第3話 卒業式
3月8日 中学校の卒業式
「羽島 優太」
「はい」
僕の名前が呼ばれ、体育館のステージ上にいる校長から卒業証書を受け取るために階段を登る。
そしてステージ上にある檀上越しに校長先生から卒業証書を授与される。
「母さんにも見せたかったな」
卒業証書を右手に持ちながらステージから階段を降りる。
その時、視線を感じる
視線を感じた体育館の出入口を見る
えっ?
母の後ろ姿が目に入った。
僕は無意識に体育館の出入口に向かって走りだす
「母さん!」
体育館を出ると母の姿が無い
その時である。
一瞬だけ母の匂いを感じ取る
瞬時に母の匂いがする方に走り出す。
何で匂いが分かったのか考える事も疑う事も無く走り出す。
体育館の横の倉庫から匂いがする。
倉庫のドアを開けようとしても鍵が掛かっていてドアが開かない。
「母さんが行っちゃう」
体育倉庫の中に母さんがいるなんて非現実的な事なのに、まるでおかしいとさえ思わない。
母さんは倉庫の中に居る
僕は思いっ切りドアノブを引っ張るとドアごと取れてしまった
倉庫を見ると不思議な光景が目に入る
倉庫の中は光り輝いていて、眩しさのあまり眼を開けていられない。
「母さん!」
手で光を遮りながら前に進む
そんなに奥行きがある倉庫では無い筈なのだが、10歩程歩いても壁にぶつからない
そして11歩目
固かった床が土に変る
それと同時に泥臭かった倉庫の匂いは消えて、草木等の植物の匂いを感じる。
眩しい光は無くなり、光を遮る為に出していた手を降ろして、辺り一面を見廻す。
僕の目に写ったのは倉庫の中では無く、大きな木が四方八方に広がっている。まるでジャングルの中にいるような風景である。
後ろにあるはずの倉庫は無くなり、光も無くなっている。
「えっ?」
そんなありえない状況でも、僕は必死に母を呼んでいた
「母さん、母さん」
もう母さんの匂いは感じられない
「母さん・・・・」
学生服姿の僕は、卒業証書を握ったまま腰を落とした。