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50年目の再会

作者: 白鷺雪華

ここは日本のとある美術館。


一人の男が美術館を見つめていた。

老人といってもいい年齢だが杖をついておらず、背中も丸まっていない。


「あの日から50年か……」

男は感慨深げに呟くと美術館に向けて歩き出した。


入館料を払い、男は迷いもなくある場所に向かっている。

目的の場所に向かいながらあの日の出来事を思い返していた。


男には友人がいた。

友人は芸術家であるが人と同じことを良しとしない性格であった。


ある日、芸術家は男に言った。

「俺は俺が死んでからも俺がこの世界にいたと証明したい」

「だから俺は俺自身の彫刻を作る」

男はそれを聞いて言葉を返した。

「自画像じゃ駄目なのか?」

芸術家は首を横に振った。

「駄目だ。多くの芸術家が自画像を残しているが、俺はその真似はしない」

「ミロのヴィーナスやダビデ像のような等身大の自分を残したい」

そう言って芸術家は自分自身の彫刻作りに没頭した。

自分が椅子に座っている写真を撮ったり、男を椅子に座らせて構図を確認したりなど残りの人生の全てを費やしていた。


そして男と芸術家は一つの約束を交わした……


そして時は戻り現在……

男は一つの作品の前で足を止めた。

「久しぶりだな……50年ぶりだ」

男の前にはあの日作成された芸術家の彫刻があの日と変わらない姿で鎮座していた。


男はこの美術館に来るのはこれがはじめてだった。

なのに迷いもなく目的の場所に来れたのは美術館のどこになにが展示してあるのか事前に調査していたのだ。


これが友人との約束だった。


____俺が死んだ後もこの世に俺が生きていたと証明してほしい____


男は友人との約束を守り、友人が生きている間は彫刻のある都道府県には足を踏み入れなかった。


男は彫刻との再会を果たすと背中を向けて立ち去ろうとした。

そのとき男だけに聞こえるかすかな声が聞こえた……


____またな_____


男は振り向かなかった。

ただ、口元だけ綻ばせて「………あぁ」と一言呟いた……


男と芸術家、ここではないどこかで二人が再会する日もそう遠くはない……

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