第4話 限界と覚悟 後編
ぼくは、せいかのほうを見て、うなずいた。
そして、ドラとレオに向きなおる。
「ぼくは、こうた」
「私は、せいかです」
せいかもぺこりと頭を下げた。
ドラは満足そうにうなずく。
「うむ、ようやくちゃんとした自己紹介だな」
ぼくは、わざと少しだけにやっと笑った。
「さっきは、蜘蛛からせいかを守ってくれてありがとう」
なるべく、嫌味っぽく言ってみた。
ドラは胸を張る。
「おうっ! 気にするな!」
……全然、気づいてない。
レオが横でため息をついた。
「その手の話はドラには無理だぞ?」
すごく疲れた声だった。
ぼくは、なんとなく思う。
(……レオも苦労してるんだろうな)
きっと、いつもこんな感じなんだろう。
そのとき、ドラが急に目をキラキラさせてぼくを見る。
「それでさ! さっきのこうたの動き、あれなんだったんだ!?」
身を乗り出してくる。
せいかも、うんうんとうなずく。
「私もびっくりした! こうちゃん、剣道とかやってたっけ?」
「やってないよ」
ぼくは首をふった。
「何も習ってない」
そして、正直に話す。
「自分でもよく分からないんだ。気づいたら……夢中で戦ってた」
レオが腕を組んだ。
「少なくとも、素人の動きじゃなかったぞ」
「そんなこと言われても……」
ぼくは困ってしまう。
本当に分からないんだから。
少し沈黙が流れたあと、ぼくは気になっていたことを聞いた。
「この世界って、人間はどれくらいいるの?」
ドラが首をかしげる。
「ほとんど見かけないな」
レオもうなずく。
「俺たちも、生で人間を見たのは初めてだ」
「え?」
ぼくは目を丸くする。
「初めて?」
「村にはな、昔、人間に会ったことがある猫が何匹もいる」
ドラが言う。
「それが、ちょっと羨ましかったんだよな」
「羨ましい?」
せいかが聞く。
レオが説明する。
「この世界での人間のイメージは二つだ」
「二つ?」
「新しいことを教えてくれる優しいやつ」
レオが一本指を立てる。
「それか、猫たちを利用しようとするずるいやつ」
二本目の指を立てた。
ドラが続ける。
「あと、いつの間にか現れて、いつの間にかいなくなる」
「そうそう」
レオもうなずく。
ぼくは、心の中で思った。
(たぶん、裁判の資料がそろって天使たちに連れていかれるからだ)
アズラエルの言葉を思い出す。
でも、それは言わない。
せいかが、ぱっと顔を明るくした。
「じゃあ、いなくなった人は帰り道を見つけられたのかもしれないね!」
ぼくは、一瞬だけ胸がぎゅっとした。
でも、すぐに笑ってみせる。
「……そうかもしれないね」
本当は、ちょっと違うって知ってる。
でも、せいかが希望を持つなら、それでいい。
せいかはドラとレオに向き直った。
「私たち、いきなりここに来ちゃって……帰り道を探してたんです」
ドラが「帰る方法か……」とつぶやく。
そして、少し考えこむ。
やがて、顔を上げた。
「よし」
ぼくたちを見る。
「こうた、せいか。俺たちの村に来い」
「え?」
レオも、しかたないという顔でうなずいている。
ぼくは、思わず黙ってしまった。
「でも……」
言葉が止まる。
せいかも、ぼくを見ている。
ドラとレオはいいやつだ。
だからこそ――迷惑をかけたくない。
ぼくたちの問題に巻きこむのは、申し訳ない気がする。
そのとき。
「おい、こうた」
レオが声をかけてきた。
「……なに?」
「大体、何で悩んでいるか想像できる」
レオは、静かに言った。
「お前たち二人だけで、この森を抜けて帰り道を探せるのか?」
ぼくは黙る。
「食べ物は? 飲み水は? 寝る場所は?」
次々と言葉が続く。
「全部、自分たちで何とかするつもりか?」
ぼくは、言葉を返せない。
レオは、まっすぐぼくを見る。
「俺たちのことを信じるなら、この話に乗るべきだ」
静かな声だった。
でも、強い。
レオは続ける。
「必ず叶えたい目的があるなら、周りを利用してでも何としてもやり遂げろ」
ぼくの胸が、どくんと鳴る。
「お前には、その覚悟が足りないんじゃないのか?」
洞窟の中が、しんと静まる。
ぼくとせいかは、顔を見合わせた。
冷静そうだったレオが、こんなふうに熱く話すなんて思わなかった。
でも――。
(……その通りだ)
ぼくは、心の中でそう思った。
せいかを守るって決めた。
帰る方法を見つけるって決めた。
なのに、迷惑をかけたくないとか言って、立ち止まっていた。
それじゃ、前と同じだ。
ぼくは顔を上げる。
「レオ」
そして、大きくうなずいた。
「ありがとう!」
ドラとレオを見る。
「俺たちを、村まで案内してほしい!」
次回更新は、3月11日予定です。




