第8話 新しい居場所と現実 後編
ぼくが地面を見つめて立ち尽くしていると――
「こうた! せいか! こっちだ!」
突然、どこからか声が聞こえた。
振り返ると、少し離れた場所でドラとレオが手招きしている。
「ちょっと俺たちについて来いよ」
ドラが小声で言う。
ぼくとせいかは顔を見合わせたけれど、今は他に頼れる相手もいない。
「……うん」
ぼくたちは二匹のあとを追った。
村の道を外れ、どんどん森の方へ進んでいく。
木が増えて、地面はやわらかい落ち葉だらけになる。
「どこ行くんだ?」
ぼくが聞くと、ドラはにやっと笑った。
「着いてからのお楽しみだ!」
相変わらず教えてくれない。
少し歩いたところで、レオがぽつりと言った。
「本当はもっと早く声をかけたかったんだ」
「でも藤さんが近くにいたからな」
ぼくは首をかしげる。
「なんで?」
レオは少し困った顔をして、ドラを見る。
ドラがぼそっと言った。
「……俺たち、昔さ」
「よく村長の家にいたずらしに行ってたんだよ」
ぼくとせいかは思わず顔を見合わせた。
「村長は“子どものやることだから”って許してくれるんだけどさ……」
レオが続ける。
「代わりに藤さんにめちゃくちゃ怒られるんだ」
「それ以来、どうしても藤さんが苦手で……」
ドラが小さくつぶやく。
「……あの人、村長のこと好きすぎるんだよ」
その言い方がちょっと面白くて、ぼくは少しだけ笑ってしまった。
しばらく歩くと、森が急に開けた。
ぽっかり空が見える広い場所だ。
真ん中には、ものすごく大きな木が立っている。
その根元に――
ぽっかり穴が開いていた。
ドラが得意そうに振り向く。
「ようこそ!」
にかっと笑った。
「俺たちの秘密基地へ!」
「……秘密基地?」
ぼくとせいかは同時に言った。
どうしてここに連れてこられたのか、まだよく分からない。
そのときレオが腕を組んだ。
「お前ら、村で食べ物を分けてもらえなくて困ってただろ?」
ぼくはうなずく。
「ここの森はな、自然がめちゃくちゃ豊かなんだ」
レオはにやっと笑った。
「分けてもらえないなら――」
「自分たちで確保すればいいだろ?」
ぼくはその言葉を聞いた瞬間、胸が熱くなった。
目の奥がじんとする。
「……ありがとう」
気づいたら、涙がぽろっと落ちていた。
ドラがびっくりする。
「お、おい!? なんで泣くんだよ!」
ぼくは笑いながら涙をぬぐった。
「だって……嬉しくて」
横を見ると、せいかまで目をうるうるさせている。
「こうちゃん……」
完全にもらい泣きだ。
ドラは頭をかきながら言った。
「と、とりあえず中入ろうぜ」
「詳しい話は中で!」
ぼくたちは木の根の穴から中へ入った。
思ったより広い。
中は木の空洞みたいになっていて、小さな机や木箱が並んでいる。
そして――
そこには三匹の猫がいた。
一匹は、鎧を着ている猫。
一匹は、黒い毛で執事みたいな服を着た猫。
そしてもう一匹は、杖を持った灰色の女の子猫。
杖を持っていて、ちょっと自信なさそうに立っている。
「お? 来たか?」
黒猫が言った。
ドラが肩をすくめる。
「藤さんがなかなか離れなくて、時間かかっちまった」
そのとき、灰色の子猫がオドオドしながら聞いた。
「そ、その方々が……人間さんですか?」
レオがうなずく。
「うん。話してたこうたとせいかだ」
「よろしくな」
ぼくとせいかは慌てて頭を下げた。
「よろしくお願いします!」
黒猫が胸を張る。
「セバスチャンだ。よろしくな」
そして横の灰色猫を指す。
「こっちはまおさん」
灰色猫――まおさんは、ぺこっと頭を下げた。
そのとき。
鎧の猫が前に出た。
「そ……それがしは……むねむね……むね……」
言葉が詰まる。
顔が真っ赤だ。
見かねたドラが言った。
