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第11話 教会は、敵か 中編

 秘密基地からの帰り道。


 ぼくとせいかは、いつもより少し静かに歩いていた。


 さっき聞いた話が、頭から離れない。


(教会……本当に大丈夫なのか?)


 そんなことを考えていると――


 村長の家の前に、誰かが立っているのが見えた。






「……藤さん?」


 珍しく、外で待っている。


 ぼくたちに気づくと、すぐに近づいてきた。


「ちょうどよかった」


 いつもの落ち着いた声。


 でも、少しだけ真剣な顔をしている。


「教会の人たちが、村長の家に挨拶に来ているんだよ」


「えっ……」


 ぼくとせいかは顔を見合わせた。


「こうたとせいかにも会いたいらしい。だから、村長の部屋まで行ってくれるかい?」


「……わかりました」


 ぼくはうなずいた。


 すれ違うとき。


 藤さんが、小さな声で言った。


「あの男は……嫌な感じがする」


 一瞬、空気がひやっとした。


「気をつけるんだよ」


 ぼくは、思わず背筋を伸ばした。







 村長の部屋に入ると。


「座りなさい」


 静かな声がする。


 言われた通りに座る。


 目の前には――


 一匹の猫。


 青い服。


 牧師みたいな格好をしている。


 その隣には、小さな女の子の猫。


 ドラやレオと同じくらいの年だ。


(あの子……)


 まるで人形みたいに、きれいだった。


 動かないと、本当に置き物みたいだ。


 村長が、ゆっくり口を開く。


「こちらが、私がお預かりしているこうたとせいかです」


 ぼくとせいかは、一礼した。







 すると――


「あなたたちが、噂の人間の方々ですね」


 やさしそうな声。


 でも。


 どこか、冷たい。


「今度、この村でお世話になります。ニコラスと申します」


 にこりと笑う。


「こちらは娘の、ひかりです」


 女の子が、ぺこりと頭を下げた。


 無言のまま。


 表情も、あまり変わらない。


(なんか……)


 ぞくっとした。


 ニコラスさんは、ずっと笑っている。


 でも――


 目の奥が、まったく笑っていない。


 ぼくは、なんとなく目をそらした。


 そのあと、少しだけ話をした。


 当たりさわりのないこと。


 でも、どこかずっと緊張していた。







 そして――


「では、これで失礼します」


 ニコラスさんが立ち上がる。


「教会ができるまでは、空き家に仮住まいさせていただきます」


 ひかりも、静かについていく。


 そのまま、部屋を出ていった。


 扉が閉まる。


 しばらく、誰も話さなかった。


 そして――


「……全く隙がない牧師だね」


 村長が、小さくつぶやいた。


 その声は――


 いつもより、少しだけ重かった。







 次の日。


 寺子屋に行くと――


「あ…あれ昨日の?」


せいかが指さした先に昨日の猫、ひかりがいた。


 思わず足が止まった。


 教室の真ん中に、座っている。


 その前で――


「えっとな!ここはこうやって勉強してな!」


 とらわかが、やたら一生けんめい説明していた。


(めっちゃ頑張ってる……)


 ぼくは少し引きながら、せいかと顔を見合わせる。


 昨日の話もある。


 できれば、あまり関わりたくない。


 ぼくたちは、何も言わずにいつもの場所へ向かった。


 ドラ、レオ、むねゆきたちがいる席。


 そこに座ると、少しだけ安心する。


 ……はずだった。







 ふと視線を感じる。


 顔を上げると――


 ひかりが、こっちを見ていた。


 そして、そのまま立ち上がる。


 まっすぐ、こっちに向かってくる。


 ひかりはぼくたちの前で止まると、静かに言った。


「隣に、座ってもいいですか?」


「えっ……」


 答えに困る。


 そのとき。


「それなら、我々が移動しよう」


 セバスチャンが立ち上がった。


「そうね」


 まおも、すっと席を離れる。


 あっという間に、席が空いた。


(早いって……!)


 ぼくは心の中でツッコむ。







 ひかりは、にこっと笑って座った。


 満足そうだ。


 その瞬間。


 じーっ。


 とらわかの視線。


 めちゃくちゃにらまれている。


(知らねーよ!!)


 ぼくは心の中で叫んだ。


 それからというもの――


「こうたさんは、どんな勉強が好きですか?」


「せいかさんは、料理が得意なのですよね」


 ひかりは、ずっと話しかけてくる。


 そのたびに、とらわかのにらみが強くなる。


 横を見ると――


 セバスチャンとまおは、無表情。


 なんか怖い。


(めっちゃ疲れるんだけど……)


 そんな一日だった。






 帰り道。


 ぼくとせいか、セバスチャン、まおで歩いていると――


「今日は、なんか疲れたね」


せいかの言葉に頷く一同。


「みなさん!」


 後ろから声がした。


 振り向くと、ひかりが立っている。


「あの!もしよろしければこれから、我が家に来てくださいませんか?」


「えっ!?」


 ぼくは思わず声を上げた。


「い、いや……今日は……」


 断ろうとする。


 でも――


「大丈夫です」


 にこり。


「もう、準備はしてありますので」


(なにが!?)


