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第3話 幕間 -01- ※第3者視点

 この龍神教の総本山【龍神殿】を根本から支えているのは魔術の力である。


 龍神教の歴史とは、そのまま魔術研鑽の歴史と言っても過言ではない。

 龍脈から湧き出る豊富な魔力(マナ)を利用して編み出されてきた多種多様な魔術は先人達の試行錯誤の証であり、正に人間の叡知の結晶と呼ぶべきもの。


 そんな龍神教にとって重要な魔術であるのだが、いくら龍脈の上に居るからといって万人が自由に扱えるような、そんなお手軽な代物ではない。


 魔術を行使出来るのは選ばれし者──幼き頃に才を見出(みいだ)され、成人までの日々を怠らずに過ごし、教団から一人前と認められた者──教団魔術士だけなのだ。


 そんな一部の者だけに与えられた超常の力を「万人が普遍的に扱えるように出来ないか」との試みから生み出されたのが、特定の魔術を再現する魔道具である。

 この魔道具もまた多種多様。

 灯り、水、火など人間が日常生活に必要なものは当然に、儀式用の専門品、更には騎士と魔術士の武器や防具まで。

 今や至るところに様々な魔道具が用いられている。


 それらの開発や製造は魔道具造りに特化した教団魔術士達の仕事である。

 そしてまた、それらの修理や点検も同じ部署の魔術士達の日常業務となっていた。



「──アイリス~!

 早朝番で(ダル)いのは分かるけどさぁ、さっさと仕事終わらせちゃおうよ」


「……うぅ~、ごめんって。

 昨日あんまり寝てないんだ~……」



 龍神様が転生して翌朝。

 すでに爽やかな朝日が地表を照らし始める時間帯なのだが、此処は陽の光など届かない龍神殿の片隅。


 二人の若い女魔術士が早朝から日常業務を行っていた。


 それは部署でも下っ端に任せられるような簡単で単調なお仕事。

 広大な龍神殿の通路に設置された無数の灯りの点検作業である。



「アレでしょ?

 お兄さんに会えないからって探し回ってたんでしょ?」


「……うん。結局、探しても昨日は見つからなかったんだけどね」



 特定の通路を日別に区割りしてローテーションしながらとはいえ、点検作業をする灯りの数は尋常ではない。

 そのために練り歩く距離もまた果てしない。


 正に下っ端に割り当てられる肉体労働。



「おかげで……──はぁふぅ。

 ……(ちょ)~ねぇむぅ~いぃ……」


「もぅ、しっかりしてよアイリス~。

 私、午後からお祭り行く予定なんだからさ~」



 昨日の昼頃、教団から龍神様の転生、そしてそのお目覚めが正式に発表された。


 明けて今日。

 龍神殿の中も外も当然に皆が皆、一様に歓喜と敬意に満ち溢れている。


 空を突く独立峰【龍神殿】を中心に、裾野にぐるっと輪を描くように点在する教徒街では、転生を祝うお祭りが各所で開催されるらしい。



「私もユーゴ(にぃ)と一緒にお祭り行こうって思ったんだけどなぁ……」



 アイリスはユーゴと同郷の村出身の教団魔術士。今年で18歳になる。

 4つ上のユーゴとは幼なじみであるが、本当の兄のように慕って生きてきた。

 それと言うのも、もはや二人きり、そういう境遇だったからだ。


 生まれ育った村はすでに無い。

 魔物の襲撃で壊滅した。


 教団騎士が救援に来た頃には、すでに時遅し。

 村で生き残りは二人きり、そのまま保護され、孤児として龍神殿へやってきた。


 そういう境遇だった。



「お仕事なんじゃないの?

 あのご令嬢巫女サンローズ様の護衛騎士なんでしょう?」



 自分と同じ下っ端の同僚が、思い出したくもない人物の名を話の端に上げたことでアイリスは少し鬱になる。


(ユーゴ兄が専属で護衛しているサンローズ=ギドラ様、か)


 同い歳で背も変わらないのに、()()な自分との明確な差を思い出し惨めになる。


(私にだって言い寄ってくる男の一人や二人はいるけれど……)


 長く伸ばすと癖っ毛が跳ねるからショートな自分とは違ってサラサラ真っ直ぐロングな髪を思い出し、心酔するかのように恋い慕う男共の姿を思い出し、任務の度に鼻の下を伸ばしデレデレだらしない兄の姿を思い出し──。



(──……ムカムカする!)



 アイリスはサンローズに触れないように会話を返した。



「う~ん。

 今は龍神殿に帰って来てるはずだから護衛の仕事はないはずなんだけどなぁ……」



 そこでアイリスはローブのポケットから【(つが)い石】を取り出し、その色を確認する。


 これは共鳴する二つの石が距離に応じて色を変える魔道具。

 ある程度近くに共鳴する(つが)い石があれば青に、離れていれば黒になる。


 ユーゴの石と共鳴しているはずの(つが)い石は青く染まっていた。



「遠出するなら石を持っていくはずだから、やっぱり龍神殿の中に居るっぽい……」


「持っていくの忘れたんじゃない?

 ──あ! もしかしたらアレかも!」


「……ん? なんか知ってんの?」


「さっきご令嬢巫女様の話したから思い出したんだけど、なんでもその巫女様が行方不明らしいよ?」


「──え? 行方不明、ってソレ本当?」


「ホント、ホント!

 昨日、部長のとこに人探しの魔道具はないかって押し掛けてきた騎士がいたから、多分間違いない!」



(サンローズ様が行方不明……。

 ユーゴ(にぃ)なら慌てて探しに行く……かな)



 サンローズ行方不明の報せを聞いて、堪らず飛び出していく兄の姿は容易に想像が出来た。

 ならば今もその辺をうろうろと探し回っているのだろうか。



「もしかしたら何かの事件に巻き込まれて、護衛してたお兄さんも一緒に行方不明だったり?」


「──ああ、ない、ない。

 それはないから安心してる」


「なんでよ?」


「一昨日の昼に会ったし。

 しばらく遠出は無いって言ってたし」


「急に予定が変わったかも知れないじゃない。

 それで慌てて(つが)い石を持ち忘れたのかも……」


「あれはユーゴ(にぃ)の大事な物だから、そうそう忘れないと思うのよねぇ」


「じゃあ、近場で護衛してて巻き込まれたとかは?」


「それもないかな。

 ユーゴ(にぃ)は基本的に遠出の時しか巫女様の護衛なんてしないから。

 だいたい龍神殿の中に居るのに一体何から護衛するっていうのよ?」


「……たしかに」




 それは誰の差し金か。



 護衛の必要の無い龍神殿内部に居て、ユーゴにサンローズ護衛の任務が下る。


 これには当初、サンローズとユーゴも困惑した。


 そして普段は立ち入りが禁じられている「龍の住み家より深い地下の龍穴にて、とある儀式を行うように」と。



 実際にはアイリスの想像の(そと)のことが起きていたのだ。








 本編スタートまでに幕間を2つか3つ挟む予定です。

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