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この味に膝を着く

作者: 秋暁秋季

注意事項1

起承転結はありません。

短編詐欺に思われたら申し訳御座いません。


注意事項2

生きてて良かった。

そう思える事があればある程良い。

そう思ってますよ。


この場所があって良かった。本当にそう思います。

元よりお酒は苦手である。朝飲んだ時の『お前は毒を煽ったのだ』と脳裏に響く感触も、喉を焼き払う熱も、苦手である。だから私が純喫茶を好むのも、ある意味必然なのだと思う。

それでも、此処の魅力が分からずに死ぬのを考えただけで、悪寒が走る。


「付き合って一年目だけど、何処でお祝いしたい?」

非常にマメな彼からの問い掛けに、私は迷わずに一つの店名を上げた。彼は黙って微笑んで、私の手を握ってその場へ導いてくれた。

茹だるような熱気から庇う様に、人の喧騒から遠ざける様に地下へと潜ると、ほんのり煙草の匂いが漂う純喫茶がある。今は稼ぎ時より少し前だから、物静かな側面を顕著だった。

私達はテーブル席に腰掛けて、メニューを開く。頼むものは決まっていた。

「今日は少し贅沢をしたんだ」

彼は少し揶揄う様に笑った。何時も頼むのは『ブレンド珈琲』。初心者にも親しみ安い柔らかい苦味が特徴の珈琲。けれども今日は店名を冠した珈琲にした。

久方振りに飲みたくなったのだ。あの飲む物が謙る珈琲を。平伏したくなる珈琲を。

暫くして、物静かなマスターの低い声が辺りに聞こえた。手に乗せられているのは、鮮やかな花の紋が特徴の食器セットだった。

ブレンドではなく、店名を冠した珈琲を頼むと、これで来る。他と同一ではないと、そう出された物からも分かる通りの食う気が胸を刺激した。

珈琲というのは淹れたその時から劣化が始まる。参加が進んで苦味が失せる。そうして段々と壊れていく。だから真っ先にカップに口を付ける。

ブレンドも美味しい。寧ろ先に惚れ込んだのはブレンドからだった。けれどもやはり店名を冠するだけの味がそこには存在する。

苦味が強い。でも決して不快に思えるような触り方ではない。口腔を押し広げると、その芳醇な豆の香りが一杯に広がって、鼻を抜けていく。脳みそが麻痺する。思考さえも奪う様な味。

一瞬、目から涙が零れるかと思った。様々な場所を巡った。沢山の珈琲を飲んだ。けれどもやはり膝を着くのは此処しかないのである。

「本当に好きだね。此処の」

「生きてて良かったと思える程、私は此処のが好きだよ。生涯に渡って膝を着いて、頭を垂れて続けたい。他が要らないとは思えないけど、此処が無くなったら私は何処へ行けば良いんだろう」

周りのお客が煙草に火を付ける。香の様に辺りを包んで、私を魅了する。

とある有名なバーの漫画があるんですけど、訪れる度にそれに出てくる名言を思い出します。

生涯を掛けて、平伏す味です。


飲んでる時、それ以外の事が頭に浮かばないんですよ。

脳みそ焼ける。なんて言いますがその通り。何も考えられない。泣くかと思いました。

『色々しんどいけど、この為に生きよう。生きてて良かった。死にたくなったら此処で延命しよう』

『脳みそ焼けちゃう。でも焼けても良い』

『あれは一種の麻薬。一度飲むと絶対にまた飲みたくなる。その事しか考えられない』

『私と同じの頼むの? センス良いねぇ!!!!! 店名が目に入った途端、吸い寄せられて、飲まずには居られなくなるよ!!!!!! そこだけが難点かな』

『お兄さん/お姉さん、煙草吸うの!! 出来ればこっちまで匂い届いて欲しい。あ、やばい噎せそう。体が受け入れねぇ』


雰囲気的に全然全然合わなくて申し訳無いのですが、脳内がギャグ漫画ばりに思考が落ちるんですよ。

誰かに恋して頭馬鹿になるのと一緒です。


何時にも増して口が悪い……。何この狂人……。


でもそれぐらいのものと出会えた事にやっぱり感謝しないといけないと思います。

出会えないと思うと悪寒が走ります。

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