 気づけば。


 ぼくたちは――


 半ば強引に、ひかりの家へ向かっていた。







 ひかりの家に着いた。


「父は外出しております」


 ひかりの一言で、ぼくはほっと息をついた。


(よかった……)


 部屋に入ると、少しびっくりした。


 何もない。


 本当に、何もない。


 布団がひとつと、小さなバッグ。


 それだけ。


 あとは――


 少し汚れた、くまのぬいぐるみ。


 それが、ぽつんと置いてあった。


(……ずいぶんシンプルだな)


 ぼくは、なんとなくそのぬいぐるみを見つめた。


 ひかりは、にこっと笑う。


「今日は、とても楽しかったです」


「え?」


「寺子屋に行ったの、初めてだったので」


 少し照れたように笑う。


「実は私……友達がいたこと、ないんです」


 その言葉に、ぼくとせいかは顔を見合わせた。


 なんて返せばいいのか、わからない。







 ひかりは、少しだけ真面目な顔になる。


「皆さんは……教会に対して、良い感情をお持ちではないのですか?」


 どきっとした。


 みんなで、苦笑いする。


 うまく答えられない。


 すると、ひかりがゆっくり話し始めた。


「教会は、とても素敵な団体です」


 まっすぐな目。


「信者でなくても、すべての猫の幸せを常に考えています」


 少し力をこめて言う。


「教会ができたら、ぜひ遊びに来てください。そして……父の話を聞いてほしいです。そうしたらみなさんの考えもきっと変わりますよ!」


 その声は、本気だった。


 







「……では」


 セバスチャンが口を開く。


「教会は、従わない猫を弾圧しているという噂があるが?」


 空気が変わる。


 ひかりは、少しだけ考えてから答えた。


「一部の方が、そういうことをおっしゃるだけです」


 はっきりした声。


「そんなことは、ありえません」


 その瞬間。


「――もし!」


 セバスチャンが、声を荒げた。


「教会に弾圧された猫たちを見つけても、あなたは同じことが言えるのか!?」


 びくっと、ぼくは体を震わせた。







 そのとき――


 パシンッ!


 乾いた音が響いた。


 まおが、セバスチャンの頬を叩いた。


「……冷静になりなさい」


 声は静かだけど、手は震えていた。


 セバスチャンは、はっとした顔になる。


「……すまなかった」


 ゆっくり頭を下げる。


「仮定の話だ……俺は、何を熱くなっているんだろうな」


 ひかりに向かって謝った。


 ひかりは、ただ呆然と立っていた。


 誰も、何も言えない。


 重たい空気のまま――


 その日は、そのまま解散になった。


 





まだ空がうす暗い早朝。


 ぼくはいつものように、村の道を走っていた。


 ザッ、ザッ、ザッ――


 リズムよく足音がひびく。


(今日も走るぞ……)


 そう思いながら、曲がり角を曲がると――


「あれ?」


 そこに、セバスチャンが立っていた。


 木にもたれて、腕を組んでいる。


「おはよう」


 ぼくが声をかけると、セバスチャンは軽くうなずいた。


「おはよう。毎日ちゃんと鍛錬してえらいな」


「えへへ……」


 ちょっと照れる。







 セバスチャンは、少し真面目な顔になる。


「少し、話がある」


「うん?」


「……昨日は、すまなかった」


 頭を下げた。


 びっくりするぼく。


「教会に怪しまれると、離れている仲間も危険になる」


 静かな声。


「それなのに、うかつだった……まおさまにも、大目玉を食らった」


 少しだけ、苦笑いする。


 ぼくは、ゆっくり首を振った。


「仲間のことを考えたら、我慢できなかったんでしょ?」


 セバスチャンが、少し驚いた顔をする。


「誰も責めないと思うよ」


 そう言うと、セバスチャンはふっと目を細めた。


「……優しいな、お前は」







 そして、少しだけ間をおいて。


「実はな」


 静かに続ける。


「まお様とこの村を出ていくことにした」


「……そっか」


 ぼくは、すぐにうなずいた。


 不思議と、驚きはなかった。


「昨日の一件で、目立ちすぎた」


「目をつけられる前に、姿を消すべきだと判断した」


 その言葉を聞いて。


(そりゃそうだよな……)


 胸が少しだけ、ぎゅっとなる。


 一緒にいたい。


 もっと話したい。


 でも――


 それが危険になるなら、止められない。


 ぼくは、何も言えなかった。







 そのとき。


「……ん?」


 セバスチャンが、遠くを指さした。


「あれ、教会の娘じゃないか?」


「え?」


 ぼくは目をこらす。


 そこにいたのは――


 ひかりだった。


 でも。


 ひとりじゃない。


 見たことのない、柄の悪そうな猫が三匹。


 囲むようにして歩いている。


(こんな時間に……?)


 なんか、おかしい。


 ぼくがそう思った瞬間。


 ひかりと、目が合った。


 一瞬の沈黙。


 そして――


「助けてください!!」


 ひかりが、大きな声で叫んだ。


 その声が、朝の静かな村に響きわたった。



最後まで読んでいただいてありがとうございます!


次回更新は、4月14日予定です。ブックマーク登録よろしくお願いします!


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♯41はまおです。説明欄でどこから来たかネタバレあります。ぜひ、遊びに来てください!

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