3人目
魔人との討伐後は思った以上に疲れたので、家でまったりしていたが、スルメイカが食べたくなったので、外出していた。
「久々の飯。何日かに一回しか食えない」
就活しなきゃいけないか。魔王でも現れてパーッと終わらせてくれないかな。
家に帰るとアパートの鍵が開いていた。というより取っ手が破壊されている。何者かが侵入したのだ。派手にやったから魔人が来たのかも。エネルギー残量はもう1万程度。やれるか分からん。…まあ良いか。
ドアノブではなく扉を直接開く。
「お帰りなさい!」
元気な声でエルザが迎えてくれる。
「お帰りなさい」
もう1人。前にもうあった。京極遥さんがいた。髪は赤毛だが、クセはなくストレート。日本人の顔立ちだ。身長は160くらいかな。引き締まった身体。歳はエルザと同じ22歳と聞いたか。 2人とも中でお茶を飲んでいる。俺の数少ない財産がまた減ってしまった。
「なぜここにいる」
「口座とか聞いてなくて、前の配信のお金を振り込みたいんですよ」
「いらん。てかどうやって入った?」
「扉から」
俺は扉を見返すと、中からでも破壊されたドアノブが見える。
「鍵かかってなかった?」
「はい! 壊しました!」
「壊しましたじゃねーよ! 俺を25年守ってくれた大切な鍵だ!」
「弁償しますので、えへへ」
笑って誤魔化すエルザ。この可愛さなら誰でも許してしまうのだろう。
「それより口座!」
「だからいらん。エルザのチャンネルでやったんだ。全部エルザのものにしろ」
「そうはいきませんよ」
険悪な感じを避けるため、京極さんが口を開く。
「魔人倒したの見ました。政府の人も見たはずです。国からかなりの額の褒賞が出ます。あと神具の贈呈も約束されてます」
「いらん。辞退する。国からは何ももらわない」
何もせずにここまで来て、良い顔されるのがムカついてたまらん。
「生活大変じゃないですか?」
「たまに食えるから平気だよ」
「たまにって…家賃とか」
「ここは不思議なとこでな。金取りに来ないんだよな」
家賃なんて5年くらい前から払った記憶がない。
「それって大家さんが亡くなってるのでは。そんなとこに住んでると不法滞在とか」
「死んだなら知らせる義務があるだろ。平気さ」
話すのも疲れたので、外でゆっくりスルメイカを食べることにした。
「あれ? どこ行くんですか?」
「どこでも良いだろ。俺が戻るまでには帰ってくれ」
そのまま踵を返すと、どこか落ち着ける場所を探しに行く。
__
「ふーん。まだ心を閉じられてる感じ」
エルザがむくれている。
「仕方ないんじゃない? あの人の経歴調べたけど、私ならもう死んでるかな」
遥が思い出し泣きし始めるレベル。
「そんなに酷いんだ。でも辛い過去を持つ人は多いよ。両親や仲間を亡くした人だって沢山いる」
「辛さの基準なんて人が決めるもんじゃないよ。人それぞれに限界がある。簡単に前を向きましょうなんて私は言えないかな」
京極は能無海と神木戦を見て衝撃を受ける前は自分のギルドを持ち、団長として活躍していたが、能無の仲間となる決意をしたその場で団長を辞するという決断し、今ここにいる。
何かの基準は人それぞれというのは団長の経験から色んな人を見てきた京極の中での考え方でもある。
エルザは語られる能無の人生を黙って聞いていた。そこにいつもの笑顔はなかった。
「ありがとう。遥ちゃん。それでも私は…」
その時扉がノックされる。
「政府の者です。3人目の魔人単独討伐者への褒章の剣で参りました。能無さん。いらっしゃいますか?」
エルザと遥の視線がぶつかる。
「代理の者ならいます」
それでも私は、海さんに強くなってもらいたい。それがエルザが出した答えだった。
__
ブラブラ歩いていたら、山の中にいた。そこら辺に座り、スルメイカを食べる。季節は冬に近づきつつあるためか、虫はそんなにいなかった。
「やはりうまい! 俺の生きる希望。しかしなぁりょうがなぁ」
ちょうど山の中であることを思い出す。
「山菜を食うか。生でもうまいからな」
更に山の奥へと歩を進める。
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暫く山の中を進む。掛け声のようなものが聞こえてくる。
「ほっほっほっほっ」
スコップを持ち、地面を掘るオッサンがいた。身長は170くらいでTシャツに短パン姿。髪は少し頭皮が目立ち始めている。無精髭を生やしているが、整えればそれなりの紳士なのではないか。ちなみに今は冬である。
「畑仕事ですか?」
俺はオッサンに話しかける。
「いや、分かんないんだけど、温泉掘ってる。スローライフっぽいでしょ?」
なるほど。スローライフは初めてらしく、それらしいことをしているようだ。知識はまるでない。
「や、山の生活はどうですか?」
再度質問してみる。
「思ったよりも退屈ですなぁ。野菜は育たないし、ペットは逃げて行方不明だし、虫は多いし、スマホは繋がらない」
不満しかないじゃねーか。
「ところで君誰?」
「あ、能無海と申します。貴方は?」
「3度目の人生を生きる男。輪廻天誠だよ」
「へぇ」
まるで興味がない俺とは対照的にオッサンこと輪廻天誠さんがこちらに興味を示す。
「3度目の人生って。記憶があるんですか? 長いなぁ」
「なんで知ってるの?」
「え? ご自分で仰ったんですよね?」
「………忘れた。いや、合計すると120歳くらいだからね。物忘れが酷くて。あっはっは!」
あっはっは! じゃねーよ。肝心なこと忘れてんなよ。
しかし輪廻さんか…輪廻!? この世界の勇者。この人が。何だか緊張してきた。
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