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つばめきたる  作者: 月島金魚
【夏】
20/93

18、おとしものさがし(前編)



夏さま登場です。

とにかく楽しめ、それが夏の宮のモットー。





「つばきさん、なんだかすごい頭の方がいます……」


 (すずめ)の指差すほうを見やると、遠くひまわり畑の中で七色の後頭部が見え隠れしていた。


「……夏さまだな」

「えっ、四季の?」

「夏は他にいないだろう」

「いや、だって、レインボーですよ。はっちゃけすぎでしょう。偉い方なのに……」


 けっこうな距離があるのだが、聞こえたかのようなタイミングで夏がこちらに振り向いた。あいだのひまわりがさっと両脇に体を倒す。さながらモーゼの道である。よさこいの衣装のような袖なし長はっぴが周囲の景色から浮いている。下界はまだ梅雨だというのに、夏の顔は日に焼けて真っ黒だった。


「おおーい、そこにいるのはつばきと雀くんだね。ひまなのかーい?」


 玄鳥至(つばめきたる)は間髪入れず、


「ひまじゃありませーん。さようならー」

「待ちなさーい」


 虹色頭がひょこひょこ跳ねる。すると次の瞬間、夏は二人の目の前にいた。


「そう急ぐこともなかろう。なんの用事か知らないけれど」

「少なくとも、かくれんぼにおつき合いできるほどひまではないのです」

「かくれんぼじゃないよ。毎年恒例、梅子(うめこ)の落とし物探しさ」


 夏は肩まである髪の右側――赤色の部分――をかき上げて、その流れで指をパチンと鳴らした。


「ほうら、みんな出ておいで!」


 ひまわり畑のあちらこちらにニョキッニョキッと首が出た。どいつもこいつもよく焼けている。玄鳥至は人差し指をちょいちょいと動かしてそれを数えた。


「ひのふのみ……五か。男衆は温風(あつかぜ)半夏(はんげ)以外は皆いるな。うちは男が多いが、夏季は女が多いんだ。両性体は一人しかいない」


 顔を出した女性の暦は三人だった。いちばん近い位置にいる蛙始鳴(かわずはじめてなく)がこちらに向かってぶんぶん手を振っている。その後ろでは二十四節気・小満(しょうまん)とその末候である麦秋至(むぎのときいたる)が、真っ赤な顔をお互いの麦わら帽子で扇ぎあっている。


 蛙始鳴が口の横に手を当てて声を張り上げた。


「夏さまー、もうお昼休憩にしませんかー? わたしたち、倒れちゃいますよー」

「それはいけない! 全員、手を止めてここに集合!」


 夏はくるりと玄鳥至に向き直った。


「〈夏さま〉ってさあ、どう思う?」

「どうとは?」

「〈夏〉に〈さま〉だよ? 夏、サマー。二回も名を呼ばれている気分だよ」

「はあ……そうですか」

「つれないねえ。ねえ、君、こんな男のもとでつまらなくない?」


 急に話を振られ、雀はびくっと肩を跳ね上げた。


「いや、おれは……。つばきさんと一緒に働くのは楽しいです」

「働くって、ほんとうに(、、、、、)働いているんだろう? それで楽しいなんて信じられないな」

「ええっと、それはどういう意味で……?」


 夏はバッと両腕を広げ、天に向かって高らかに言い放った。


「働くことは生を楽しむことだ! すなわち遊びだ! 労働とは遊びに他ならない!」

「いや、労働は労働ですよ」


 玄鳥至が口をはさむと、夏は嫌いな食べ物をうっかり口にしたような顔をした。


「ほぅら、これだ。だから我が宮に来るのが遅くなったんだね。わたしはこうして雀くんとおしゃべりするのを、首をながぁくして待っていたっていうのにさ」

「それはすみませんでした。任期がありましたので……」

「任期なんてとっくに終わっているだろうに。どうせ雀くんを巻き込んで四六時中ツバメを見張っていたんだろう。ああ、いやだ、いやだ。この男ったら、くそ真面目もいいとこなんだから。でもちょうどいい時に来たと思うよ」


 ぞろぞろと夏季の暦たちがやってきた。皆汗だくで、健康的に肌を輝かせている者と、心の底から太陽を呪っていそうな者との半々だった。


「よーう、つばき! そしてお前さんが噂の雀だな? はじめまして! いい夏だね!」


 五十代半ばの男が茹でられたタコのような頭をつやつや光らせ、白い歯を見せつけてきた。二十四節気の大暑(たいしょ)である。ビール腹にぐっしょり濡れて張りついた白いタンクトップは、見ているだけで蒸し暑さがいや増す気がした。


「大暑のおっさん、あんまり近づかないでやんなよ。汗臭いぜ」

「えっ、そうかあ? 男同士だろ、気にしないよ」

「男だって気にする奴はいるんだよ! このボクとかね!」

「ミズルは神経質だからなあ」


 ミズル――蚯蚓出(みみずいずる)はいやそうに顔を背け、灼熱の下はもう一秒たりとも耐えられないとばかりに壁の影に逃げ込んだ。見れば夏と大暑以外は皆そこにいた。


 その中にひと際老いた姿がある。色黒で細身だが筋肉質だ。老爺は短く刈られた白髪頭や首すじや、綺麗な富士額にとめどなく流れ落ちる汗を手ぬぐいで拭いながら、しゃんと背筋を伸ばして日の下へと進み出た。


「夏さま、ひまわり畑はもうやめにしましょうや。この爺、死なずとも意識が遠退いちまいそうです。これだけ探してもないんですから、昼の後は屋内のおなご衆と合流して、天地視書(てんちししょ)で下界を探しましょう。今年もどうやらそっちの線のようですよ」

「我慢強い小暑(しょうしょ)が限界なら、他の者はもっと無理か。タケ、お前もか?」


 竹笋生(たけのこしょうず)は短い子どもの手足を伸ばして座り込んでいた。


「飽きました」

「そうだろうな! キリショウ、お前は?」


 蟷螂生(かまきりしょうず)は水筒から口を離し、悲痛な声で訴えた。


「やる気を出そうにも、女性陣が構ってくれないんス」

「そうだね。お前にはそこが重要だったね」


 うーん、とまた赤髪の部分をかき上げて、夏は玄鳥至と雀にとびきりの笑顔を見せた。


「天地視書に移ることにした!」

「それを期待していました」


 夏は片眉を持ち上げて玄鳥至の顔を覗き込んだ。


「おやおや? さては君、それを雀くんに見せるために今の時期を選んだな?」

「ご明察です。さすがは夏さま」

「まったく以てかわいげがない。はじめから参加するつもりだったんじゃないか」


 ここで雀が疑問を口にした。


「夏さま、先ほどから皆さんは何を探していらっしゃるんですか?」





この後続きを上げます。少々お待ちください。



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