「むねゆきだ」
「おい!」
鎧猫が叫ぶ。
「せっかくかっこいい自己紹介を考えてたのに!」
レオが呆れた顔をする。
「いや、あそこまで噛んでたら仕方ないだろ」
その一言で――
みんな大笑いした。
ぼくも、せいかも、つられて笑ってしまう。
さっきまでの重たい気持ちが、少し軽くなった。
(ああ……)
ぼくは思った。
この猫たちは――
きっと悪いやつじゃない
秘密基地の中で、ぼくはみんなに今の状況を説明した。
「村にいられるためには、保存食を作らないといけないんだ」
みんな真剣に聞いてくれている。
「でも、その材料を集めようとしても、村の人たちは協力してくれなくて……」
ぼくは少しうつむいた。
「だから、このままだと何も作れないんだ」
すると、それぞれが思い思いに言い始めた。
「村の連中、ケチだな!」とドラ。
「まあ、人間を信用してないから仕方ないかも」とまおさん。
「ならば我が剣で……!」とむねゆき。
「それは絶対違う」とセバスチャンが冷静にツッコむ。
そのとき、レオが腕を組んだ。
「つまり、今必要なのは――」
みんなを見る。
「保存食に使えそうな食材を探すことだな」
全員がうなずいた。
するとセバスチャンが、すっと手を挙げた。
「それなら作戦がある」
まるで本物の執事みたいな落ち着いた声だ。
「川に行く部隊と、山に入る部隊」
「二つに分かれて探すのはどうだ?」
ぼくは思わず言った。
「それだ!」
みんなで作戦を実行することになった。
川チームは――
ぼく、ドラ、レオ、むねゆき。
山チームは――
セバスチャン、まお、せいか。
ぼくたちはさっそく川へ向かった。
歩きながら、ドラが言った。
「そういえば言ってなかったな」
「セバスチャンとまお、あとむねゆきは、他の村から来た猫なんだ」
「え?」
ぼくは驚いた。
レオがうなずく。
「いろいろ事情があってな」
「今はこの秘密基地の仲間なんだ」
むねゆきは胸を張った。
「おれは、修行の旅の途中だ!」
なんだかよく分からないけど、かっこよさそうだ。
やがて川に着いた。
水は透き通っていて、小魚がたくさん泳いでいる。
「よし、作戦開始!」
ドラが叫ぶ。
ぼくたちは、それぞれ工夫して魚を捕り始めた。
ドラは石を投げて魚を追い込み、手でぱっと捕まえる。
レオは静かに川を観察して、動きを読んでからすばやく捕る。
むねゆきは――
「はああああっ!」
なぜか気合いとともに水に飛び込み、魚をつかんでいた。
ぼくも負けていられない。
石で小さな囲いを作って、魚を追い込む。
「やった!」
一匹捕れた。
それから夢中で魚を捕り続けた。
気づけば――
魚は二十匹くらいになっていた。
空を見ると、もう夕方だ。
「おお……」
ぼくは思わずつぶやく。
「大漁だな!」
ドラが笑った。
ぼくたちは魚を抱えて秘密基地に戻る。
すると、山チームも帰ってきていた。
地面には山菜やキノコが山のように並んでいる。
「そっちもすごいじゃん!」
ぼくが言うと、せいかが嬉しそうに笑った。
「いっぱい見つかったよ!」
みんなで顔を見合わせる。
そして同時に笑った。
「大成功だ!」
ぼくたちは満足そうにうなずいた。
全員で色々な話をしながら村の入り口まで帰ってきた。
そして、みんなに頭を下げる。
「ありがとう!」
「本当に助かった!」
ドラたちは照れくさそうに笑った。
ぼくとせいかは、魚と山の恵みを抱えて家へ向かう。
村長の家だ。
村長の家の前まで来ると、玄関の外で村長と藤さんが心配そうに立っていた。
ぼくとせいかは顔を見合わせて笑う。
「ただいまー!」
ぼくたちは、捕れた食べ物を抱えながら大きな声で叫んだ。
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