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第2話 知らない森と天使 前編

 ――暗い。


 どこまでも白くて、どこまでも遠い場所に、ぼくはふわふわ浮かんでいるみたいだった。


 体の感覚がない。


 でも、声だけが聞こえてくる。


「せ…先輩! 大変です!」


 知らない声だ。あわてたような、高い声。


「何やってるんだよ! 新人! 関係ないやつを巻き込んだじゃねーか!」


 今度は、少し低くて、怒っている声。


 え? 巻き込んだ?


 だれを?


「ど…どうしましょう?」


「どうもこうもあるか! すぐに位置の確認と、天使様に報告だ! 急げ!」


「は、はい!!」


 声が遠ざかる。


 天使様? 位置の確認?


 なにそれ。


 ぼくは、夢でも見ているのか。


 せいかは? せいかはどこだ。


 そう思った瞬間、急に体が重くなった。


 どさっ、と地面に落ちるような感覚。


 ――まぶしい。


 ぼくは、ゆっくり目を開けた。


 見えたのは、青い空じゃない。


 木、木、木。


 高い木が空をおおいかくしている。葉っぱのすきまから、細い光がこぼれている。


 ……森?


「え……」


 ぼくは体を起こした。背中に土の感触。鼻に入る、土と草のにおい。


 ここ、どこだ?


 校庭じゃない。ブランコも、校舎もない。


 あわててまわりを見わたす。


「せいか!」


 少しはなれたところに、せいかが倒れていた。


「せいか! せいか!」


 ぼくは四つんばいで近づき、肩をゆする。


「起きて! せいか!」


 せいかのまぶたが、ぴくっと動いた。


「……こう、ちゃん?」


 ほっと、胸の奥のかたまりがとけた。


「よかった……! 大丈夫?」


 せいかはゆっくり起き上がる。きょろきょろとまわりを見る。


「ここ……どこ?」


「分かんない」


 ぼくは正直に言った。


 見たことのない森だ。木は太くて、葉っぱはうっそうとしげっている。地面には見たことのない花がさいている。


 遠くで、きいたことのない鳥の声がした。


 キィィ……と、少しこわい音。


 せいかが、ぼくの服のそでをぎゅっとつかむ。


「こうちゃん……こわい」


「だ、大丈夫だよ」


 本当は、ぼくだってこわい。


 でも、言わない。


「たぶん、どこかの森だよ。きっと、出口がある」


 ぼくは立ち上がった。


「とりあえず、歩いてみよう」


 せいかはうなずく。


 ぼくたちは、手をつないで歩きだした。


 足元には、でこぼこした道。木の根っこが飛び出していて、何度もつまずきそうになる。


 上を見上げても、空はほとんど見えない。


 鳥の声。虫の羽音。葉っぱがこすれる音。


 どれも、知らない音ばかり。


「こうちゃん……ほんとに帰れる?」


 せいかの声が小さくなる。


「帰れるよ。絶対」


 そう言いながら、ぼくはさっき聞いた声を思い出していた。


 巻き込んだって、どういうことだ。


 天使様って、なんだよ。


 もしかして、ぼくたちは――


 いや、考えるな。


 とにかく、今は動くしかない。


 どれくらい歩いただろう。


 時間の感覚が分からない。


 足が重い。のどがかわく。


「……つかれた」


 せいかがつぶやく。


 ぼくも、正直へとへとだ。


 そのとき。


「あれ……?」


 木のあいだから、黒い穴みたいなものが見えた。


 近づいてみる。


 岩のかべに、ぽっかりあいた穴。


 洞窟だ。


「少し、休もう」


 ぼくは言った。


 洞窟の中は、ひんやりしている。外より暗いけれど、奥まで続いているわけじゃなさそうだ。


 入り口の近くにすわる。


 せいかも、ぺたんとすわりこんだ。


 しばらく、ふたりとも無言だった。


 急に、せいかの肩がふるえだした。


「……ごめん」


「え?」


「ごめんね、こうちゃん……」


 せいかの目から、ぽろぽろ涙がこぼれる。


「わたしが……光の中にいたから……こうちゃんを巻き込んじゃった……」


「ちがうよ!」


 ぼくはすぐに言った。


「ぼく、自分から飛びこんだんだ。せいかの手、つかんだの、ぼくだよ」


「でも……」


「気にしなくていい」


 ぼくは、せいかの頭をぽんと軽くたたいた。


「すぐに帰り道、見つかるよ。たぶん、なんとかなるよ!」


 むりやり笑ってみせる。


 せいかは、涙をぬぐいながら小さくうなずいた。


 泣きつかれたのか、せいかはそのまま横になった。


「ちょっとだけ……寝る……」


「うん。寝ていいよ」


 せいかの寝息が、だんだん静かに聞こえてくる。


 ぼくは、洞窟の入り口に立った。


 森は、さっきより暗くなっている。


 ここでじっとしているだけじゃだめだ。


 安全かどうか、たしかめないと。


 それに、出口の手がかりもさがさないと。


「よし……」


 ぼくは、小さくつぶやいた。


 せいかを残して、洞窟の外へ一歩ふみ出す。


 まずは、まわりの様子をしらべよう。


 帰る方法を見つけるために。


 ぼくは、ひとり、森の中へ歩き出した。


ぼくは、なるべく音を立てないように歩いた。


見れば見るほど見知らぬ森が広がっている。


 「ごくり」とつばを飲みこむ。


 遠くで、またあの聞きなれない鳥の声がひびいた。


 洞窟のほうをちらっと見る。せいかは、ちゃんと中で眠っているはずだ。


 ぼくがしっかりしないと。


 怖いけど、立ち止まるわけにはいかない。


 そのとき、木のあいだから、かすかに光る何かが見えた。


 白く、ふわりとゆれる光。


 さっき、ぼくたちを包んだ光と、どこか似ている。


「……もしかして」


 胸がどくん、と大きく鳴る。


 ぼくは、ゆっくりと、その光のほうへ足を進めた。

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