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第5話 仲間と差別 後編

 坂を下り、ぼくたちはドラの村へ入った。


 さっき遠くから見たときもすごいと思ったけど、近くに来るともっと驚いた。


 本当に、猫だらけだった。


 家の陰、畑の端、井戸の近く――いろんなところから猫たちがこちらを見ている。


 黒い猫、白い猫、三毛猫、ふさふさの長い毛の猫までいる。


(ほんとに猫の村なんだ……)


 ぼくは思わず感心した。






 そのとき、小さな子猫が家の影から顔を出した。


 ぼくと目が合う。


 まん丸の目でこちらを見ている。


 ぼくは、なんとなく手を振ってみた。


「やあ」


 するとその瞬間――


「ニャッ!」


 子猫の後ろから親猫が飛び出してきて、子猫を抱えるようにして奥へ連れていってしまった。


 ばたばたと、どこかへ消えてしまう。






「え……」


 ぼくは手を振ったまま固まった。


 まるで逃げられたみたいだった。


 周りの猫たちも、ひそひそとこちらを見ている。


 遠くから警戒している感じだ。






(あれ?)


 ぼくは少し不安になった。


 ドラとレオの様子から、もう少し歓迎されると思っていたのに。


 なんだか――


 嫌な予感がする。






「なんか私たち、警戒されてない?」


 せいかが小さな声で言った。


 ドラとレオも周りを見回す。


「……いつもはこんなんじゃないんだけどな?」


 ドラが首をかしげる。


 レオも困った顔をしていた。


「人間だからだろうな」


 ぼくたちは少し気まずい空気のまま、村の道を進んだ。






 そしてやがて、一軒の家の前でドラが止まる。


「ここが俺の家だ」


 茅葺屋根の家だった。


 レオが言う。


「俺は先に自分の親に事情を話してくる」


「あとでまた来る」


「ありがとう、レオ」


 ぼくが言うと、レオは軽く手を振って去っていった。







 ドラは玄関の前で大きな声を出した。


「母ちゃんただいまー!」


「ちょっと見てくれよ!」


 奥から声がする。


「なんだい? また動物でも拾ってきたんじゃないだろうね」






 そう言いながら出てきたドラの母親は――


 ぼくとせいかを見た瞬間。


「に……に……」


 顔が止まった。


「に……人間!!??」


 目を丸くして叫んだ。


 しかも、その顔は――


 道中でドラとレオがやっていた変顔とまったく同じだった。


(ほんとにあの顔になるんだ……)


 ぼくは思わずびっくりした。


 ドラも困惑している。







「え、母ちゃん?」


 そして少し慌てながら言った。


「ど……洞窟で拾った……」


 その言葉を聞いた瞬間。


 ぼくとせいかは固まった。


(拾ったって言った!!)


 さっき「任せとけ」って言ってたのに!







 ドラの母親は深いため息をついた。


「……とりあえず上がりなさい」


 そう言って、ぼくたちを家の中へ案内した。


 家の中は、もっとすごかった。


 真ん中に囲炉裏があって、上には鍋が吊るされている。


 木の柱、土の床、やわらかい火の光。


 まるで昔話の世界に入りこんだみたいだった。






(すごい……)


 ぼくは思わず見回してしまう。


 ドラの母親が囲炉裏の向こうに座る。


 ぼくたちはその前に正座した。


 ドラが話しはじめる。


 洞窟で出会ったこと。


 ぼくたちが帰る場所がなくて困っていること。


 全部、ちゃんと説明してくれた。







 そして最後に言った。


「困っているこいつらを放っておけない」


「しばらく置いてもらえないか?」


 ぼくとせいかも、頭を下げた。


「お願いします」


 静かな時間が流れた。






 ドラの母親は腕を組んで、しばらく考えこんでいた。


 そして――


 深いため息をついた。


「……この村に人間は置いておけないんだ」


 ぼくたちは固まった。


 頭が真っ白になる。






(え……?)


 また、あの森に戻るのか?


 食べ物は?


 寝る場所は?


 せいかを守りながらどうすればいい?


 不安が一気に押し寄せる。







 ドラが立ち上がった。


「なんでだよ!」


 怒った声だった。


 母親は困った顔をした。


「昔はね、この村でも人間を助けていたんだよ」


「でも――」


 少し悲しそうな顔になる。







「ドラたちが小さいころ、保護した人間がいた」


「その人間が、子どもを誘拐して逃げようとしたことがあったんだ」


 ぼくたちは言葉を失った。


「それ以来、この村では人間を保護するのは禁止になった」


 本当に申し訳なさそうに、ドラの母親は言った。


 ぼくたちは何も言えない。


 それは、どうしようもない理由だった。







 でも――


(それでも)


 ぼくは考える。


 せいかを守るためには。


 ここにいさせてもらうしかない。


(考えろ)


(考えろ、こうた)


 必死に頭を回す。







 そのとき――


 さっきの子猫の顔が浮かんだ。


 家の陰から見ていた、小さな猫。


 そして親猫が慌てて連れていった姿。


(子ども……)


 ぼくの中で、一つの考えがまとまった。


 これにかけるしかない。







 ぼくは顔を上げた。


「僕たちが暮らしていた別世界の知識で」


 ドラの母親を見る。


「皆さんの役に立てると証明できれば、考え直してくれませんか?」


 その場にいた全員が驚いた。






「こうちゃん……?」


 せいかが小さくつぶやく。


 ドラの母親が聞く。


「それは、どんな知識だい?」


 ぼくは不安を顔に出さないように、まっすぐ言った。







「子どもたちの健康を守る知識です」


 ドラの母親は、じっとぼくを見つめた。


 ぼくも目をそらさない。


(ここで目をそらしたら終わりだ)


 必死に見返す。


 しばらく沈黙が続いた。


 そしてドラの母親が、ふっと表情をゆるめた。






「……村長のかか様のところに行くから」


「ついて来てくれるかい?」


 その言葉を聞いた瞬間。


 ぼくは体の力が抜けた。


(よし……!)


 小さくつぶやく。


「なんとか……第一段階クリアだな」

次回更新は3月15日12時頃を予定しています。ブックマーク登録、よろしくお願いします!

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