表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
詩イ殺ス。  作者: 八田硝子
6/28

ウタイコロス・弐

「詩イ殺シテサシアゲマス」


街外れの貼り紙を

見て集まった彼らの目は


酷く荒んでいる


…と思っていた


私を見つめる彼らの目には

期待と

安らぎが

満ち溢れていた


ああ

死を望む彼らには

殺してくれる者は

神にも等しいのだ



人は神にはなれない



しかし私は

神を演じねばならない


私はゆっくりと

詩を詩い始めた


穏やかな

彼らの表情


私は彼らを

殺さねばならない


私は彼らの

神であらねばならない  







人が神になれるはずがない







【名を呼ぶ】



名を呼ぶ





名を呼ぶ





名を呼ぶ





名を呼ぶ





返事はこない


もう此処にいないひと







【あなたへの恐怖】



当然みたいに

馬鹿にして

見下して

罵るんですね



近寄らないでください

怖いのです



あなたが怖いのではありません



あなたを殺してしまいそうな

自分が怖いのです







※この詩は本日里帰り中の親愛なる姉上に捧げます







【ボイス】



他人との

コミュニケーションは

不必要だ


だからあたしは

声を売り飛ばした

どうせ使わないと

いらないと



迂闊だった

声は

泣き叫ぶためにもあるのだ



心の内にのたうち回る

狂おしい感情を

吐き出したくて

喉を掻きむしるけど



口から出るのは

かすかな空気の漏れる音



感情は

行き場を無くして

あたしの内を

焼き焦がす







【病の差】



若くして亡くなった方がいると

皆は「かわいそう」と同情する


そうだね確かにかわいそう


だけど若くして自殺したりすると

「命を粗末にする奴は馬鹿」

「死にたい奴は死ね」

「死ぬ度胸があるなら生きろ」


あれ?


体を病んで死ぬこと

心を病んで死ぬこと


どちらも病で死んでるのに

この扱いの差は何かね?


どちらも病と闘って闘って

その末での死ではないのかね?







【夢を、見た】



君が死ぬ

夢を見た



正夢だったらよかったのに



それにしても

大笑いしながら目が覚めたのは

初めてだな



あは

あはははははははははは







【ヒーロー】



死神は

まじめで

仕事熱心でなければ

つとまらないのさ


ほら見てごらん

今日のニュースも

彼の活躍ばかり

放送してる


ヒーローってのは

彼みたいなのを言うのさ







【君なんか愛さない】



君なんか愛さないんだから


尻尾を振っても無駄なんだから


ふわふわしてても無駄なんだから


くんくんないても無駄なんだから


丸い目で見上げても無駄なんだから


かわいくても無駄なんだから


私は君なんか愛さないんだから








あの仔の代わりは

いないんだから







【指切り】



約束だよ

指切り




約束やぶったね

指切るからね




なんだかんだで

集まった

指の数は

百を越えた


ずいぶん嘘を

つかれたものだ


斯く言う私の指も

残すところあと二本


私も相当

嘘つきなのだ




どれかつけてみようかな







【私は生きている】



傷口が

痛い



生きている



私は生きている



死んでいない



涙が出る



うれしいのか

悲しいのか

わからない



私は生きている





うれしい の?







【耳鳴ケ丘】



こんな騒がしい雑音の中では

君の声が聞こえない


耳の中で鳴り響く音


あれは救急車の音

あれはパトカーの音

あれは遮断機の音

あれは爆撃機の音

あれは誰かの叫び声


鼓膜が破れそうなほど

激しい


聞こえるはずが無い



――……耳鳴り



こんなにうるさくては

君の声が聞こえないよ







【ここにいます。】



生きる意味がまったくもってわかりません



さりとて



死ぬ意味もまたちっともわからないのです



だから私は

ここにいます



どうしようもなく

ここにいます







【お姫さまの憂鬱】



あたし

お姫さまなの


みいんなあたしの言いなりよ


お父さまだってあたしにはかなわないんだから



ちょっと

そこの醜い生きもの


おお

なんて醜い

恐ろしいわ


ねええ

お父さま

あの醜い生きものの

首をはねてくださいな

汚らわしい


それにしても

お城の中の暮らしは退屈

この白い部屋から

一歩も外に出れないのだもの


「大事なものには鍵をかけなければいけないんだよ」って

手足に鍵をかけられているのだもの


面倒なことはみな

召使いどもがしてくれるけど


お城の生活はつまらないわ


お姫さまって大変だわ







【白】



偉そうに

ふんぞり返って

「私は正しい」

そればかり繰り返す




あなたが正しいというのなら


汚れた手は

どこに切り捨ててきたのです?


汚れて抉った皮膚は

どこに隠しているのです?


正しくあるために

汚いところを削っていった

あなたの体は

醜く歪んで



それでもあなたは正しいと言う

世界もそれを正しいと認める


この世界は

歪んだ正しさが支配する


歪んだ白が支配する







【烏】



烏よなくな

嘆けども


お前の可愛い

七ツの子は


もはや人の手に

潰された


可哀想

可哀想と

烏はなくの


悲し

悲しと

なくのだよ


山の古巣へ

お帰り烏


街じゃあお前は

忌まわしき

厄介者と

呼ばれるだけ







【羽化】



ああ

あの子はもうすぐ

背中が割れて

美しい翅が

生えてくるよ


きっと綺麗な

蝶になる





翅を手折ったら

楽しいよ







【君を守る】



「君を守る」なんて

そんな力もないくせに


これで何人目だろうね


目の前から

泣いて逃げた奴


目の前で

死んでいった奴


守り切れる力が無いなら

そんな約束はするんじゃない


もっとも同情しなくもない

彼らだって思わなかったろう


守っているはずのその背中を

あたしに刺されるなんてことは


最大の敵は

あたしなんだよ







【絶唱】



建物もろとも

地に叩きつけられた

恐怖の歌声







救い無き地面から

それでも助け求め叫ぶ

悲しみの歌声







天へとのぼれと

願う歌声じゃかなわない

地の底からの

絶望の歌声







命の

絶唱







【独りじゃないって素敵だね】



君は独りじゃないよ


世界中に

「自分は独りきりだ」

と想ってる人は

大勢いるから


君は独りじゃない



こんなこと言ったって

聞きやしないから



君は独りなんだろうね







【ハッピィ・バースディ】



泣かせてください

泣かせてください


私は

生きるという苦しみを

与えられた


泣かせてください


おめでとう

おめでとう


私をこの苦界に

引きずりだした者達が

仲間が増えたのを

喜んでいる


泣かせてください


生きるのが怖いの








評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