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第7話 責任と優しさ 前編

「今日はご苦労さんだったね。また後で話をしよう」


 村長猫はそう言って、老人猫たちを見送った。


「これからどうなるかのう……」

「ふむ……人間だからな……油断はできん」


 老人猫たちはそんなことを言いながら、ゆっくり家を出ていく。


 ぼくはその背中を、ただ見送ることしかできなかった。






 少しして、村長がくるりとこちらを振り向いた。


「……ついておいで」


 さっきまでより少しだけやわらかい声だったけれど、その目は鋭いままだ。


 ぼくとせいかは顔を見合わせ、小さくうなずく。


 村長の後ろについて廊下を歩く。

 床板が、みし……みし……と静かに鳴った。


 そして――


 玄関の前まで戻ってきた。







 村長が、がらっと扉を開ける。


 その瞬間、ぼくは思わず息をのんだ。


 外には――


 たくさんの猫が集まっていた。


 本当に、たくさんだ。


 家の前の広場いっぱいに、村の猫たちが立っている。


 みんな、じっとこちらを見ている。


 その中に、見覚えのある顔があった。


 ドラだ。


 その隣にはレオもいる。


 二匹はぼくたちを見つけると、ぱっと顔を明るくした。


 ぼくの胸が少しだけ軽くなる。







 村長が一歩前に出た。


「みんな、聞いておくれ」


 その声は大きくて、よく通った。


 ざわざわしていた広場が、少し静かになる。


「突然の人間の来訪で、みんなには心配をかけてしまったね。まずはお詫びを言わせてほしい」


 村長はそう言って、ゆっくり頭を下げた。


 村長が頭を下げると、猫たちのざわめきが少し弱まった。






 村長は顔を上げ、やさしい目で村のみんなを見渡す。


「話し合いの末、この人間たちを、しばらく村で面倒を見ることに決めた」


 その言葉を聞いた瞬間――


 ドラとレオの顔がぱっと明るくなった。


 ドラなんて、ぴょんとその場で跳ねている。


 でも、その次の瞬間。


「ふざけんな!」


 誰かが叫んだ。


「人間なんてこの村に入れるな!」


「また同じことが起こるぞ!」


「子どもを外で遊ばせられなくなる!」


 あっという間に、あちこちから声が上がる。


 怒鳴り声。

 不安そうな声。


 広場は一気に騒がしくなった。







 ぼくとせいかは思わず顔を見合わせた。


 せいかの顔が、少し青くなっている。


 ぼくの胸も、ぎゅっと苦しくなる。


(やっぱり……)







 そう思ったとき。


「静まれ!」


 村長の大声が響いた。


 空気がびりっと震える。


 さっきまで騒いでいた猫たちが、一瞬で黙った。


 ぼくとせいかも、思わずびくっとする。


 村長はゆっくり周りを見渡した。







「みんなが心配するのも無理はない」


 落ち着いた声だった。


「私たちは一度、人間に裏切られている」


 猫たちが静かにうなずく。


「みんなの不満も、もっともな話だよ」







 村長は続けた。


「だがね、この子たちは、自分たちしか分からない技術があると言った」


 村長が、ぼくとせいかを手で示す。


 その目は、さっきよりも少しやさしく見えた。


「それを使って、おいしい保存食を作れるそうだ」


 ざわ……と広場が揺れる。


「その技術を教える代わりに、村に置いてほしいらしい」






 すると、また声が上がった。


「そんなの嘘に決まってる!」


 誰かの一言だった。


 その声に、周りの猫たちが次々と同調する。


「そうだ!」

「人間の言うことなんて信用できるか!」

「まただまされるぞ!」


 広場の空気が重くなる。


 ぼくはぎゅっと手を握った。


 そのとき。


 村長が、もう一度声を上げた。







「この子たちは、しばらく私が預かる」


 広場が一瞬しんとした。


「変な動きをしないように、もちろん監視付きだ」


「そんな……!」


 女性の猫たちが悲鳴みたいな声を上げる。


「危険です!」


 でも、村長は静かに首を振った。


「私は長く生きてきた」


 ゆっくりと言う。







「この人間たちは、まだ子どもだ」


 村長は続ける。


「いつだって、例え別の世界だって、子どもの言うことは耳を傾けてあげるのが大人の役目だろう」


 広場が静まり返る。


「そこに、猫も人間も関係ないよ」


 村長は静かに言った。


「みんな、この子たちにチャンスを与えてはくれないかい?」







 誰も何も言わない。


 静かな時間が流れる。


 ぼくは、胸の前で手をぎゅっと握っていた。


 すると――


「みんな、思うところはいろいろあると思うが」


 ドラの母さんが前に出た。


「今日のところは、お開きにしないかい?」


 やさしい声だった。


 その一言で、空気が少しゆるむ。


 猫たちは顔を見合わせる。







「……まあ、今日は帰るか」

「様子を見るしかないな」


 ぽつりぽつりと声が上がる。


 やがて、猫たちは少しずつ帰り始めた。


 広場が、だんだん静かになっていく。


 ぼくは、ほっと息をついた。


 そのとき。


 ドラが、こっそり前足を立てて見せた。


 レオも小さくうなずいている。


 ぼくは思わず笑ってしまった。







 ふと視線を感じて、村長を見る。


 村長は、ぼくたちにだけ聞こえるくらいの声で言った。


「安心しなさい」


 やさしい声だった。


「ここにいる間は、私が責任を持つ」


 ぼくの胸が、じんわり温かくなる。


 まだ不安はある。


 でも――


 この村長なら、きっと大丈夫だ。


 そう思えた。


 ぼくは夜空を見上げた。


 村の上には、たくさんの星が光っていた。

次回更新は、3月21日午前中の予定です。ブックマーク登録よろしくお願いいたします!

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