笑った。







「こうたとせいかから見たら、猫の世界に見えるんだろ?」


「うん」


 ぼくはうなずいた。


 せいかが笑いながら言った。






「でも猫でよかったよ」


「虫とかだったら耐えられなかった」


 一瞬、みんなの動きが止まる。


 そして――


「それはきついな」


 ドラが笑った。







「巨大な虫の村とか想像したくない」


 レオも吹き出した。


「確かに地獄だ」


「うわあ……」


 ぼくも思わず顔をしかめる。


 想像しただけでぞっとした。


 みんなで笑いあう。


 森の空気が、さっきよりずっとやわらかく感じた。







 そのときレオがドラを見た。


「ところでドラ」


「ん?」


「こうたとせいかのこと、お前の母ちゃんに何て言うんだ?」


 ドラの足がぴたりと止まる。


「ん~……」


 腕を組んで考えはじめた。






「説明が難しいな……」


 レオがさらっと言う。


「洞窟で拾った、とかか?」


「動物かよ!」


「ひどい!」


 ぼくとせいかが同時に言った。


 ドラが大笑いする。






「冗談だよ!」


「ま、何かうまいこと考えるから任せとけ!」


 その笑顔を見て、ぼくとせいかは顔を見合わせた。


(……ちょっと不安)


 ドラが笑いながら言う。






「でも本当に拾ったとか言ったら母ちゃんびっくりするだろうな」


 レオが変顔をして言った。


「に…人間?? あんた、犬やうさぎじゃないんだからどうするのよ!!」


 ドラがもっと変な顔をする。


「こんな顔かもしれないぜ?」


 せいかが吹き出した。






「ほんとうに仲良しだね」


 せいかが言う。


 ドラはちょっと照れくさそうに頭をかいた。


「ま、母ちゃんも最近は落ち着いてきたからな」


 そしてぼくたちを見る。


「きっと優しく、これからのこと相談に乗ってくれるはずだ」


「だから安心しろ」


 その言葉に、ぼくの胸が少し軽くなった。







 しばらく歩くと、森の道がゆるやかな坂になった。


 荷車がゆっくり登っていく。


 坂の上に出て、角を曲がったとき――


 ぼくは思わず息をのんだ。


 そこには、広い田んぼが広がっていた。







 風にゆれる稲。


 その向こうには、茅葺屋根の家がいくつも並んでいる。


 畑では何匹かの猫が働いていて、遠くには煙がのぼるかまども見える。


 小さな川が村の横を流れ、木の橋がかかっていた。


 まるで絵本で見た昔話の世界そのものだった。






「……すごい」


 ぼくは思わずつぶやいた。


 せいかも目をきらきらさせている。


「ほんとだ……」


 ドラが、少し誇らしそうに胸を張る。


 そして振り返った。







「ようこそ」


 ドラがにっと笑う。


「俺たちの村へ」

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